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第3章 芒種
19.鉢植えと花壇(一)
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純粋な花の精ではない。不純な花の精ってなんだ?
「……ごめん。最初からわからない」
「だよな」
沈黙が流れた。誠が頭を悩ませているのがはっきりと見て取れた。
「グレた花の精? 清くない花の精? いかがわしい花の精? 混ざっている花の精? やましい花の精?」
「それだ!」
「え、どれ?」
「混ざっている」
「何が?」
「人間」
「……」
誠はいたってまじめに話している。僕からすれば、かなりのホラーだ。
「人の想いとか、恨みつらみとか執念だとか、そういうものが大きくなって花にくっついて形になってしまったのが四兄弟だと思うんだ」
「……そんなのが見えちゃっていたの? でも、四兄弟もキクちゃんも怖いというより爽やかな感じだったけれど。家で怪奇現象なんて起きなかったし」
「別にお前やこの家が呪われているわけじゃないだろ。四兄弟は、この家の庭に残されたからここに現れただけだ」
前に住んでいた人の想いが、花にくっついたのか……。
「大家が知っている個人情報だから詳しくは話せないけれど、前の借主は家族でここに二月まで住んでいたんだ。その一人が、スーパーの花売り場によく行っていたらしい。これは婆ちゃん情報だ。鉢植えとかを買って、花が終わったら庭に植えていたんじゃないかな」
「植木鉢から出したままっぽいボコボコが花壇にたくさんあったけれど、あれが全部そうなの? たぶんフリージアたちだけじゃなかったよ」
「枯れたのも多かっただろ? 元々花への興味や知識があったとは思えない。花売り場に花を卸す業者に教えてもらって、とりあえず植えただけだろう」
「前に草取りした時、適当に埋めてあるってマコちゃん怒っていたよね。空き家だった間はマコちゃんが庭の手入れをしていたんでしょう? その時は花壇のデコボコに気づかなかったの?」
「花壇には近づけなかった。お前もアガパンサスが咲く頃に、四人目が出てくるのを見ただろう? フリージアとガーベラ、ビオラは丁度花の時期で、三兄弟がぼんやり見え始めていたんだ」
「それは近づきたくないな」
僕は、薄く人型の煙が立ちのぼる光景を想像してしまった。誠もやっぱり怖かったということだよな。
「僕、前の借主さんは花好きの人なんだと思っていたけれど。違ったのか」
「好きだったのは花じゃなくて、花売り場の業者だろ。たぶん、お前が見たニッコウキスゲだよ」
「あのお兄さんか……」
だから同じ顔だったのか。同じ作業着で、同じ爽やかマッチョで……。
「わかる。なんだか優しそうでモテそうだった」
「そこか。まあ、確かにモテそうだな」
誠は苦笑していた。
「だけど、それだけ花売り場に通っていたら、直接お兄さんと何度も話すでしょ? 執念とか想いとか溜め込むかな?」
「ここの住人の性格なんて知らない。でも、直接会って頻繁に花を買って、それでもただの客として話すだけだったら想いを募らせてもおかしくはないかもな」
「あのお兄さん、配送はいつも朝十時だったと思うよ。その時間に合わせてちょくちょく通って、鉢植えを買って、でもあんまり話せなくてって。内気で一途で健気で想いの強い子だったのかな。そういうの、かわいいよね」
「女とは言っていない」
「違うの? まあ、どっちでも健気でかわいいと思うよ」
「かわいいか? あんなに適当に庭に植えて世話もしないで。あれで根が張るわけないだろ」
誠は本気で怒っていた。人間より花に同情しているのか。
「……ごめん。最初からわからない」
「だよな」
沈黙が流れた。誠が頭を悩ませているのがはっきりと見て取れた。
「グレた花の精? 清くない花の精? いかがわしい花の精? 混ざっている花の精? やましい花の精?」
「それだ!」
「え、どれ?」
「混ざっている」
「何が?」
「人間」
「……」
誠はいたってまじめに話している。僕からすれば、かなりのホラーだ。
「人の想いとか、恨みつらみとか執念だとか、そういうものが大きくなって花にくっついて形になってしまったのが四兄弟だと思うんだ」
「……そんなのが見えちゃっていたの? でも、四兄弟もキクちゃんも怖いというより爽やかな感じだったけれど。家で怪奇現象なんて起きなかったし」
「別にお前やこの家が呪われているわけじゃないだろ。四兄弟は、この家の庭に残されたからここに現れただけだ」
前に住んでいた人の想いが、花にくっついたのか……。
「大家が知っている個人情報だから詳しくは話せないけれど、前の借主は家族でここに二月まで住んでいたんだ。その一人が、スーパーの花売り場によく行っていたらしい。これは婆ちゃん情報だ。鉢植えとかを買って、花が終わったら庭に植えていたんじゃないかな」
「植木鉢から出したままっぽいボコボコが花壇にたくさんあったけれど、あれが全部そうなの? たぶんフリージアたちだけじゃなかったよ」
「枯れたのも多かっただろ? 元々花への興味や知識があったとは思えない。花売り場に花を卸す業者に教えてもらって、とりあえず植えただけだろう」
「前に草取りした時、適当に埋めてあるってマコちゃん怒っていたよね。空き家だった間はマコちゃんが庭の手入れをしていたんでしょう? その時は花壇のデコボコに気づかなかったの?」
「花壇には近づけなかった。お前もアガパンサスが咲く頃に、四人目が出てくるのを見ただろう? フリージアとガーベラ、ビオラは丁度花の時期で、三兄弟がぼんやり見え始めていたんだ」
「それは近づきたくないな」
僕は、薄く人型の煙が立ちのぼる光景を想像してしまった。誠もやっぱり怖かったということだよな。
「僕、前の借主さんは花好きの人なんだと思っていたけれど。違ったのか」
「好きだったのは花じゃなくて、花売り場の業者だろ。たぶん、お前が見たニッコウキスゲだよ」
「あのお兄さんか……」
だから同じ顔だったのか。同じ作業着で、同じ爽やかマッチョで……。
「わかる。なんだか優しそうでモテそうだった」
「そこか。まあ、確かにモテそうだな」
誠は苦笑していた。
「だけど、それだけ花売り場に通っていたら、直接お兄さんと何度も話すでしょ? 執念とか想いとか溜め込むかな?」
「ここの住人の性格なんて知らない。でも、直接会って頻繁に花を買って、それでもただの客として話すだけだったら想いを募らせてもおかしくはないかもな」
「あのお兄さん、配送はいつも朝十時だったと思うよ。その時間に合わせてちょくちょく通って、鉢植えを買って、でもあんまり話せなくてって。内気で一途で健気で想いの強い子だったのかな。そういうの、かわいいよね」
「女とは言っていない」
「違うの? まあ、どっちでも健気でかわいいと思うよ」
「かわいいか? あんなに適当に庭に植えて世話もしないで。あれで根が張るわけないだろ」
誠は本気で怒っていた。人間より花に同情しているのか。
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