33 / 38
第5章 霜降
33.二葉と三苑
しおりを挟む
「お兄ちゃん、その人知り合いだったの?」
二葉と三苑の声がした。家の中から僕たちの様子を伺っていたようだ。
玄関から出て来ると、二人は誠に向かって「こんにちわあ」と愛想良く挨拶した。
だが次の瞬間、ヒッと息を吸う変な音がしたかと思うと、二葉も三苑もその場で固まってしまった。
「え? おい? わあっ、息しろ息っ!」
僕は二人の背中を叩いた。
「ちょっとお兄ちゃん!」
「わっ、何? 何?」
我に返った二人が僕の腕を力いっぱい引っ張って、両側から耳打ちしてきた。
「この人誰? お兄ちゃんのお友達? なんでこんな人と知り合いなの!」
二人して同じことを叫んでいた。
「なんでって……。大家さんの孫なの。たぶん友達」
誠を間近で見たら、女の子なんかは皆こんな反応なのだろうか。それはそれで誠も大変だなと、完全に他人事として思いながら、僕は両腕にしがみつく妹をひっつけたまま誠に向き直った。
「あの、マコちゃん。僕の妹たちが遊びに来ていたんだ。え、と……」
「はじめましてー。妹の二葉ですっ」
「同じく妹の三苑です」
二人とも僕を押しのけるようにして誠の正面に陣取った。
ちょっと近過ぎやしないか?
「……どうも。二宮です」
こちらは愛想もなく、むしろ戸惑い気味に挨拶を返した。
「兄の一郎がいつもお世話になってますっ。あ、ちなみに、あたしは二つの葉っぱと書いてフタバ、妹は三つの苑でミソノです」
「え、と……数字つながり?」
誠は僕に向かって訊いてきた。
いや、そこは目の前の妹たちに言ってやってよ。
二人の圧が強くて誠には申し訳ないと思う反面、あまりに素っ気ないので逆に二葉と三苑がかわいそうになってきた。
だが、妹たちはくじけることなく猛進していった。
「二宮さんって、今おいくつなんですか? お兄ちゃんのお友達ってことは大学生ですか?」
「あたしたち、今、高二と中三なんですけど……」
誠は、いえ、とか、そうですか、とかとりあえずの相槌を打ちながら無表情に話を聞き続けている。時折困ったような表情を見せるだけで、妹たちの頭の中でキャーという絶叫が響くのが僕には聞こえた。
「おおい、二葉も三苑もそろそろ帰る時間だろう。マコちゃん、せっかく来てくれたのに悪い。妹たちが帰るから、バス停まで送りに行くんだ。すぐ戻るけど、もし時間がなければまた後で……」
「いや。菊を見に来た。お前が出ている間、菊を見せてもらっているから、ゆっくり行って来い」
「うん……」
二葉と三苑は誠に丁寧なお辞儀をして、それから思いきり手を振って別れを惜しんだ。
バス停までの短い道中も、二人はずっと誠の話ばかりだった。帰ったら僕のことも借家のことも忘れて、誠のことしか親に報告しなさそうだ。
「二宮さんってホントかっこ良かったあ。不思議な雰囲気の人だよね。お兄ちゃん、お友達ならもっと早く教えてよ」
「無理言うなって。なんで教えるんだよ。だいたい、二人して凄い勢いで迫るから、マコちゃん引いていただろ」
「えー? そう? 無口なだけじゃないの?」
「無口……か?」
「そうそう。それに、女の子とあんまり話したことがなさそうっていうか。勝手なイメージ、男子校出身? かっこいいけどカワイイ? みたいな?」
「あたしもわかる、カワイイ。それだ!」
「カワイイ? 中学女子に言われるのってどうなんだ? ……って、あーっ!」
「あーっ!」
僕と二葉は同時に叫んでいた。
「お兄ちゃんいきなり何?」
「いや、僕はちょっと気づいちゃっただけ。二葉は何?」
「写真! 二宮さんと写真撮っておけばよかった。友達に自慢したかった」
「あたしも撮りたかった!」
「自慢って……パンダとか白クマか? まあ、次に来た時に撮れば? マコちゃんがいいって言うか知らないけど」
「じゃあ来週来る」
「マジか?」
「じゃあお兄ちゃん、二宮さんの写メ送って!」
「なぜ僕が?」
二葉と三苑は本当に機嫌良く帰って行った。兄としては、誠に感謝しよう。
それにしても、誠のどこを見たら無口でカワイイになるのか。それだけはわからなかった。
二葉と三苑の声がした。家の中から僕たちの様子を伺っていたようだ。
玄関から出て来ると、二人は誠に向かって「こんにちわあ」と愛想良く挨拶した。
だが次の瞬間、ヒッと息を吸う変な音がしたかと思うと、二葉も三苑もその場で固まってしまった。
「え? おい? わあっ、息しろ息っ!」
僕は二人の背中を叩いた。
「ちょっとお兄ちゃん!」
「わっ、何? 何?」
我に返った二人が僕の腕を力いっぱい引っ張って、両側から耳打ちしてきた。
「この人誰? お兄ちゃんのお友達? なんでこんな人と知り合いなの!」
二人して同じことを叫んでいた。
「なんでって……。大家さんの孫なの。たぶん友達」
誠を間近で見たら、女の子なんかは皆こんな反応なのだろうか。それはそれで誠も大変だなと、完全に他人事として思いながら、僕は両腕にしがみつく妹をひっつけたまま誠に向き直った。
「あの、マコちゃん。僕の妹たちが遊びに来ていたんだ。え、と……」
「はじめましてー。妹の二葉ですっ」
「同じく妹の三苑です」
二人とも僕を押しのけるようにして誠の正面に陣取った。
ちょっと近過ぎやしないか?
「……どうも。二宮です」
こちらは愛想もなく、むしろ戸惑い気味に挨拶を返した。
「兄の一郎がいつもお世話になってますっ。あ、ちなみに、あたしは二つの葉っぱと書いてフタバ、妹は三つの苑でミソノです」
「え、と……数字つながり?」
誠は僕に向かって訊いてきた。
いや、そこは目の前の妹たちに言ってやってよ。
二人の圧が強くて誠には申し訳ないと思う反面、あまりに素っ気ないので逆に二葉と三苑がかわいそうになってきた。
だが、妹たちはくじけることなく猛進していった。
「二宮さんって、今おいくつなんですか? お兄ちゃんのお友達ってことは大学生ですか?」
「あたしたち、今、高二と中三なんですけど……」
誠は、いえ、とか、そうですか、とかとりあえずの相槌を打ちながら無表情に話を聞き続けている。時折困ったような表情を見せるだけで、妹たちの頭の中でキャーという絶叫が響くのが僕には聞こえた。
「おおい、二葉も三苑もそろそろ帰る時間だろう。マコちゃん、せっかく来てくれたのに悪い。妹たちが帰るから、バス停まで送りに行くんだ。すぐ戻るけど、もし時間がなければまた後で……」
「いや。菊を見に来た。お前が出ている間、菊を見せてもらっているから、ゆっくり行って来い」
「うん……」
二葉と三苑は誠に丁寧なお辞儀をして、それから思いきり手を振って別れを惜しんだ。
バス停までの短い道中も、二人はずっと誠の話ばかりだった。帰ったら僕のことも借家のことも忘れて、誠のことしか親に報告しなさそうだ。
「二宮さんってホントかっこ良かったあ。不思議な雰囲気の人だよね。お兄ちゃん、お友達ならもっと早く教えてよ」
「無理言うなって。なんで教えるんだよ。だいたい、二人して凄い勢いで迫るから、マコちゃん引いていただろ」
「えー? そう? 無口なだけじゃないの?」
「無口……か?」
「そうそう。それに、女の子とあんまり話したことがなさそうっていうか。勝手なイメージ、男子校出身? かっこいいけどカワイイ? みたいな?」
「あたしもわかる、カワイイ。それだ!」
「カワイイ? 中学女子に言われるのってどうなんだ? ……って、あーっ!」
「あーっ!」
僕と二葉は同時に叫んでいた。
「お兄ちゃんいきなり何?」
「いや、僕はちょっと気づいちゃっただけ。二葉は何?」
「写真! 二宮さんと写真撮っておけばよかった。友達に自慢したかった」
「あたしも撮りたかった!」
「自慢って……パンダとか白クマか? まあ、次に来た時に撮れば? マコちゃんがいいって言うか知らないけど」
「じゃあ来週来る」
「マジか?」
「じゃあお兄ちゃん、二宮さんの写メ送って!」
「なぜ僕が?」
二葉と三苑は本当に機嫌良く帰って行った。兄としては、誠に感謝しよう。
それにしても、誠のどこを見たら無口でカワイイになるのか。それだけはわからなかった。
3
あなたにおすすめの小説
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる