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2.イケメンも地位も望んでません!
しおりを挟む入学初日――
エリザベスはその日のことを思い返す。
あの時の自分は初めて見る豪華な建物や美術品の数々に浮かれていたのだろう。
入学式やプレ授業が無事に終わって、気が緩んでいたのも原因かもしれない。
外に出たときにふと目に付いた学校の庭園があまりにも素敵で、エリザベスは引き寄せられるように足を踏み入れていた。
さすがお金をかけているだけのことはある。
大輪の薔薇が咲き誇る庭園は庭師によって美しく整えられていて、エリザベスは甘い香りを楽しみながら歩いていく。
その庭園は思っていた以上に広いようで、入り口近くには噴水とベンチがあり、憩いの場として使われているようだった。
奥に進んでいくと、エリザベスの身長よりもさらに高さのある生垣にぶつかった。
これ以上先には進めないらしい。
行き止まりかと諦めて踵を返そうとしたエリザベスは、視界の片隅で何かを捕らえた。
エリザベスがそちらを見ると、視線の先に、生垣の奥に続く木製の扉があった。
……今思えば、あの時なんで扉を開けてしまったのかと思わずにいられない。
けれど、その時のエリザベスは好奇心に駆られて扉を開けてしまった。
ゆっくりとドアノブを回すと鍵はかかっておらず、音もなく扉が開く。
エリザベスが顔を覗かせると、そこには見たこともない美しい光景が広がっていた。
「うわぁ……素敵……!」
円形の敷地にはぐるっと一面薔薇が咲き、薔薇園の中央には真っ白なガゼボが建っていた。
ガゼボの中には同じく真っ白なベンチとテーブルが置かれている。
貴族感溢れる優雅な世界に、エリザベスは興奮した。
――まるで、物語の舞台みたい……!
ここでお茶を飲んだり本を読んだりして過ごせたら、どれほど素敵だろう。
瞳を輝かせていたエリザベスは、この学校には本物の王子様が在籍していることをすっかり忘れていた。
「キミ! そこで何をしているんだ!」
後ろから大きな声がして、次の瞬間、肩を掴まれた。
振り向くと、男子生徒が厳しい顔でエリザベスを見下ろしている。
咎めるような眼差しを向けたまま、彼は口を開いた。
「ここは王族専用の場所だよ」
「えっ?」
王族専用……?
目を丸くするエリザベスに、目の前の男はますます険しい顔になる。
「も、申し訳ございません! 知らずに入ってしまいました」
「知らなかった、ねぇ……」
エリザベスから一歩離れたその男は、まるで品定めするかのように上から下までエリザベスを見ると、フンと鼻で笑って言った。
「そんなことを言って、どうせ殿下とお近付きになりたいとでも思ったんだろう。でも、残念だね。キミみたいな女、殿下は相手にしないよ」
「……は?」
思いもよらない発言にポカンと口を開いたエリザベスは、言葉の意味を理解すると屈辱で顔を真っ赤に染めた。
(な、なんだこの男は……!)
信じられないことに、エリザベスを王太子殿下に媚を売る女だと勘違いしている。
特に腹立たしいのはエリザベスの見た目だけでそれを判断したということだ。
愚かな女だと言わんばかりにエリザベスを見下すこの男に、一言文句を言ってやろうとエリザベスは目を吊り上げる。
けれど相手が誰だか思い当たって、すんでのところで踏みとどまった。
悔しいけれど、エリザベスのいる男爵家では到底太刀打ちできない。
「――どうしたの?」
凛とした声が耳に届く。
二人揃ってそちらを向くと、今まさに話題にあがっていた王太子殿下が大柄な男子生徒を連れてこちらにやってくるところだった。
「アンソワ……」
男の意識がそちらに向いた隙に、エリザベスは一歩離れた。
玉の輿は狙っているけれど、身の丈に合わない人に興味はない。
「なんでもな――……いえ、実はこの方に下手なナンパをされて、困っていたところですの」
「……なんだって!?」
男の驚いた様子に溜飲を下げて、エリザベスはニコッと笑った。
「では、ごきげんよう」
三人に向かい礼をして、その場を後にする。
後ろから何やら騒がしい声が聞こえてくるような気がしたけれど、エリザベスは聞こえないフリをした。
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