3 / 4
生きるをする
しおりを挟む
朝、家を出た瞬間、じんわりと湿った空気に包まれた。
空は鈍い灰色で、細かい雨が静かに降り続いている。
傘を差しながら駅に向かう途中、アスファルトの匂いと雨の独特な匂いが混ざって、無性に胸がざわついた。
久しぶりの学校なのに、なんでこんな天気なんだろう。
天気まで味方してくれない。
湿気で髪はパサパサに広がって、朝から鏡の前で何度も結び直した。
それでもうまくまとまらず、結局、いつもより下を向いて歩くしかなかった。
教室に入ると、湿った空気と黒板のチョークの匂いが重なって、さらに気分は沈んだ。
いつも隣にいてくれる親友が変わらず「おはよ」と声をかけてくれたけど、私は曖昧に笑って頷くだけだった。
教室のあちこちで、賑やかなグループがそれぞれの話題で盛り上がっている。
その輪の外にいる自分を、改めて突きつけられるようだった。
授業が始まる。
窓の外を見ると、雨は止んでいた。けれど空はまだどんよりと曇ったままで、私の心も晴れる気配はない。
教科書の文字は目の前にあるのに、全然頭に入ってこない。
先生の声が、まるで水の中から聞こえるようにぼんやりと響く。
休み時間。
廊下ですれ違うクラスメイトの視線は冷たくて、私は足早に通り過ぎた。
でも、親友がそっと肩に触れてくれて、少しだけ胸が軽くなった。
昼休み。
お弁当のふたを開ける音が、やけに大きく聞こえる。
笑い声が飛び交う教室の中、私はどこに視線を置けばいいのかわからなくて、スマホの画面をなんとなく眺めた。
けれど、隣にいる彼女が当たり前みたいに私の隣に座って、何も言わずに自分の唐揚げを一つくれた。
それだけで、ほんの少しだけ、自分の輪郭が戻ってくる気がした。
チャイムが鳴って、今日の授業が終わった。
廊下に出ると、いっせいに教室から飛び出していく足音と笑い声が交ざる。
私はゆっくりと机の中を整理しながら、帰り支度をしていた。
カバンのチャックを閉めようとしたとき、隣で立ち上がっていた親友がふと、こっちを見て言った。
「ねえ、今日の放課後、空いてる?」
一瞬、どう返せばいいのか迷って目を泳がせる。
いつも通りのテンションに見えたけど、なんとなく、その声の中に”気づいてるよ”っていう空気を感じた。
「うん、たぶん……空いてるけど」
そう言うと、親友はぱっと笑って、「よし、じゃあ決まり」と言って私の腕を引いた。
「どこ行くの?」
「プリ撮り行こーよ最近全然撮ってなかったじゃん」
「え今日髪ボサボサなんだけど……」
「大丈夫、いつものことなんだから」
ふざけた口調に、思わず笑ってしまった。
ちょっとだけ肩の力が抜ける。
一緒に教室を出て、下駄箱に向かう道、さっきまで感じてた学校の空気が、少しだけ遠くなった気がした。
駅ビルの3階のプリ機。ここが私たちの放課後の定番スポットだった。
前に並んだ親友の背中を見ながら、なんだか懐かしさみたいなものを感じた。
「ちょ、顔近すぎ!」「うわやば!見てこの目のデカさ」「それより口開きすぎじゃん」と、ツッコミ合いながら撮った何枚かの写真。
撮り終えたあと、出てきたシールをスマホで撮って、ふたりで小声で笑い転げた。
「学校だと、なんか呼吸浅くなるよね」
ふと、ぽつりと親友が言った。
私はその言葉に、頷くしかできなかった。
たぶん彼女も、自分とまったく同じではないけど、何かを感じている。
そんな気がして、胸が少しあたたかくなった。
その帰り道。
空は相変わらずどんより曇っていたけれど、雨はすっかり上がっていた。
地面の水たまりをぴちゃぴちゃとローファーで踏みながら、歩く足取りが自然と軽くなる。
イヤフォンを耳に差す。
マカロニえんぴつの『生きるをする』が流れてきた。
「笑ったな、今日」
久しぶりに、心から笑えた気がした。
深呼吸した空気はちょっと冷たくて、でも、さっきまでの自分とは少しだけ違う匂いがした。
次の信号を渡る頃には、自然と背筋が伸びていた。
空は鈍い灰色で、細かい雨が静かに降り続いている。
傘を差しながら駅に向かう途中、アスファルトの匂いと雨の独特な匂いが混ざって、無性に胸がざわついた。
久しぶりの学校なのに、なんでこんな天気なんだろう。
天気まで味方してくれない。
湿気で髪はパサパサに広がって、朝から鏡の前で何度も結び直した。
それでもうまくまとまらず、結局、いつもより下を向いて歩くしかなかった。
教室に入ると、湿った空気と黒板のチョークの匂いが重なって、さらに気分は沈んだ。
いつも隣にいてくれる親友が変わらず「おはよ」と声をかけてくれたけど、私は曖昧に笑って頷くだけだった。
教室のあちこちで、賑やかなグループがそれぞれの話題で盛り上がっている。
その輪の外にいる自分を、改めて突きつけられるようだった。
授業が始まる。
窓の外を見ると、雨は止んでいた。けれど空はまだどんよりと曇ったままで、私の心も晴れる気配はない。
教科書の文字は目の前にあるのに、全然頭に入ってこない。
先生の声が、まるで水の中から聞こえるようにぼんやりと響く。
休み時間。
廊下ですれ違うクラスメイトの視線は冷たくて、私は足早に通り過ぎた。
でも、親友がそっと肩に触れてくれて、少しだけ胸が軽くなった。
昼休み。
お弁当のふたを開ける音が、やけに大きく聞こえる。
笑い声が飛び交う教室の中、私はどこに視線を置けばいいのかわからなくて、スマホの画面をなんとなく眺めた。
けれど、隣にいる彼女が当たり前みたいに私の隣に座って、何も言わずに自分の唐揚げを一つくれた。
それだけで、ほんの少しだけ、自分の輪郭が戻ってくる気がした。
チャイムが鳴って、今日の授業が終わった。
廊下に出ると、いっせいに教室から飛び出していく足音と笑い声が交ざる。
私はゆっくりと机の中を整理しながら、帰り支度をしていた。
カバンのチャックを閉めようとしたとき、隣で立ち上がっていた親友がふと、こっちを見て言った。
「ねえ、今日の放課後、空いてる?」
一瞬、どう返せばいいのか迷って目を泳がせる。
いつも通りのテンションに見えたけど、なんとなく、その声の中に”気づいてるよ”っていう空気を感じた。
「うん、たぶん……空いてるけど」
そう言うと、親友はぱっと笑って、「よし、じゃあ決まり」と言って私の腕を引いた。
「どこ行くの?」
「プリ撮り行こーよ最近全然撮ってなかったじゃん」
「え今日髪ボサボサなんだけど……」
「大丈夫、いつものことなんだから」
ふざけた口調に、思わず笑ってしまった。
ちょっとだけ肩の力が抜ける。
一緒に教室を出て、下駄箱に向かう道、さっきまで感じてた学校の空気が、少しだけ遠くなった気がした。
駅ビルの3階のプリ機。ここが私たちの放課後の定番スポットだった。
前に並んだ親友の背中を見ながら、なんだか懐かしさみたいなものを感じた。
「ちょ、顔近すぎ!」「うわやば!見てこの目のデカさ」「それより口開きすぎじゃん」と、ツッコミ合いながら撮った何枚かの写真。
撮り終えたあと、出てきたシールをスマホで撮って、ふたりで小声で笑い転げた。
「学校だと、なんか呼吸浅くなるよね」
ふと、ぽつりと親友が言った。
私はその言葉に、頷くしかできなかった。
たぶん彼女も、自分とまったく同じではないけど、何かを感じている。
そんな気がして、胸が少しあたたかくなった。
その帰り道。
空は相変わらずどんより曇っていたけれど、雨はすっかり上がっていた。
地面の水たまりをぴちゃぴちゃとローファーで踏みながら、歩く足取りが自然と軽くなる。
イヤフォンを耳に差す。
マカロニえんぴつの『生きるをする』が流れてきた。
「笑ったな、今日」
久しぶりに、心から笑えた気がした。
深呼吸した空気はちょっと冷たくて、でも、さっきまでの自分とは少しだけ違う匂いがした。
次の信号を渡る頃には、自然と背筋が伸びていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる