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冒険者~修行~
何が真実?
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時間を少し遡る。
アルベルトと別れたフェリーチェは、部屋にやってきたグレースに連れられ、ガイと一緒に彼女の部屋に来ていた。
「お兄様たち大丈夫でしょうか?」
「お父様たちも動いてますし、アルも向かったから大丈夫ですよ」
「そうね」
2人が気を紛らわすために、最近の事など他愛ない話をしてた。
しばらくして、ドアがノックされたのでガイが開けると、メイドが2人入ってきた。
「「お茶をお持ちしました」」
「お茶でしたら、ぼ…私が入れます」
「「いいえ、私どもの仕事ですので」」
メイドたちは、ガイの申し出を断り淡々とお茶の用意を始めた。
その様子に、ガイは警戒を強めフェリーチェに通信を入れた。
{フェリーチェ、メイドの様子がおかしい。お茶もお菓子も口にしないで}
{分かった。確かに変だね。いつもの人と違うし}
フェリーチェはすぐにグレースに通信を入れた。
{グレース様、突然すいません。聞きたい事があります}
{何が聞きたいの?フェリーチェ}
{今日はいつもと違うメイドみたいですけど、リサさんとアンナさんはどうしたんですか?}
{リサとアンナは実家の方で問題が起きたみたいで、1週間ほど前からお休みなの。彼女たちは、ダイナー伯爵の紹介で一時的に雇用しているのよ}
(ダイナー伯爵?どこかで聞いたような…………忘れちゃった)
{グレース様、このメイドたちの様子がおかしいので、出されたお茶やお菓子は口にしないで下さい}
{え!?わ、分かりました}
フェリーチェは、何気なくグレースを見ると顔を引き吊らせた。
グレースの顔が、微笑んでいるのか緊張しているのか泣きそうなのか、分からないくらい凄い顔になっていたからだ。
{グレース様、顔!顔に出てますから、なるべく平常心でお願いします!}
{そんな……難しいわよフェリーチェ}
グレースが、なんとかいつもの顔に戻ると、メイドがテーブルの上に用意したものを運んできた。
並べ終わるのを見計らい、ガイが声をかけた。
「後の事は私が致しますので、お任せください」
「「いいえ、私どもの仕事ですので」」
「ここはいいですから、下がって下さい」
「「いいえ、私どもの仕事ですので」」
ガイの言葉にも、グレースの言葉にも同じ言葉を繰り返すだけで、動く素振りも見せないメイドは明らかにおかしかった。
ガイは念のために、アルに通信を入れるが繋がらず、クロードやサマンサにしても繋がらなかった。
「フェリーチェ、外と連絡が取れない。2人とも、僕の後ろに」
「え!?……結果だ!いつの間に!?グレース様!」
「はい!」
外と連絡が取れないと聞いて、フェリーチェが『心眼』で部屋を確認すると、結果で閉じ込められている状態だった。
フェリーチェとグレースは急いでガイの後ろに回った。
フェリーチェは、メイドの方も『心眼』で見たのだが、驚いて思わず声に出してしまった。
「嘘……何でこんな……」
「フェリーチェ?何が見えたんだ?」
「この人たち、種族は人間なんだけど……‘死体’って書いてあるの」
「では、アンテッドですか!?」
「いや、アンテッドなら種族が不死者になっているはずだよ。……どういう事だ?」
「とにかく、2人をどうにかしないと」
フェリーチェたちが困惑していると、メイド2人が動いた。
「作戦失敗……作戦失敗」
「強行策に移行します」
「『電撃』!」
メイドたちが襲いかかって来たので、フェリーチェは咄嗟に電撃を放ったのだが、一瞬動きを止めた後にすぐ攻撃してきた。
「全然、効いてない!?だったら、『時空障壁』!」
2人は結界に弾かれたが、それでも攻撃を止めなかった。
「取り合えず、この中にいれば大丈夫だと思うけど……」
「誰かが来るまで、このままですね」
「でもさ、外と連絡取れないよ。そうだ、眠らせよう!『睡眠』!」
「ダメ!『時空障壁』の中で魔法を使うと……私たち……が……」
「急に眠く……な……」
「え!?フェリーチェ!グレース!」
眠気で倒れかけたフェリーチェとグレースを支えたガイは、完全に眠っているのを確認すると2人を抱きかかえてクローゼットの中にそっと置いた。
「すまない。狭いが少し我慢してくれ。すぐ片付ける」
フェリーチェの頭を撫で、扉を閉めて振り返ったガイの雰囲気は先程までとガラっと変わっていた。
ガイはそのまま無言で歩くと、結界に手を触れてからメイドたちに声をかけた。
「哀れな……死んですぐに使役されたのか、それとも使役する目的で殺されたのか分からんが、誰であろうと我が主を害なす者は排除する。悪く思うなよ」
ガイが手を横に薙ぐと、『時空障壁』が消失した。
メイドたちはすぐに飛びかかるが、ガイの魔法の方が速かった。
「『風の刃』」
ガイの魔法で、メイドたちはズタズタに引き裂かれ、崩れ落ちた。
「さすがに筋を切られれば動けまい。すぐに楽にしてやるからな。『聖なる道』」
小刻みに動いていたメイドたちに、暖かな光が降り注いだ。
すると、2人の胸から淡く光る球体が出て来て頭上に登り消えると、完全に動かなくなった。
「上手くいったか。まったく、この俺が浄化魔法を使うとはな。さて、無傷だと怪しまれそうだから細工しておくか」
ガイは服を破り皮膚を剥がすと、クローゼットに背を預け座り込んだ。
すぐに部屋の外が騒がしくなり、アルベルトの気配を感じたので静かに目を閉じた。
ここで時間をガイが起こされた時に戻す。
「それで、何があった?」
「そこのメイド2人に襲われたんだ。フェリーチェの電撃も効かなくて、結界を張ったんだけと、僕がその中で眠りの魔法使ったから、フェリーチェとグレースが寝ちゃったんだ。フェリーチェが寝たから結界も解けて、慌ててクローゼットに2人を入れて魔法を使ったら暴発したんだけど、フェリーチェが眠る前に‘メイドたちは死体だ’って言ってたから浄化魔法を使ったら出来ちゃった」
「……………へぇ」
「………あ、あのさ、フェリーチェとグレースを起こさない?」
「………まぁいいよ」
ガイの証言を信じてないのか、アルはジト目で見ていたが、フェリーチェとグレースを起こす事にした。
アルが、ガイの魔法を解除すると2人は目を覚ました。
「ん~……あれ?いつの間に寝たのかしら?」
「グレース!良かった!」
「グレース!怪我はないな!」
「お父様!お母様!」
さすがに怖かったのだろう、グレースはエヴァンとアンドリアを見て2人に抱き付き涙を流した。
一方フェリーチェは、サマンサに抱き締められ身動きができなくなっていた。
「お、お母様……苦しい」
「良かった……本当に良かったわ。ガイ、2人を守ってくれてありがとう」
「お、お礼なんていいよ。今回は、マグレで勝てただけだから」
「それでも2人は無事だった。お前のおかげだ」
「そうだね。結果的に君を残して良かったよ」
「あっ!そうだ、あのメイドなんだけど―――」
フェリーチェは、自分の『心眼』で見た事を話した。
「一度その2人を、調べた方が良さそうですね」
「リサとアンナの安否も、確認した方が良いな」
エヴァンとルイスに指示された兵士たちが部屋を出ると、オースティンからフェリーチェに通信が入った。
{フェリーチェ!今どこにいる?}
{オースティンさん!?グレース様の部屋です!}
{分かった!}
通信を一方的に切ったオースティンが、グレースの部屋に現れた。
彼の腕にはぐったりしたアンジェラと、涙で顔を濡らし眠っているリヒトが抱えられていた。
「アンジェラさん!?」
「大丈夫、魔力切れだ。すまんが診てくれ」
「はい!リヒトは?」
「リヒトは気が抜けて寝てるだけだが、頼めるか?」
「はい!」
オースティンは、グレースに断りを入れてから2人をベットに寝かせた。
フェリーチェが治療を始めると、オースティンは離れた場所に移動した。
「いったい何があったのですか?」
「アルに言われて家に転移したら、男2人に襲われていたんだ。アンジェラは既に魔力切れで倒れそうになっていて、魔道具の結界で凌いでいた。すぐに攻撃をしたんだが、何度やっても倒れないから仕方なく首を切断したら動かなくなった。この様子だと、グレースも狙われたか」
「こっちはメイド2人じゃったわい。しかし、子どもばかり狙う理由はなんじゃ?」
「分からないが、今回の件に関わっている可能性のある者は分かったな」
「えぇ……おそらく、ダイナー家が関わっているでしょう」
「う~ん……やっぱりどこかで聞いたような……」
「何を言っているのですか。学園祭で貴方たちに絡んだボンクラの家ですよ」
「あぁ……アレか~。それなら、アダムたちの方に関わった女の子が分かったかも」
アルの女の子を知っている発言に、皆のお母さんルイスの目が吊り上がった。
「アルベルト!」
「はい!ってルイス、今はアルだよ」
「そんな事はどうでも良いです!貴方、フェリーチェがいるのに誰に手を出したんですか!」
「はい?」
「アル……浮気は駄目だ」
「はぁ!?ちょっ、待ってよ父様!誤解だよ!あの子は、僕たちが最初に滞在してた家の近くの教会で見かけただけ――」
「ねぇ、お話し終わった?」
あらぬ疑いにアルが弁明している途中で、フェリーチェが声をかけた。
アルがゆっくりフェリーチェの方を見ると、ベットに起き上がって困った顔をしているアンジェラと、その腕の中でキョトンとしているリヒト、そしてにこにこしているフェリーチェがいた。
オースティンたちが、ベットに向かったのでアルも着いて行く。
「今のところ優先するべきは、アダムたちの救出ですが、ひとつ気になる事があります」
「そこのメイドもだが、ダイナーがこれ程の技術を持っているとは思えん」
「教師をしているのは、当主の弟だったよな。あの兄弟に、この計画を立てられるとは思えない」
「協力者……いや、黒幕がいるかもしれんのぉ」
「しかしこれ以上、彼等を危険な目に会わせる訳には行きません。一旦、安全を確保したうえで、そいつを探しましょう」
「じゃあ、僕がこっそり連れてくるよ」
「いや、それより……アルが人質の元に転移して安全を確保したら、救出部隊を突入させる。人質があの邸にいるのを、第三者に確認させておく必要があるからな」
「それなら、フェリ」
「なぁに?」
フェリーチェに声をかけたアルは、いつもなら癒されるはずの笑顔に、何故か冷や汗が出てきた。
「えっと……何か怒ってる?」
「なんの事?私はいつも通りだよ」
「そ、そっか……あのさフェリも来てくれる?もちろん‘サヨ’の姿でね」
「どうして?」
「あぁ~……実は、全員『隷属の首輪』をされてたんだ。だから、フェリに壊してもらおうかと思って」
2人のやり取りをニヤニヤ見守っていた者たちと、フェリーチェはアルの言葉に真顔になった。
「アル!早く行こう!早く!」
「分かった!分かったから!それじゃあ先に行ってるから。準備できたら連絡して!」
フェリーチェが‘サヨ’に変化しすると、2人はアダムたちの元に転移した。
残された者たちは、不穏な空気を纏っていた。
「……どうやら、容赦はいらないようだ」
「ブレイクに弟を捕らえさせ拷問にかけよう。アンジェラとリヒトに手を出したんだ。ただでは済まさん」
「容赦なんぞいらんわい!ワシが新しく作った道具の実験台にしちゃる!」
「気持ちは分かりますが、少し落ち着きなさい。幼い子の前でする会話ではありません」
「それもそうだな。とにかく、部屋を変えよう。アンジェラとリヒトもサマンサたちと一緒にいてくれ」
「護衛はどうするんだ?俺が残るか?」
「待て、護衛ならわたしがやろう。これでもお前と同じS級だ」
アンドリアからの提案に、護衛を任せる事になり、移動しようとした時に今まで静かにしていたエヴァンが、オースティンの肩を掴んだ。
「兄上?どうしたんだ」
「こんな事、今聞く事じゃないのは分かっている。だが、どうしても聞きたい」
あまりにも真剣なエヴァンに、全員の視線が集中した。
オースティンは、無言で頷いて先を促す。
「オースティン、お前……お前いつから転移魔法が使えるようになった」
「……なんの事かわからないな」
「さっき、2人を抱えて転移しただろうが!だいたい、適性がない属性の魔法を何故使える!」
的を突いた質問に、オースティンは目を逸らした。
「ん?そういえば、他の連中は驚いていなかったな」
エヴァンが周りを見渡すが、グレースとリヒト以外が目を合わせようとしなかった。
「まさか……お前たち全員できるのか?」
「さぁ!こんな事をしている暇はありせん!救援隊の編成を行いますよ!」
「そうだな!念のために私とルイスは残る!オースティン、指揮は任せるぞ!」
「任せろ!行くぞメイソン!」
「腕がなるわい!」
「わたしたちも移動しよう!わたしの部屋で良いな!」
「そうね!アンジェラ、行きましょう!」
「は、はい!」
急に声を張り上げた大人たちを、不思議そうに見ていたグレースとリヒトも連れていかれ、部屋にはエヴァンだけが取り残された。
「あいつら……もっとましな誤魔化し方はないのか!?バレバレだぞ!この件が片付いたら、絶対吐かせてやるからな!」
アルベルトと別れたフェリーチェは、部屋にやってきたグレースに連れられ、ガイと一緒に彼女の部屋に来ていた。
「お兄様たち大丈夫でしょうか?」
「お父様たちも動いてますし、アルも向かったから大丈夫ですよ」
「そうね」
2人が気を紛らわすために、最近の事など他愛ない話をしてた。
しばらくして、ドアがノックされたのでガイが開けると、メイドが2人入ってきた。
「「お茶をお持ちしました」」
「お茶でしたら、ぼ…私が入れます」
「「いいえ、私どもの仕事ですので」」
メイドたちは、ガイの申し出を断り淡々とお茶の用意を始めた。
その様子に、ガイは警戒を強めフェリーチェに通信を入れた。
{フェリーチェ、メイドの様子がおかしい。お茶もお菓子も口にしないで}
{分かった。確かに変だね。いつもの人と違うし}
フェリーチェはすぐにグレースに通信を入れた。
{グレース様、突然すいません。聞きたい事があります}
{何が聞きたいの?フェリーチェ}
{今日はいつもと違うメイドみたいですけど、リサさんとアンナさんはどうしたんですか?}
{リサとアンナは実家の方で問題が起きたみたいで、1週間ほど前からお休みなの。彼女たちは、ダイナー伯爵の紹介で一時的に雇用しているのよ}
(ダイナー伯爵?どこかで聞いたような…………忘れちゃった)
{グレース様、このメイドたちの様子がおかしいので、出されたお茶やお菓子は口にしないで下さい}
{え!?わ、分かりました}
フェリーチェは、何気なくグレースを見ると顔を引き吊らせた。
グレースの顔が、微笑んでいるのか緊張しているのか泣きそうなのか、分からないくらい凄い顔になっていたからだ。
{グレース様、顔!顔に出てますから、なるべく平常心でお願いします!}
{そんな……難しいわよフェリーチェ}
グレースが、なんとかいつもの顔に戻ると、メイドがテーブルの上に用意したものを運んできた。
並べ終わるのを見計らい、ガイが声をかけた。
「後の事は私が致しますので、お任せください」
「「いいえ、私どもの仕事ですので」」
「ここはいいですから、下がって下さい」
「「いいえ、私どもの仕事ですので」」
ガイの言葉にも、グレースの言葉にも同じ言葉を繰り返すだけで、動く素振りも見せないメイドは明らかにおかしかった。
ガイは念のために、アルに通信を入れるが繋がらず、クロードやサマンサにしても繋がらなかった。
「フェリーチェ、外と連絡が取れない。2人とも、僕の後ろに」
「え!?……結果だ!いつの間に!?グレース様!」
「はい!」
外と連絡が取れないと聞いて、フェリーチェが『心眼』で部屋を確認すると、結果で閉じ込められている状態だった。
フェリーチェとグレースは急いでガイの後ろに回った。
フェリーチェは、メイドの方も『心眼』で見たのだが、驚いて思わず声に出してしまった。
「嘘……何でこんな……」
「フェリーチェ?何が見えたんだ?」
「この人たち、種族は人間なんだけど……‘死体’って書いてあるの」
「では、アンテッドですか!?」
「いや、アンテッドなら種族が不死者になっているはずだよ。……どういう事だ?」
「とにかく、2人をどうにかしないと」
フェリーチェたちが困惑していると、メイド2人が動いた。
「作戦失敗……作戦失敗」
「強行策に移行します」
「『電撃』!」
メイドたちが襲いかかって来たので、フェリーチェは咄嗟に電撃を放ったのだが、一瞬動きを止めた後にすぐ攻撃してきた。
「全然、効いてない!?だったら、『時空障壁』!」
2人は結界に弾かれたが、それでも攻撃を止めなかった。
「取り合えず、この中にいれば大丈夫だと思うけど……」
「誰かが来るまで、このままですね」
「でもさ、外と連絡取れないよ。そうだ、眠らせよう!『睡眠』!」
「ダメ!『時空障壁』の中で魔法を使うと……私たち……が……」
「急に眠く……な……」
「え!?フェリーチェ!グレース!」
眠気で倒れかけたフェリーチェとグレースを支えたガイは、完全に眠っているのを確認すると2人を抱きかかえてクローゼットの中にそっと置いた。
「すまない。狭いが少し我慢してくれ。すぐ片付ける」
フェリーチェの頭を撫で、扉を閉めて振り返ったガイの雰囲気は先程までとガラっと変わっていた。
ガイはそのまま無言で歩くと、結界に手を触れてからメイドたちに声をかけた。
「哀れな……死んですぐに使役されたのか、それとも使役する目的で殺されたのか分からんが、誰であろうと我が主を害なす者は排除する。悪く思うなよ」
ガイが手を横に薙ぐと、『時空障壁』が消失した。
メイドたちはすぐに飛びかかるが、ガイの魔法の方が速かった。
「『風の刃』」
ガイの魔法で、メイドたちはズタズタに引き裂かれ、崩れ落ちた。
「さすがに筋を切られれば動けまい。すぐに楽にしてやるからな。『聖なる道』」
小刻みに動いていたメイドたちに、暖かな光が降り注いだ。
すると、2人の胸から淡く光る球体が出て来て頭上に登り消えると、完全に動かなくなった。
「上手くいったか。まったく、この俺が浄化魔法を使うとはな。さて、無傷だと怪しまれそうだから細工しておくか」
ガイは服を破り皮膚を剥がすと、クローゼットに背を預け座り込んだ。
すぐに部屋の外が騒がしくなり、アルベルトの気配を感じたので静かに目を閉じた。
ここで時間をガイが起こされた時に戻す。
「それで、何があった?」
「そこのメイド2人に襲われたんだ。フェリーチェの電撃も効かなくて、結界を張ったんだけと、僕がその中で眠りの魔法使ったから、フェリーチェとグレースが寝ちゃったんだ。フェリーチェが寝たから結界も解けて、慌ててクローゼットに2人を入れて魔法を使ったら暴発したんだけど、フェリーチェが眠る前に‘メイドたちは死体だ’って言ってたから浄化魔法を使ったら出来ちゃった」
「……………へぇ」
「………あ、あのさ、フェリーチェとグレースを起こさない?」
「………まぁいいよ」
ガイの証言を信じてないのか、アルはジト目で見ていたが、フェリーチェとグレースを起こす事にした。
アルが、ガイの魔法を解除すると2人は目を覚ました。
「ん~……あれ?いつの間に寝たのかしら?」
「グレース!良かった!」
「グレース!怪我はないな!」
「お父様!お母様!」
さすがに怖かったのだろう、グレースはエヴァンとアンドリアを見て2人に抱き付き涙を流した。
一方フェリーチェは、サマンサに抱き締められ身動きができなくなっていた。
「お、お母様……苦しい」
「良かった……本当に良かったわ。ガイ、2人を守ってくれてありがとう」
「お、お礼なんていいよ。今回は、マグレで勝てただけだから」
「それでも2人は無事だった。お前のおかげだ」
「そうだね。結果的に君を残して良かったよ」
「あっ!そうだ、あのメイドなんだけど―――」
フェリーチェは、自分の『心眼』で見た事を話した。
「一度その2人を、調べた方が良さそうですね」
「リサとアンナの安否も、確認した方が良いな」
エヴァンとルイスに指示された兵士たちが部屋を出ると、オースティンからフェリーチェに通信が入った。
{フェリーチェ!今どこにいる?}
{オースティンさん!?グレース様の部屋です!}
{分かった!}
通信を一方的に切ったオースティンが、グレースの部屋に現れた。
彼の腕にはぐったりしたアンジェラと、涙で顔を濡らし眠っているリヒトが抱えられていた。
「アンジェラさん!?」
「大丈夫、魔力切れだ。すまんが診てくれ」
「はい!リヒトは?」
「リヒトは気が抜けて寝てるだけだが、頼めるか?」
「はい!」
オースティンは、グレースに断りを入れてから2人をベットに寝かせた。
フェリーチェが治療を始めると、オースティンは離れた場所に移動した。
「いったい何があったのですか?」
「アルに言われて家に転移したら、男2人に襲われていたんだ。アンジェラは既に魔力切れで倒れそうになっていて、魔道具の結界で凌いでいた。すぐに攻撃をしたんだが、何度やっても倒れないから仕方なく首を切断したら動かなくなった。この様子だと、グレースも狙われたか」
「こっちはメイド2人じゃったわい。しかし、子どもばかり狙う理由はなんじゃ?」
「分からないが、今回の件に関わっている可能性のある者は分かったな」
「えぇ……おそらく、ダイナー家が関わっているでしょう」
「う~ん……やっぱりどこかで聞いたような……」
「何を言っているのですか。学園祭で貴方たちに絡んだボンクラの家ですよ」
「あぁ……アレか~。それなら、アダムたちの方に関わった女の子が分かったかも」
アルの女の子を知っている発言に、皆のお母さんルイスの目が吊り上がった。
「アルベルト!」
「はい!ってルイス、今はアルだよ」
「そんな事はどうでも良いです!貴方、フェリーチェがいるのに誰に手を出したんですか!」
「はい?」
「アル……浮気は駄目だ」
「はぁ!?ちょっ、待ってよ父様!誤解だよ!あの子は、僕たちが最初に滞在してた家の近くの教会で見かけただけ――」
「ねぇ、お話し終わった?」
あらぬ疑いにアルが弁明している途中で、フェリーチェが声をかけた。
アルがゆっくりフェリーチェの方を見ると、ベットに起き上がって困った顔をしているアンジェラと、その腕の中でキョトンとしているリヒト、そしてにこにこしているフェリーチェがいた。
オースティンたちが、ベットに向かったのでアルも着いて行く。
「今のところ優先するべきは、アダムたちの救出ですが、ひとつ気になる事があります」
「そこのメイドもだが、ダイナーがこれ程の技術を持っているとは思えん」
「教師をしているのは、当主の弟だったよな。あの兄弟に、この計画を立てられるとは思えない」
「協力者……いや、黒幕がいるかもしれんのぉ」
「しかしこれ以上、彼等を危険な目に会わせる訳には行きません。一旦、安全を確保したうえで、そいつを探しましょう」
「じゃあ、僕がこっそり連れてくるよ」
「いや、それより……アルが人質の元に転移して安全を確保したら、救出部隊を突入させる。人質があの邸にいるのを、第三者に確認させておく必要があるからな」
「それなら、フェリ」
「なぁに?」
フェリーチェに声をかけたアルは、いつもなら癒されるはずの笑顔に、何故か冷や汗が出てきた。
「えっと……何か怒ってる?」
「なんの事?私はいつも通りだよ」
「そ、そっか……あのさフェリも来てくれる?もちろん‘サヨ’の姿でね」
「どうして?」
「あぁ~……実は、全員『隷属の首輪』をされてたんだ。だから、フェリに壊してもらおうかと思って」
2人のやり取りをニヤニヤ見守っていた者たちと、フェリーチェはアルの言葉に真顔になった。
「アル!早く行こう!早く!」
「分かった!分かったから!それじゃあ先に行ってるから。準備できたら連絡して!」
フェリーチェが‘サヨ’に変化しすると、2人はアダムたちの元に転移した。
残された者たちは、不穏な空気を纏っていた。
「……どうやら、容赦はいらないようだ」
「ブレイクに弟を捕らえさせ拷問にかけよう。アンジェラとリヒトに手を出したんだ。ただでは済まさん」
「容赦なんぞいらんわい!ワシが新しく作った道具の実験台にしちゃる!」
「気持ちは分かりますが、少し落ち着きなさい。幼い子の前でする会話ではありません」
「それもそうだな。とにかく、部屋を変えよう。アンジェラとリヒトもサマンサたちと一緒にいてくれ」
「護衛はどうするんだ?俺が残るか?」
「待て、護衛ならわたしがやろう。これでもお前と同じS級だ」
アンドリアからの提案に、護衛を任せる事になり、移動しようとした時に今まで静かにしていたエヴァンが、オースティンの肩を掴んだ。
「兄上?どうしたんだ」
「こんな事、今聞く事じゃないのは分かっている。だが、どうしても聞きたい」
あまりにも真剣なエヴァンに、全員の視線が集中した。
オースティンは、無言で頷いて先を促す。
「オースティン、お前……お前いつから転移魔法が使えるようになった」
「……なんの事かわからないな」
「さっき、2人を抱えて転移しただろうが!だいたい、適性がない属性の魔法を何故使える!」
的を突いた質問に、オースティンは目を逸らした。
「ん?そういえば、他の連中は驚いていなかったな」
エヴァンが周りを見渡すが、グレースとリヒト以外が目を合わせようとしなかった。
「まさか……お前たち全員できるのか?」
「さぁ!こんな事をしている暇はありせん!救援隊の編成を行いますよ!」
「そうだな!念のために私とルイスは残る!オースティン、指揮は任せるぞ!」
「任せろ!行くぞメイソン!」
「腕がなるわい!」
「わたしたちも移動しよう!わたしの部屋で良いな!」
「そうね!アンジェラ、行きましょう!」
「は、はい!」
急に声を張り上げた大人たちを、不思議そうに見ていたグレースとリヒトも連れていかれ、部屋にはエヴァンだけが取り残された。
「あいつら……もっとましな誤魔化し方はないのか!?バレバレだぞ!この件が片付いたら、絶対吐かせてやるからな!」
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