7 / 14
第2章 バカンス先で恋の予感♪お相手はなんと!!
7、可愛いプロポーズ
しおりを挟む
翌日また同じ時刻に、マーシアとメイドのネリィは、ヤシの植え込みの下のベンチに座った。
今日は例の「美少年の王子」を見逃さないために、出発のときに飲み物を買ってある。
マーシアのメディテーションも今日ばかりはお休みだ。
ネリィが、ウェットティッシュでベンチの砂を吹くと、二人してベンチに座る。
「くるかな? くるかな?」
そわそわしているネリィのせいか、マーシアもなんだか胸がどきどきしてきた。
昨日とほぼ全く同じ時間に、椰子の木陰からぬっと、くだんの美少年が現れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昨日はマーシアが声をかけるなり逃げていってしまったので、よく見えなかったが、少年の姿は上半身裸で、腰みのをつける伝統的なスタイル。
ひざ丈の腰みのからすらりとしたひざ下が伸びていて、サンダルを履いている。
ブランド品の上等のものだ。
外国から輸入したものだろう。
やはり身分の高い少年らしい。
少年は両腕を後ろに回している。
ほっそりとした背中の陰から、ちらちらと赤いハイビスカスの花弁が見える。
ハイビスカスの花束を抱えている?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うわっ!! かわいい……尊い」
と涙目で震えているネリィを後目に少年は頬を真っ赤にして、マーシアの眼の前に立った。
緊張した面持ちで、おずおずと形のよい唇を開く。
「き……昨日は挨拶してくださったのに、逃げてしまいごめんなさい」
まだ声変わりしていない、可憐なボーイソプラノだった。
「そんなこと構いませんわ。いきなり知らない大人に声をかけられて、きっとびっくりなさったのね」
マーシアがそう答えると、少年は
「お…姉さまは、僕にとって『知らない大人』ではありません。
僕は3週間前からお姉さまを毎日見ています。
お姉さまはいつも、この時間にベンチに座って、瞑想をなさっていた……」
「まあ! あなた……私がこの島に来た日から、ま……毎日みていたの!!?」
「ごっ! ごめんなさい!!
女性をこっそり盗み見するなんて、紳士のすることではありませんね!!
でもお姉さま!!
僕はお姉さまほど美しい女性にお会いしたことはありません!!
今日、お姉様が、もうじき故郷に帰ってしまわれると爺やから聞きました。
もうお姉様をお見かけすることができないなんて、僕は胸が張り裂けそうです。
どうか、帰らないでください。
帰らないで、僕と結婚してください!!」
「あらっ! 嬉しい。
……でも王子様、そういうわけにはいかないわ。
私はあなたには年上すぎるもの」
「僕は王子ではありません。この国の王です。
昨年お爺様が亡くなったので僕が王位をつぎました」
「ええっ?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
マーシアは家から持ってきたガイドブックに書かれていた、タラア王国の王についての記述を思い出した。
ガイドブックによればタラア王国の国王は95歳。
在位60年と書かれていた。
けれども、そういえばあのガイドブックは屋敷の図書室で見つけたもので、もう色あせていた。
結構前に出版された本だったのではなかろうか?
少なくとも最新版ではない。
ちょっと情報が古かったのだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「昨年僕の、お爺様が亡くなりました。
僕のお父様は、僕が小さいころに亡くなりましたので、僕がお爺様の後を継いで、タラア王国の王様になりました」
「……そうだったのね。
私はてっきりあなたのお爺様はまだお元気なのだと思っていましたわ。
ごめんなさい。
私、この国にバカンスに来るのに、ろくにこの国のことも調べずに……」
「そんなことちっとも構いません。
それよりも、お姉さまは、僕の奥さんになってくださいますか?」
「申し訳ないけれど、そういうわけにはいかないわ。
私とあなたは年が違いすぎるもの」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
少年王の抱えていた大輪の花束がパッと散った。
「そうですか、わかりました」
涙声とともに、少年王はしなやかな体を翻して、椰子の林の中に消えていってしまった。
マーシアとネリィの足元には、赤いハイビスカスの花が散らばっている。
「悪いことしてしまったわ。
あんなに真摯に愛を告げられたのは、生まれてはじめてだった。
でも彼が子供を作れるようになった頃、私は妊娠適齢期を過ぎているわ。
王妃にとっては跡継ぎを産むことが一番大切な仕事。
私はそれを果たせない。
お断りするのは、間違っていなかったと思う」
「まあ、確かに、お嬢様のおっしゃる通りですわ。
かわいい男の子を見るのは大好きだけど、アラサーの私たちがお婿さんにしたいかといいますとねえ」
今日は例の「美少年の王子」を見逃さないために、出発のときに飲み物を買ってある。
マーシアのメディテーションも今日ばかりはお休みだ。
ネリィが、ウェットティッシュでベンチの砂を吹くと、二人してベンチに座る。
「くるかな? くるかな?」
そわそわしているネリィのせいか、マーシアもなんだか胸がどきどきしてきた。
昨日とほぼ全く同じ時間に、椰子の木陰からぬっと、くだんの美少年が現れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昨日はマーシアが声をかけるなり逃げていってしまったので、よく見えなかったが、少年の姿は上半身裸で、腰みのをつける伝統的なスタイル。
ひざ丈の腰みのからすらりとしたひざ下が伸びていて、サンダルを履いている。
ブランド品の上等のものだ。
外国から輸入したものだろう。
やはり身分の高い少年らしい。
少年は両腕を後ろに回している。
ほっそりとした背中の陰から、ちらちらと赤いハイビスカスの花弁が見える。
ハイビスカスの花束を抱えている?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うわっ!! かわいい……尊い」
と涙目で震えているネリィを後目に少年は頬を真っ赤にして、マーシアの眼の前に立った。
緊張した面持ちで、おずおずと形のよい唇を開く。
「き……昨日は挨拶してくださったのに、逃げてしまいごめんなさい」
まだ声変わりしていない、可憐なボーイソプラノだった。
「そんなこと構いませんわ。いきなり知らない大人に声をかけられて、きっとびっくりなさったのね」
マーシアがそう答えると、少年は
「お…姉さまは、僕にとって『知らない大人』ではありません。
僕は3週間前からお姉さまを毎日見ています。
お姉さまはいつも、この時間にベンチに座って、瞑想をなさっていた……」
「まあ! あなた……私がこの島に来た日から、ま……毎日みていたの!!?」
「ごっ! ごめんなさい!!
女性をこっそり盗み見するなんて、紳士のすることではありませんね!!
でもお姉さま!!
僕はお姉さまほど美しい女性にお会いしたことはありません!!
今日、お姉様が、もうじき故郷に帰ってしまわれると爺やから聞きました。
もうお姉様をお見かけすることができないなんて、僕は胸が張り裂けそうです。
どうか、帰らないでください。
帰らないで、僕と結婚してください!!」
「あらっ! 嬉しい。
……でも王子様、そういうわけにはいかないわ。
私はあなたには年上すぎるもの」
「僕は王子ではありません。この国の王です。
昨年お爺様が亡くなったので僕が王位をつぎました」
「ええっ?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
マーシアは家から持ってきたガイドブックに書かれていた、タラア王国の王についての記述を思い出した。
ガイドブックによればタラア王国の国王は95歳。
在位60年と書かれていた。
けれども、そういえばあのガイドブックは屋敷の図書室で見つけたもので、もう色あせていた。
結構前に出版された本だったのではなかろうか?
少なくとも最新版ではない。
ちょっと情報が古かったのだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「昨年僕の、お爺様が亡くなりました。
僕のお父様は、僕が小さいころに亡くなりましたので、僕がお爺様の後を継いで、タラア王国の王様になりました」
「……そうだったのね。
私はてっきりあなたのお爺様はまだお元気なのだと思っていましたわ。
ごめんなさい。
私、この国にバカンスに来るのに、ろくにこの国のことも調べずに……」
「そんなことちっとも構いません。
それよりも、お姉さまは、僕の奥さんになってくださいますか?」
「申し訳ないけれど、そういうわけにはいかないわ。
私とあなたは年が違いすぎるもの」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
少年王の抱えていた大輪の花束がパッと散った。
「そうですか、わかりました」
涙声とともに、少年王はしなやかな体を翻して、椰子の林の中に消えていってしまった。
マーシアとネリィの足元には、赤いハイビスカスの花が散らばっている。
「悪いことしてしまったわ。
あんなに真摯に愛を告げられたのは、生まれてはじめてだった。
でも彼が子供を作れるようになった頃、私は妊娠適齢期を過ぎているわ。
王妃にとっては跡継ぎを産むことが一番大切な仕事。
私はそれを果たせない。
お断りするのは、間違っていなかったと思う」
「まあ、確かに、お嬢様のおっしゃる通りですわ。
かわいい男の子を見るのは大好きだけど、アラサーの私たちがお婿さんにしたいかといいますとねえ」
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
第一王子と見捨てられた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
アナトール公爵令嬢のマリアは婚約者である第一王子のザイツからあしらわれていた。昼間お話することも、夜に身体を重ねることも、なにもなかったのだ。形だけの夫婦生活。ザイツ様の新しい婚約者になってやろうと躍起になるメイドたち。そんな中、ザイツは戦地に赴くと知らせが入った。夫婦関係なんてとっくに終わっていると思っていた矢先、マリアの前にザイツが現れたのだった。
お読みいただきありがとうございます。こちらの話は24話で完結とさせていただきます。この後は「第一王子と愛された公爵令嬢」に続いていきます。こちらもよろしくお願い致します。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる