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大切なもの
第101話 決着 ~鴇汰 1~
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梁瀬の式神を飛び降り、麻乃と一緒に城門へマドルを追った。
城門前にはレイファーと、なぜか穂高がいる。
「なんで穂高がレイファーと一緒にいるんだ?」
「レイファー? 確かジャセンベルの王族だよね? ふうん……あれがそうなのか……」
鴇汰のつぶやきに麻乃が答えた。
穂高がレイファーと行動していることが不愉快ではあるけれど、今はそれどころじゃあない。
まずはマドルだ。
馬を降りたマドルは鴇汰たちにも気づいたのか、こちらを振り返り薄笑いを浮かべた。
城壁に沿って伸びる左右の通りには、ジャセンベル兵たちが道をふさぎ、逃げようもないはずなのに、余裕の態度だ。
「……わざわざ麻乃を連れてきてくれるとは。泉翔人が温いというのは噂通りですか」
「なにを言っていやがる! おまえに麻乃を渡すわけがねーだろ!」
マドルは麻乃に目を向けると、眉をひそめた。
恐らく痣がなくなっているのを確認したんだろう。
「麻乃にはもう入り込めねーよ。おまえの術は解けたんだ」
「ならば……何度でもかけ直すまで。私の邪魔をするというのなら排除するまで!」
マドルがロッドを振った瞬間、麻乃が鴇汰の前に飛び出し、刀で術を防いだ。
さっきは二刀で対応していたけれど、今度はいつも麻乃が帯刀していた刀だけだ。
「あたしも何度も無駄だといったはず。鴇汰はもとより、誰も傷つけさせやしない」
「そうやって庇ったところで、貴女のしたことは消えやしないのに?」
そういってマドルはまたロッドで地面を突いた。
耳鳴りがして鴇汰の体が強張る。
レイファーも穂高も、周囲のジャセンベル兵たちも動かないのは、鴇汰と同じく金縛りにかかっているからに違いない。
「これだけのことをした貴女に、泉翔側が好意的なままでいてくれるとお思いですか?」
そんなはずはないと、誰もが麻乃を憎み、恨んでいるに違いないと、マドルはそういって麻乃を揺さぶる。
惑わせてまた暗示に掛けるつもりでいるのか。
虎吼刀でぶった切ってでもマドルの口を止めたいのに、柄を握った手が微かに震えるだけで身動きが取れない。
麻乃は一気に間合いを詰めると、マドルに斬りつけた。
ロッドで刀を受けたマドルの顔がゆがむ。
「憎まれるのも恨まれるのも承知している……」
「ならば! こんな世など捨て、私と新たな世界を築いてゆけばいい!」
「あたしはそんなことは望まない。ほかの誰もがなにを思おうと、あたしを疎ましく思おうと、そんなことはどうでもいい。あたしは今のこの世界で十分に満足なんだから」
「そんなのはただの綺麗ごとだ。誰だって利用させる側より利用する側になりたいように、疎まれるよりも愛されたいはず……」
「それはあなた自身がそう思っているだけだろう? あたしは違う」
「なぜ否定する! 共に世界を創りかえれば、誰もが貴女に傅くというのに!」
「ここにはあたしが愛している……心から大切だと思える人たちがいるからだ」
麻乃はキッパリと言いきった。
ロッドで強く麻乃の刀を押し返したマドルは、懐から短剣を抜いた。
「ならばもう、貴女の意思などいらない……その体さえあればいい。あとは私の術で城内の兵たちとともにこの国を潰す」
麻乃の腕前は知っていても、術を使うマドルが相手では油断できない。
鴇汰はどうにか麻乃を庇おうともがくも、どうにも動けず声も出せない。
短剣を振りかざしたマドルと麻乃のあいだに、いくつもの影が割って入った。
「残る兵たちは、もう誰もあんたの味方はしないぞ」
「――コウ! 貴方まで私の邪魔をすると?」
灯りに映し出されたのは緑の軍服……庸儀の兵たちだ。
「あんたの目的はさっき聞いた。この人に危害が及ぶなどと、よくも俺たちを騙してくれたものだ」
「そうだ。この人に危害を及ぼしているのは、あんたのほうじゃあないか」
庸儀側は麻乃を邪魔に思っていたんじゃあないのか?
今、目の前にいる雑兵たちは麻乃を守っているようにみえる。
鴇汰は向かい側に立つ穂高とレイファーをみた。
街灯の灯りでは表情までははっきりとみえない。
けれど二人がさほど驚いたようにみえないのは、この雑兵たちが味方であると認識しているからだろうか?
「――次から次へと邪魔ばかり……なぜ誰もかれもこんなにも愚かなのか……!」
マドルは躊躇なく庸儀の兵たちに術を放ち、それをまた麻乃が前に出て止めた。
「加勢は不要だよ。決着はあたしがつける。マドルを倒す……それがあたしの落とし前だ」
麻乃はマドルに向けて刀を掲げた。
その刀身が、街灯の光を映して白く輝いた。
城門前にはレイファーと、なぜか穂高がいる。
「なんで穂高がレイファーと一緒にいるんだ?」
「レイファー? 確かジャセンベルの王族だよね? ふうん……あれがそうなのか……」
鴇汰のつぶやきに麻乃が答えた。
穂高がレイファーと行動していることが不愉快ではあるけれど、今はそれどころじゃあない。
まずはマドルだ。
馬を降りたマドルは鴇汰たちにも気づいたのか、こちらを振り返り薄笑いを浮かべた。
城壁に沿って伸びる左右の通りには、ジャセンベル兵たちが道をふさぎ、逃げようもないはずなのに、余裕の態度だ。
「……わざわざ麻乃を連れてきてくれるとは。泉翔人が温いというのは噂通りですか」
「なにを言っていやがる! おまえに麻乃を渡すわけがねーだろ!」
マドルは麻乃に目を向けると、眉をひそめた。
恐らく痣がなくなっているのを確認したんだろう。
「麻乃にはもう入り込めねーよ。おまえの術は解けたんだ」
「ならば……何度でもかけ直すまで。私の邪魔をするというのなら排除するまで!」
マドルがロッドを振った瞬間、麻乃が鴇汰の前に飛び出し、刀で術を防いだ。
さっきは二刀で対応していたけれど、今度はいつも麻乃が帯刀していた刀だけだ。
「あたしも何度も無駄だといったはず。鴇汰はもとより、誰も傷つけさせやしない」
「そうやって庇ったところで、貴女のしたことは消えやしないのに?」
そういってマドルはまたロッドで地面を突いた。
耳鳴りがして鴇汰の体が強張る。
レイファーも穂高も、周囲のジャセンベル兵たちも動かないのは、鴇汰と同じく金縛りにかかっているからに違いない。
「これだけのことをした貴女に、泉翔側が好意的なままでいてくれるとお思いですか?」
そんなはずはないと、誰もが麻乃を憎み、恨んでいるに違いないと、マドルはそういって麻乃を揺さぶる。
惑わせてまた暗示に掛けるつもりでいるのか。
虎吼刀でぶった切ってでもマドルの口を止めたいのに、柄を握った手が微かに震えるだけで身動きが取れない。
麻乃は一気に間合いを詰めると、マドルに斬りつけた。
ロッドで刀を受けたマドルの顔がゆがむ。
「憎まれるのも恨まれるのも承知している……」
「ならば! こんな世など捨て、私と新たな世界を築いてゆけばいい!」
「あたしはそんなことは望まない。ほかの誰もがなにを思おうと、あたしを疎ましく思おうと、そんなことはどうでもいい。あたしは今のこの世界で十分に満足なんだから」
「そんなのはただの綺麗ごとだ。誰だって利用させる側より利用する側になりたいように、疎まれるよりも愛されたいはず……」
「それはあなた自身がそう思っているだけだろう? あたしは違う」
「なぜ否定する! 共に世界を創りかえれば、誰もが貴女に傅くというのに!」
「ここにはあたしが愛している……心から大切だと思える人たちがいるからだ」
麻乃はキッパリと言いきった。
ロッドで強く麻乃の刀を押し返したマドルは、懐から短剣を抜いた。
「ならばもう、貴女の意思などいらない……その体さえあればいい。あとは私の術で城内の兵たちとともにこの国を潰す」
麻乃の腕前は知っていても、術を使うマドルが相手では油断できない。
鴇汰はどうにか麻乃を庇おうともがくも、どうにも動けず声も出せない。
短剣を振りかざしたマドルと麻乃のあいだに、いくつもの影が割って入った。
「残る兵たちは、もう誰もあんたの味方はしないぞ」
「――コウ! 貴方まで私の邪魔をすると?」
灯りに映し出されたのは緑の軍服……庸儀の兵たちだ。
「あんたの目的はさっき聞いた。この人に危害が及ぶなどと、よくも俺たちを騙してくれたものだ」
「そうだ。この人に危害を及ぼしているのは、あんたのほうじゃあないか」
庸儀側は麻乃を邪魔に思っていたんじゃあないのか?
今、目の前にいる雑兵たちは麻乃を守っているようにみえる。
鴇汰は向かい側に立つ穂高とレイファーをみた。
街灯の灯りでは表情までははっきりとみえない。
けれど二人がさほど驚いたようにみえないのは、この雑兵たちが味方であると認識しているからだろうか?
「――次から次へと邪魔ばかり……なぜ誰もかれもこんなにも愚かなのか……!」
マドルは躊躇なく庸儀の兵たちに術を放ち、それをまた麻乃が前に出て止めた。
「加勢は不要だよ。決着はあたしがつける。マドルを倒す……それがあたしの落とし前だ」
麻乃はマドルに向けて刀を掲げた。
その刀身が、街灯の光を映して白く輝いた。
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