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動きだす刻
第84話 接触 ~巧 1~
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すべてを聞き終えた徳丸が最初に言葉を発した。
「おまえら……人のいないあいだにとんでもねぇことに首を突っ込みやがったな」
「なによ? お互いさまでしょ」
巧も同じことを思っていただけに、軽く嫌味で返した。
思わず顔を見合わせて笑ってしまう。
それでも今は、これが最良だと思える。
今後の泉翔にとっても……。
「でもさ、こうなると情報が必要だよね? 反同盟派でもジャセンベルでも、互いに収集はしているだろうけどね」
「それとは別に、俺たちだけでもっと詳細に、ってこと?」
膝を揺らしながら考え込んでいる梁瀬に、穂高が問いかけた。
巧自身も、そこが重要であると思っている。
「そうね……なにしろ私らは、大陸に関しちゃさっぱり知識がないわけだもんねぇ」
「それに、麻乃のこともある。麻乃の状態を、俺たちは知っておかなきゃならねぇぞ」
それも当然ながら重要だ。
今の麻乃がどうあってロマジェリカにいるのか、麻乃を取り巻く環境や置かれている立場も。
三国にとって泉翔侵攻をするには、麻乃は欠かせない存在に違いない。
中心に立つのか、泉翔の情報を流すのかどうか、それさえもわからないのだから。
「盗れるのかなぁ、情報……」
この面子で、情報を収集できるほどの力を持っているのは梁瀬だけだ。
ロマジェリカや庸儀がどんな形でそれを防ぐ手段を用いているのかわからない。
だから不安がつのるのも当たり前だろう。
さすがに巧も返す言葉もない。
全員が押し黙ったままで、数分が過ぎたころ、部屋中に甘い香りが広がった。
「思った以上に決断が早くて驚いたよ。鴇汰くんにもその柔軟さを見習わせたいほどだ」
クロムが苦笑しながら、巧たちの前にカップを並べ、お茶を注いでくれる。
巧もみんなも、すっかりその存在を忘れていた。
「梁瀬くんは確か、式神が使えるね? 穂高くんもだ」
「えぇ……でも僕らのは連絡を取り合うだけにしか使ったことがなくて」
「それで十分だ」
クロムも椅子に腰を下ろし、お茶に口を付けて一息ついた。
「泉翔にも諜報として情報収集をしに大陸へ来るものがいるだろう?」
「ええ、でも彼らがどんな手段を用いているのか、私たちは知らないんです」
「そうだろうね。泉翔でも、それを知っているのは本人たちだけだ。軍の上層部であろうが王であろうが知らないことだ」
「……でも、なんでクロムさんはそんなことを知ってるんです?」
穂高がそう問いかけた。
確かに、泉翔で諜報の手段を諜報の人間しか知らないと言う話しを、なぜ、クロムが知っているのか。
「鴇汰くんの父親が、泉翔の諜報をしていたんだよ」
「そう言えば……確かにその話しは伺いました」
泉翔の諜報たちは大陸での情報を収集する目的で、あえて大陸へ残って暮らすものもいると言う。
それはずっと昔からあったことで、今でも時折、大陸に永住するものもいるそうだ。
長く暮らすほどに土地の血と混じり、親から子へと為すべきことが語り継がれ、各国でその重要なポストに喰い込んでいるものさえいると、クロムは言った。
「義兄の場合は、少しそれとは違ったわけだけれど、それでも彼らは密に連絡を取り合っていたよ。だからロマジェリカで起こった惨劇も、ある程度の早いうちに情報が入って来たしね……」
「だけど、俺たちには彼らがどんな人かもわからないし、繋ぎの付けようもないですよ」
「それは私から連絡を取って、すべてがスムーズに運ぶように頼んでくるよ。キミたちを巻き込んだ以上、私の義務だと思っているからね」
思わず穂高と顔を見合わせた。
梁瀬も徳丸も互いにそうしている。
クロムが各国の情報を持ち、あちこちへ、移動を重ねているのはもしかするとそう言った人々とのやり取りもあるのかもしれない。
きっと巧たちが考える以上に、クロムは細かな事柄を知っているに違いない。
なのになぜ、自身は大きな動きを見せないのだろう?
そんな思いが伝わったかのように、クロムはピシャリと言った。
「勘違いをしてもらっては困るな。私は誰の肩を持つわけじゃない。泉翔の人間でもない。泉翔でこれから起こるべくことに対応するのは、キミたち自身だ。だからこそ、キミたちは自分たちで考え、悩みながらも答えを出さなければいけない。そして出た答えに向かって行動をどう起こすか、それを決めるのもキミたち自身でなければならないんだよ」
「おまえら……人のいないあいだにとんでもねぇことに首を突っ込みやがったな」
「なによ? お互いさまでしょ」
巧も同じことを思っていただけに、軽く嫌味で返した。
思わず顔を見合わせて笑ってしまう。
それでも今は、これが最良だと思える。
今後の泉翔にとっても……。
「でもさ、こうなると情報が必要だよね? 反同盟派でもジャセンベルでも、互いに収集はしているだろうけどね」
「それとは別に、俺たちだけでもっと詳細に、ってこと?」
膝を揺らしながら考え込んでいる梁瀬に、穂高が問いかけた。
巧自身も、そこが重要であると思っている。
「そうね……なにしろ私らは、大陸に関しちゃさっぱり知識がないわけだもんねぇ」
「それに、麻乃のこともある。麻乃の状態を、俺たちは知っておかなきゃならねぇぞ」
それも当然ながら重要だ。
今の麻乃がどうあってロマジェリカにいるのか、麻乃を取り巻く環境や置かれている立場も。
三国にとって泉翔侵攻をするには、麻乃は欠かせない存在に違いない。
中心に立つのか、泉翔の情報を流すのかどうか、それさえもわからないのだから。
「盗れるのかなぁ、情報……」
この面子で、情報を収集できるほどの力を持っているのは梁瀬だけだ。
ロマジェリカや庸儀がどんな形でそれを防ぐ手段を用いているのかわからない。
だから不安がつのるのも当たり前だろう。
さすがに巧も返す言葉もない。
全員が押し黙ったままで、数分が過ぎたころ、部屋中に甘い香りが広がった。
「思った以上に決断が早くて驚いたよ。鴇汰くんにもその柔軟さを見習わせたいほどだ」
クロムが苦笑しながら、巧たちの前にカップを並べ、お茶を注いでくれる。
巧もみんなも、すっかりその存在を忘れていた。
「梁瀬くんは確か、式神が使えるね? 穂高くんもだ」
「えぇ……でも僕らのは連絡を取り合うだけにしか使ったことがなくて」
「それで十分だ」
クロムも椅子に腰を下ろし、お茶に口を付けて一息ついた。
「泉翔にも諜報として情報収集をしに大陸へ来るものがいるだろう?」
「ええ、でも彼らがどんな手段を用いているのか、私たちは知らないんです」
「そうだろうね。泉翔でも、それを知っているのは本人たちだけだ。軍の上層部であろうが王であろうが知らないことだ」
「……でも、なんでクロムさんはそんなことを知ってるんです?」
穂高がそう問いかけた。
確かに、泉翔で諜報の手段を諜報の人間しか知らないと言う話しを、なぜ、クロムが知っているのか。
「鴇汰くんの父親が、泉翔の諜報をしていたんだよ」
「そう言えば……確かにその話しは伺いました」
泉翔の諜報たちは大陸での情報を収集する目的で、あえて大陸へ残って暮らすものもいると言う。
それはずっと昔からあったことで、今でも時折、大陸に永住するものもいるそうだ。
長く暮らすほどに土地の血と混じり、親から子へと為すべきことが語り継がれ、各国でその重要なポストに喰い込んでいるものさえいると、クロムは言った。
「義兄の場合は、少しそれとは違ったわけだけれど、それでも彼らは密に連絡を取り合っていたよ。だからロマジェリカで起こった惨劇も、ある程度の早いうちに情報が入って来たしね……」
「だけど、俺たちには彼らがどんな人かもわからないし、繋ぎの付けようもないですよ」
「それは私から連絡を取って、すべてがスムーズに運ぶように頼んでくるよ。キミたちを巻き込んだ以上、私の義務だと思っているからね」
思わず穂高と顔を見合わせた。
梁瀬も徳丸も互いにそうしている。
クロムが各国の情報を持ち、あちこちへ、移動を重ねているのはもしかするとそう言った人々とのやり取りもあるのかもしれない。
きっと巧たちが考える以上に、クロムは細かな事柄を知っているに違いない。
なのになぜ、自身は大きな動きを見せないのだろう?
そんな思いが伝わったかのように、クロムはピシャリと言った。
「勘違いをしてもらっては困るな。私は誰の肩を持つわけじゃない。泉翔の人間でもない。泉翔でこれから起こるべくことに対応するのは、キミたち自身だ。だからこそ、キミたちは自分たちで考え、悩みながらも答えを出さなければいけない。そして出た答えに向かって行動をどう起こすか、それを決めるのもキミたち自身でなければならないんだよ」
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