【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?

のんのこ

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番外編

元お貴族様が畑仕事に精を出す話③

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その日、村の人間は歓喜に沸き立っていた。


四年前に能力を認められ、平民ながらも王都で宮廷務めをしているブルックが、休暇を使って数年ぶりに村に戻ってくるからだ。




「ブルック?」


「そう、私のいとこ!」


首を傾げるサイに、得意げに返事を返す。




「昔から頭が良くて、官吏の試験にも優秀な成績で合格したの。賢くて堅物だからサイとも気が合うんじゃない?」


「…そうか、宮廷に。立派な人なんだな」



後半の嫌味なんて気にもとめず、感心したようにそんなことを言うサイ。

鈍感なんだか天然なんだか。




「午後にはきっと挨拶に来てくれるんじゃないかな。サイのことも紹介するね」


「…ああ、ありがとう」


小さくお礼を言うと、サイは桶をもって畑に向かっていった。

農作業がすっかり板に付いてきたようだ。




予想通り、お昼を過ぎた頃、いとこのブルックがうちに顔を出した。



「シーナ、久しぶりだな!綺麗になったな」



そう言って私の頭を撫でるブルック。

私にとって彼は実の兄のような存在で、そんな人から褒められるのは素直に嬉しい。



「村のみんなもブルックが帰ってくるの心待ちにしてたんだよ。今日は宴会だって」


「そうなのか?うまい飯が食えるな!」


王都の方が豪華で華やかなご飯が食べられそうだけど、やっぱり故郷の味は恋しかったらしい。





「あ、ブルック、紹介したい人がいるんだけど」


「……結婚すんのか?」


大きく目を見開いてそんなことを言う彼に、ついついげんなりした表情を浮かべる。



「そういうのじゃないよ。今うちに住み込みでお手伝いしてくれてる人がいるの!」


「へえ、じいちゃんもう年だもんな」

「いや、じいちゃんはまだまだ現役なんだけど…なんて言うか、ふらっと現れた浮浪者が、わりかし優秀で引き抜いた、みたいな?」



サイのことをどうやって説明したらいいのかよくわからず、曖昧な表現になってしまう。




「浮浪者…?あやしいやつじゃないのか?」


「身元はわからないけど、優秀で良い人だから大丈夫だと思う。今は畑に行っちゃってるけど、宴会の時に紹介するね」

「…わかった」



なんだか納得していない様子のブルックだが、宴会で会えばサイの人となりは判断してくれるだろう。




「よし、じゃあ村長のとこ挨拶いってくるから、また後でな」


「うん、またね」




■□▪▫■□



広場には多くの村人が集まり、たくさんの料理やお酒がおかれ宴の準備は万端みたいだ。




「ブルックはこの村の誇りだ。今は亡き両親も、きっと空から活躍を喜んでいることだろう!」


お酒で少し顔を赤くした村長がブルックの肩に腕を回して声高らかに告げる。

困った様子のブルックだが、なんだかんだ口角を緩めて嬉しそうだった。




「今日は一段と活気に溢れとるなぁ」

「そりゃそうでしょ。村の誇りが帰還したんだから」


村長の言葉を引用してそう言う私に、じいちゃんはなんだか切なそうに瞳を細めた。



「バルとクララにもあやつの成長を見せてやりたかった」


それは、亡くなったブルックの両親の名前だった。



もう十年も前のことだが、私の両親同様、彼の両親も圧政に苦しめられた犠牲者なのだ。

重すぎる税を払えなかった彼の父は労働力として王都に送られ、ついに帰っては来なかった。


母は心労のせいか病で倒れて、回復することなく亡くなった。



何度も言うが、この村の人間の多くが大切な家族を亡くしているのだ。


ブルックも私も、じいちゃんがいなかったら孤児として、今この世に存在しているかすらもあやしい。





「ブルックが元気そうで良かった。王都の暮らしも充実してるって言ってた」

「じゃろうな。広い世界があやつには似合っとるだろう」



「サイも確か、王都にいたんだっけ?話が合いそうなのに、姿が見えないね」


家を出る時声をかけたのに、まだ畑にいるのだろうか。

なんて考えていると、広場の入口の方にきょろきょろと辺りを見渡すサイを見つけた。




「サイ!」


名前を呼ぶと、こちらに歩いてくる。




「遅くなった」

「早くしないとご馳走様なくなるよ」



そう言うと控えめに微笑むサイは、あまり食に関心がないようだ。

食だけではない。


彼はあまり物事に頓着しない性格らしい。



畑や労働なんかには興味津々のくせに、自分のことを蔑ろにしてばかりいる彼を見ると、少しだけ悲しくなる時がある。



生き急いでるような気がして、もっともっと人生に楽しみや生きがいを見出してもいいんじゃないか。



「はい、せめてミートパイくらい食べなよ。今朝とれたてのうさぎなんだって」


少しだけ冷めてしまっているパイを一切れ渡すと、サイはパクリとはしっこをかじる。



「おいしい」

「でしょう?アップルパイもあるよ」


パイばかりおすすめするのは、単に私の好物だったからだ。




「あ、ブルックのこと紹介するの忘れてた」


ふと、そんなことを思い出し、彼の手を引っ張ってブルックの元へかけ出す。

サイは友人がいないから、同年代の人間と仲良くなれるならちょうどいいのではないか、なんてお節介を焼いてしまう。




「ブルック!」


「お、シーナ。どうした?」

村長から解放され隅っこで休憩していた彼は少し疲れた様子で返事を返した。




「これが、お昼に話したサイ。ブルックと歳も近いから、仲良くしてあげて」



そう言って隣のサイを紹介すると、ブルックは何故か大きく目を見開いて驚きの表情を浮かべるのだった。



目がこぼれ落ちそう。




「サイ、ラス様…?」



「っ、」




驚いているのは、ブルックだけじゃなかった。


サイは、戸惑ったように顔を歪め、呆然とした様子で立ち尽くしている。





「サイラス、様…?」


私はわけも分からず、ブルックの言葉を復唱するのだった。






■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫



新年、あけましておめでとうございます。


約半年ぶりの投稿となりました。

まだ読んでくださる方がいらっしゃるか分かりませんが、書きたい話はまだあるので最後まで更新していきたいと思います。



今年もよろしくお願いいたします。



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