紫房ノ十手は斬り捨て御免

藤城満定

文字の大きさ
8 / 41

お静さんは元忍者〜其の壱。

しおりを挟む
 相模ノ統吾郎一味が揃って処刑されてから早、半月が過ぎようとしている。
 伝三郎は相模ノ統吾郎一味の探索と早期捕縛の功を認められて御褒美金として金十両を下し置かれたので、その半金を堀越ノ藤助と勘吉を始めとする下っ引き連中に配った。
 丸九でとろろ飯を食べていたら、外から『丸九』の屋号を染め抜いた前掛けをした女が入ってきた。
 歳の頃なら二十を幾つか過ぎたくらいだろう。
 色白で目鼻立ちもスッとしていて、実に良い女だ。
「お玉。雇ったのか」
「はい。昨日から家で働いてもらってるお静さんですよ」
「ふ~ん。そうかい。お静さん、ねぇ」
 伝三郎は顔をチラッと見ただけで、その目は足を見ている。
「女将さん。此方のお武家様は」
「ああ。此方は南町奉行所年番方与力付同心小柳伝三郎様だよ。ほら、ご挨拶して」
「も、申し訳ありません。私はお静と言います。どうぞよろしくお願いします」
「うん。中々に元気が良いな。器量も悪くないし、気立ても良さそうだ。俺は小柳伝三郎だ。よろしくな」
「は、はいっ」
 瞬間。
 伝三郎はお辞儀するお静の頭に十手で必殺の一撃を打ち込んだ。
 ガキンッ。
 その必殺の一撃はお静が帯から抜いた細身の鎖で防がれた。
 藤助とお玉は驚いて息を呑んだ。
「女。いや、お静。テメェは忍びだな」
「何だい。バレてたのかい。上手く町娘に化けてたんだけどね。何で分かったんだい」
「足だよ足」
「足がどうしたってんだい」
 お静は不思議そうに自分の足を見る。
「足捌きだよ。普通の町娘が忍び足なんぞで歩くもんか」
 伝三郎に指摘されたお静は、しまったという顔をしたが、笑い出した。
「まさか、そんな事で見破られるとは思いもしなかったよ。旦那は本当に同心なのかい。まさか御庭番じゃないだろうね」
 御庭番というのは今で言う所のスパイや暗殺者で、紀伊藩主徳川吉宗が将軍宣下を受けて将軍位に就いた時に紀伊藩から連れてきた忍びの一団である。
 そんなお静の言葉に伝三郎は吹き出した。
「お、俺が御庭番か。それは面白いな。上様の御庭番じゃあねえが、似たようなお役だな」
「隠密同心って奴かい」
「いんや、違う。人斬り同心だ」
 伝三郎は定羽織の紋所を十手の先で指し示した。
「この紫房ノ十手と葵ノ御紋所は、悪党ならば身分の上下を問わず、問答無用で斬り捨てろって意味でな。まあ、早い話しが『悪即斬』を許されてるってわけだ」
「そんなの聞いた事ないよ」
「だろうな。俺も聞いた事は無かったからな。まあ、将軍様が権現様(徳川幕府初代将軍家康公の事)だった頃の柳生の一族と似たり寄ったりだな。で、だ。オメェは抜けたのか、それとも御用か」
「抜けたよ。但し、抜け忍じゃあないよ。頭領に願って正式に抜けたんだ」
「そうかい。それなら面倒事はねえな」
「勿論さ。小柳の旦那。よろしくね。何かあったら言っとくれ。何かの力になれるかもしれないからね」
「おう。そん時は頼む。おい、お玉。お代わりだ」
 しかし、お玉は返事もせず、息も止めている。
「お、た、まっ」
 伝三郎が大きな声で呼ぶと、やっと正気を取り戻したようで変に甲高い声で返事をした。
「お代わりだよ」
「え、あ、は、はいっ」
 お玉は板場に走って、とろろ飯のお代わりを作りはじめた。
「お静。藤助は話しの分かる漢だ。お玉も気風の良い姉御肌だ。じっくりと話し合うんだぜ」
「そうさせて貰いますよ」
「追い出されたら、家に来い。一人二人雇ったってどうって事はないからな」
 わははは、と大笑いしながらお代わりのとろろ飯を掻き込む伝三郎だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

【アラウコの叫び 】第3巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎週月曜07:20投稿】 3巻からは戦争編になります。 戦物語に関心のある方は、ここから読み始めるのも良いかもしれません。 ※1、2巻は序章的な物語、伝承、風土や生活等事を扱っています。 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる …はずだった。 まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか? 敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。 文治系藩主は頼りなし? 暴れん坊藩主がまさかの活躍? 参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。 更新は週5~6予定です。 ※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。

連合艦隊司令長官、井上成美

ypaaaaaaa
歴史・時代
2・26事件に端を発する国内の動乱や、日中両国の緊張状態の最中にある1937年1月16日、内々に海軍大臣就任が決定していた米内光政中将が高血圧で倒れた。命には別状がなかったものの、少しの間の病養が必要となった。これを受け、米内は信頼のおける部下として山本五十六を自分の代替として海軍大臣に推薦。そして空席になった連合艦隊司令長官には…。 毎度毎度こんなことがあったらいいな読んで、楽しんで頂いたら幸いです!

処理中です...