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待ち受けるもの
第81話 流動 ~レイファー 1~
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城を出るときに、三番目の兄に見咎められた。
ロマジェリカの遣いの件で、泉翔侵攻の準備はどうなっているんだと、ネチネチと嫌味を言ってくる。
国境沿いの指揮に出るからと、適当に聞き流して逃げてきたが、いつもながら気分が悪い。
表情にそれがあらわれていたのか連れ立ってきたピーターとケインまで、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
今日のジャセンベルは強い風が吹き、ロマジェリカや庸儀の方角から巻きあげられた砂で晴れているはずの空が黄みがかって見えた。
「凄い風ですね。陽が暮れ始めて冷え込んできたら、夜にはもっと強くなるかもしれませんよ」
ケインが車の幌をしっかりと閉じた。
遠くの空には厚い雲が広がり始め、風の勢いにも流されずにどっしりと構えている。
今夜は雨になるのだろうか。
「兄上のおかげでだいぶ出遅れたな。この風できついだろうが、少しばかり急いでくれ」
「わかりました」
ここ数年、風の強い時期になると、空の色が変わるほどに砂が舞いあがるようになった。
それは必ず、ロマジェリカか庸儀から吹くときだけで、ヘイト側からのときには、こんなことにはならない。
これ一つを取っただけでも、二国の土地がどれほど荒れているのかがわかる。
特にロマジェリカは、本当に緑が少ない。
国境沿いから攻め込むときも、大地に視界をさえぎるものがほとんどない。
あんな土地に人が暮らしていけるのか、レイファーはいつも疑問に思っていた。
荒れていく原因の一つに、ジャセンベルが進軍していることも加担しているのかと思うと、やり切れない思いを抱く時期もあったけれど、今はほんの少しだけ、どこか割り切って考えている。
(いずれは、自分の手で――)
「レイファーさま、このまま行くと、うちの拠点に相当近い場所に出ます」
「そういえば、確かに近いな」
国境に沿って続いている森と丘陵に、今は拠点を張っていた。
この辺りにはかなりの数を配備させている。
誤ってサムの部隊に手を出さないよう、ジャックとブライアンをこの付近と庸儀近くに張っている拠点へ向かわせてあるけれど、大軍でもあらわれたなら、穏やかでは済まないだろう。
「やつら、一体、どこからどれだけの人数で出るつもりなんでしょうか?」
「さぁな、ただ、この辺りで規模の大きな部隊が動けば、うちの兵たちがなにも気づかないわけがない。そう考えると、少数であちこちから一点を目指すのかもしれないな」
「そういえばあの男、全員が一緒にいるわけではないと言ってましたね」
森を抜けると、幌に大粒の砂がパラパラと降りかかる。
拠点とは反対へ向かって車を走らせ、サムと打ち合わせた場所へたどりついたときには、陽が傾きかけていた。
車をおりると、城を出たときよりは風が弱くなったものの舞う砂のせいで周囲の様子がはっきりとわからない。
そのうえ口の中が砂に塗れている気がして、すぐにマスクとゴーグルを着けた。
助手席のシートに地図を広げたピーターが、拠点の位置と今の位置、ロマジェリカの城にペンで印をつける。
「もし、ここが出発点になるなら、きっと拠点を避けて西へ廻り込み、この方角から城へ向かっていくのではないでしょうか?」
「このルートをたどれば、庸儀の国境付近からも合流できるな」
「ええ、部隊がわかれているとしたら、このルートは使い勝手がいいでしょう」
吹き抜ける風のせいで、自然と声が大きくなる。
「ただ、ここがいくら城に近いといっても、やはりそれなりに距離はあります」
「こんななにもないところでは、身を隠しようもない……奇襲にはならないんじゃないでしょうか?」
ケインとピーターの問いかけに、レイファーも同じことを思った。
「詳細情報を獲ると言っても、難しいだろうな」
「……やれることといえば、精々、ロマジェリカの兵数を減らし、深手を負わないうちに撤退することくらいじゃあないだろうか? そう、お思いでしょう?」
挑発的な口調で問いかけられ、レイファーはマスクを取って振り返った。
「まぁな、そんなところだ」
「十分なんですよ、それで。大陸へ残していく兵数が少なくなれば、あとのことがやりやすい。ロマジェリカはどうしても泉翔への侵攻に、兵を減らしたくないようですからねぇ」
いつの間にやって来たのか、サムはこちらをチラリと見ると、すぐに車の周りを念入りに調べた。
ロマジェリカの遣いの件で、泉翔侵攻の準備はどうなっているんだと、ネチネチと嫌味を言ってくる。
国境沿いの指揮に出るからと、適当に聞き流して逃げてきたが、いつもながら気分が悪い。
表情にそれがあらわれていたのか連れ立ってきたピーターとケインまで、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
今日のジャセンベルは強い風が吹き、ロマジェリカや庸儀の方角から巻きあげられた砂で晴れているはずの空が黄みがかって見えた。
「凄い風ですね。陽が暮れ始めて冷え込んできたら、夜にはもっと強くなるかもしれませんよ」
ケインが車の幌をしっかりと閉じた。
遠くの空には厚い雲が広がり始め、風の勢いにも流されずにどっしりと構えている。
今夜は雨になるのだろうか。
「兄上のおかげでだいぶ出遅れたな。この風できついだろうが、少しばかり急いでくれ」
「わかりました」
ここ数年、風の強い時期になると、空の色が変わるほどに砂が舞いあがるようになった。
それは必ず、ロマジェリカか庸儀から吹くときだけで、ヘイト側からのときには、こんなことにはならない。
これ一つを取っただけでも、二国の土地がどれほど荒れているのかがわかる。
特にロマジェリカは、本当に緑が少ない。
国境沿いから攻め込むときも、大地に視界をさえぎるものがほとんどない。
あんな土地に人が暮らしていけるのか、レイファーはいつも疑問に思っていた。
荒れていく原因の一つに、ジャセンベルが進軍していることも加担しているのかと思うと、やり切れない思いを抱く時期もあったけれど、今はほんの少しだけ、どこか割り切って考えている。
(いずれは、自分の手で――)
「レイファーさま、このまま行くと、うちの拠点に相当近い場所に出ます」
「そういえば、確かに近いな」
国境に沿って続いている森と丘陵に、今は拠点を張っていた。
この辺りにはかなりの数を配備させている。
誤ってサムの部隊に手を出さないよう、ジャックとブライアンをこの付近と庸儀近くに張っている拠点へ向かわせてあるけれど、大軍でもあらわれたなら、穏やかでは済まないだろう。
「やつら、一体、どこからどれだけの人数で出るつもりなんでしょうか?」
「さぁな、ただ、この辺りで規模の大きな部隊が動けば、うちの兵たちがなにも気づかないわけがない。そう考えると、少数であちこちから一点を目指すのかもしれないな」
「そういえばあの男、全員が一緒にいるわけではないと言ってましたね」
森を抜けると、幌に大粒の砂がパラパラと降りかかる。
拠点とは反対へ向かって車を走らせ、サムと打ち合わせた場所へたどりついたときには、陽が傾きかけていた。
車をおりると、城を出たときよりは風が弱くなったものの舞う砂のせいで周囲の様子がはっきりとわからない。
そのうえ口の中が砂に塗れている気がして、すぐにマスクとゴーグルを着けた。
助手席のシートに地図を広げたピーターが、拠点の位置と今の位置、ロマジェリカの城にペンで印をつける。
「もし、ここが出発点になるなら、きっと拠点を避けて西へ廻り込み、この方角から城へ向かっていくのではないでしょうか?」
「このルートをたどれば、庸儀の国境付近からも合流できるな」
「ええ、部隊がわかれているとしたら、このルートは使い勝手がいいでしょう」
吹き抜ける風のせいで、自然と声が大きくなる。
「ただ、ここがいくら城に近いといっても、やはりそれなりに距離はあります」
「こんななにもないところでは、身を隠しようもない……奇襲にはならないんじゃないでしょうか?」
ケインとピーターの問いかけに、レイファーも同じことを思った。
「詳細情報を獲ると言っても、難しいだろうな」
「……やれることといえば、精々、ロマジェリカの兵数を減らし、深手を負わないうちに撤退することくらいじゃあないだろうか? そう、お思いでしょう?」
挑発的な口調で問いかけられ、レイファーはマスクを取って振り返った。
「まぁな、そんなところだ」
「十分なんですよ、それで。大陸へ残していく兵数が少なくなれば、あとのことがやりやすい。ロマジェリカはどうしても泉翔への侵攻に、兵を減らしたくないようですからねぇ」
いつの間にやって来たのか、サムはこちらをチラリと見ると、すぐに車の周りを念入りに調べた。
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