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第十四章 悪役令嬢

断罪シーン

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「また、クロエ嬢に危害を加える気か?」

 低い声が会場内に響く。

 睨めつけているアレン様はクロエ様を庇うように前に出た。

 ーーああ、このシーンだ。

 悪役令嬢のソフィアは、クロエ様を庇っているアレン様を認めたくなくてヒステリックを起こす。

 クロエ様を亡き者にしようとして走ってきたところをアレン様は斬りつける。

 ……断罪シーン。

 ゲームをやっていた時は、スカッとしたのにいざ自分が経験すると胸が痛い。

 好きな人に睨みつけられ、軽蔑されれば誰だって嫌な気持ちにはなる。

 だからとはいえ、悪役令嬢がやった罪は変わらない。

 許されるはずがないのよ。それをわかってるからこそ、未だにこの悪夢から出られないんでしょうけど。

 それは罪の意識からなのか、それとも……。

 逃げているだけなのか……。

 だけど私が悪役令嬢になっているので、悪役らしかならぬことを言うわ。

「……危害を加えることはありません。私は……クロエ様が大好きなのだから」

『クリムゾン メイジ』のヒロインは慈悲深い子で私は大好きだ。

 内気だから誤解されやすいところはあるだけど、私は気にならない。

 ましてや可愛らしいとも思ってしまう。

「それは追放されたくないがための言い訳か?」
「クロエ様は、いつも私に親切にしてくださいました。助けてくれました……、そんな子を嫌いになどなれません。寧ろ好感を持てます」
「だったら何故嫌がらせをした? こっちは証拠だってあるんだ。それに、ソフィア嬢が禁忌を犯してることも調べはついてる。その禁忌を使って、クロエ嬢を亡き者にしようとしてたんだろう!?」

 禁忌とは、悪魔召喚のことだろう。

 ただ、悪魔召喚をしたなら首筋に小さな月の模様があるはずだ。私は悪魔召喚をしていないので模様は無い。

 召喚したのは私じゃなくて、ゲームの悪役令嬢だ。

「それは違っ……」

 違うことを言おうとしたが、言葉が出てこない。というよりも声が出てないのだ。

 ???

 突然、声が出なくなって内心パニックに陥っているとアレン様は呆れていた。

「気を引く作戦か? 卒業パーティーで堂々と癇癪を起こすなど、淑女とは思えない振る舞いだ」

 アレン様は目で合図を送り、警備兵の二人が私を取り押さえる。

「~~っ!?!?!?」

 声が出せないから何も言えない。必死に声を出そうとすればアレン様や周りにいる貴族達に不審に思われ、変なように解釈される。

 これは、悪役令嬢の日頃からの行いだろう。

 警備兵の一人が私の髪を持ち上げ、首筋が見えるようにした。

「やはりか。残念だよ」

 えっ、何。その反応。まるで、禁忌を犯してる確信がついたような……。

 どうなってるの??

 警備兵二人にアレン様は再度目で合図すると、私を会場から連れ出そうとした。

「待っ……、これは何かの間違いです!」

 やっと出た言葉がそれだった。急に声が出るようになったので会場内に響くような声量だった。

 アレン様は怯えるクロエ様をあやす様に優しく微笑んでいた。

 ーー私には二人の間に入ることは出来ない。

 と、直感で思った。敗北にも似た気が落ち込む感情。

 再び連れ去られそうになるのを振り切った。

 違う。これは違う。これは幻・覚・だ。

 私が知っているクロエ様は心が男。
 いつも私を温かく見守ってくれていた。アレン様も私を見てくれていた。

 こんなにも私に敵意をむき出しにしているのは……。

 これがアレン様がいつも見ている悪夢ならば、

 歩き出そうとすると何も無いところで転んでしまった。

 私ったら本当に……。

 大事なところで決まらない。

 アレン様は私が敵視してると思ったのか剣を私に向けた。

 確かに自分のドジでイラッとしたけども、アレン様やクロエ様を敵視してないのに!!

 泣きそう……。しかもこれ、死亡フラグ??

 夢なら現実では死なないだろうけど……。

 それでも嫌。

 隙を見て、逃げようと周りを見渡すが逃げ場は無いだろう。

 ゆっくりと立ち上がると、アレン様は走り出し、斬りかかろうとした。

 この様子だと、禁忌を犯した罪で死刑。

 また、クロエ様に危害を加えると思われたのだろう。危害を加える前に私を殺そうと斬りかかった。

 ゲームのシナリオと少し似てるから、なんとなくわかってしまった。

 どんだけ嫌われてるんだか。悪役令嬢は。

 後退りするが、またしても何も無いところでつまづいて尻餅をついた。

 丁度来た刃が私の頭上を通った。

 運良く避ける形となった。

 まずいな。今ので腰を抜かして動けない。

 私を見下ろしたアレン様の顔を見て、ゾクッとした。

 ーー殺される。

 そう思った私は恐怖で震えた。

 刃が私の首を狙って来た瞬間、ネックレスにして常に持ち歩いてた指輪が反応したのだ。

 それはイアン様から貰った指輪だった。

 一度だけ身を護ってくれるという指輪がまさかこんなところで役に立つだなんて思わなかった。

 その指輪は光輝いた。それと同時に守護魔が現れて結界を張った。

 次の瞬間、ピキっというガラスが割れる音が聞こえた。

 目の前にいるアレン様や周りで見守っている貴族がガラスのようにヒビが入り、脆くも崩れていく。

 指輪の光が徐々に弱くなる。

 パーティー会場だと思っていた場所からは闇に染まり、何も無かった。

 暗い空間のみがそこにあるだけだ。

 完全に光が消えると、指輪は静かに消滅した。

「……まぁ、幻影を破るなんて、なんて図々しいんですの」

 暗闇から姿を現したのは、悪役令嬢だった。



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