日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎

山碕田鶴

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第5章 霜降

33.二葉と三苑

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「お兄ちゃん、その人知り合いだったの?」

   二葉ふたば三苑みそのの声がした。家の中から僕たちの様子を伺っていたようだ。
 玄関から出て来ると、二人は誠に向かって「こんにちわあ」と愛想良く挨拶した。
    だが次の瞬間、ヒッと息を吸う変な音がしたかと思うと、二葉も三苑もその場で固まってしまった。

「え?  おい?  わあっ、息しろ息っ!」

 僕は二人の背中を叩いた。

「ちょっとお兄ちゃん!」
「わっ、何?  何?」

 我に返った二人が僕の腕を力いっぱい引っ張って、両側から耳打ちしてきた。

「この人誰?  お兄ちゃんのお友達?  なんでこんな人と知り合いなの!」

 二人して同じことを叫んでいた。

「なんでって……。大家さんの孫なの。たぶん友達」

 誠を間近で見たら、女の子なんかは皆こんな反応なのだろうか。それはそれで誠も大変だなと、完全に他人事として思いながら、僕は両腕にしがみつく妹をひっつけたまま誠に向き直った。

「あの、マコちゃん。僕の妹たちが遊びに来ていたんだ。え、と……」
「はじめましてー。妹の二葉ですっ」
「同じく妹の三苑です」

 二人とも僕を押しのけるようにして誠の正面に陣取った。
 ちょっと近過ぎやしないか?

「……どうも。二宮です」

 こちらは愛想もなく、むしろ戸惑い気味に挨拶を返した。

「兄の一郎がいつもお世話になってますっ。あ、ちなみに、あたしは二つの葉っぱと書いてフタバ、妹は三つの苑でミソノです」
「え、と……数字つながり?」

 誠は僕に向かって訊いてきた。
 いや、そこは目の前の妹たちに言ってやってよ。
 二人の圧が強くて誠には申し訳ないと思う反面、あまりに素っ気ないので逆に二葉と三苑がかわいそうになってきた。
 だが、妹たちはくじけることなく猛進していった。

「二宮さんって、今おいくつなんですか?  お兄ちゃんのお友達ってことは大学生ですか?」
「あたしたち、今、高二と中三なんですけど……」

 誠は、いえ、とか、そうですか、とかとりあえずの相槌を打ちながら無表情に話を聞き続けている。時折困ったような表情を見せるだけで、妹たちの頭の中でキャーという絶叫が響くのが僕には聞こえた。

「おおい、二葉も三苑もそろそろ帰る時間だろう。マコちゃん、せっかく来てくれたのに悪い。妹たちが帰るから、バス停まで送りに行くんだ。すぐ戻るけど、もし時間がなければまた後で……」
「いや。菊を見に来た。お前が出ている間、菊を見せてもらっているから、ゆっくり行って来い」
「うん……」

 二葉と三苑は誠に丁寧なお辞儀をして、それから思いきり手を振って別れを惜しんだ。
 バス停までの短い道中も、二人はずっと誠の話ばかりだった。帰ったら僕のことも借家のことも忘れて、誠のことしか親に報告しなさそうだ。

「二宮さんってホントかっこ良かったあ。不思議な雰囲気の人だよね。お兄ちゃん、お友達ならもっと早く教えてよ」
「無理言うなって。なんで教えるんだよ。だいたい、二人して凄い勢いで迫るから、マコちゃん引いていただろ」
「えー?  そう?  無口なだけじゃないの?」
「無口……か?」
「そうそう。それに、女の子とあんまり話したことがなさそうっていうか。勝手なイメージ、男子校出身?  かっこいいけどカワイイ?  みたいな?」
「あたしもわかる、カワイイ。それだ!」
「カワイイ?  中学女子に言われるのってどうなんだ?  ……って、あーっ!」
「あーっ!」

 僕と二葉は同時に叫んでいた。

「お兄ちゃんいきなり何?」
「いや、僕はちょっと気づいちゃっただけ。二葉は何?」
「写真!  二宮さんと写真撮っておけばよかった。友達に自慢したかった」
「あたしも撮りたかった!」
「自慢って……パンダとか白クマか?  まあ、次に来た時に撮れば?  マコちゃんがいいって言うか知らないけど」
「じゃあ来週来る」
「マジか?」
「じゃあお兄ちゃん、二宮さんの写メ送って!」
「なぜ僕が?」

 二葉と三苑は本当に機嫌良く帰って行った。兄としては、誠に感謝しよう。
 それにしても、誠のどこを見たら無口でカワイイになるのか。それだけはわからなかった。
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