上 下
3 / 91

転移の翌日

しおりを挟む
 柔らかい朝日が大きな窓から差し込んでオレの顔を照らす。
 うー……あと四時間だけ……眠いから……やっぱり一日寝させてぇ……。
 学校?えー?寝たい。
 あ、そんなに揺らさないで。布団がはがれてしまうからー。

「……さい。……きてください」

 んー?誰?
 うっすら目を開けるとなんか自分の部屋じゃないし……。ここどこですか?

「起きてください!結城様!」

 あぁ!さむい!
 ついに布団がはがれてしまった。もっと寝てたかったんだよぉ……。

「ん……?あー……おはよう。メイドさん」

 意識がはっきりしてきて、ここがどこだかわかった。王宮のオレに与えられた部屋の中。もっと詳しくすると、ベッドの上。

 そうそう、昨日クラスごと異世界に召喚されたんだったね。思い出した。

「はい、おはようございます。結城様」
「あれ、これは?」

 着替えを、とあたりを見回して見つけたのはこの世界の服。地球でいう中世ヨーロッパの服に似ている。いや、違うな……。そういう時代を模したアニメやマンガなんかで着ている服。そっちのほうがしっくりくるかな。

「お着替えでございます。それに着替えて王女様に謁見をしていただきますので」

 そう言い残してメイドさんは部屋から出ていった。
 
 オレにとっては懐かしい服だね。オレが着ていたのはもっと上質なものなんだけど、ときどきお忍びで街に繰り出すときとかにお世話になっていた。

 女子の服はドレスワンピになるから地球とそんなに変わんないよな。あ、でも、チュニック風のタイプもあるんだったよな。
 クラスの女子がどんなふうになるか、密かに楽しみにしている。

「でも、昔から変わらないんだな」

 オレが生きていたのって三千五百年前だよ?すごくない?地球はそれだけあったら、変わっていっていたよ。紀元前から現代だもんね。毛皮から化学繊維の服に変わっていった。

「結城様、着替え終わりましたか?」

 コンコンとメイドさんがドアをノックして、声をかける。
 着替えは終わったから、その声に返事を一つして部屋を出る。 
 今日もメイド服をピシと着こなしていますね、メイドさん。

「では、謁見の間へまいります」

 王女さんのもとへ行くまでの間に、クラスメイトのうちの何人かと出会う。
 そのうちの女子の服は、とても良いものでした。ええ、とっても。

 今日の王女さんは昨日より質素なドレスを着ていた。昨日が派手だったからちょうどいいくらいだね。
 そしてレステリア石を当たり前のことだが、胸元 につけている。

「勇者様方、よくお眠りになられたでしょうか。今日から、訓練を開始させていただきます。前衛組は訓練場へ、後衛組は書庫へ」

 当たり前のようにオレたちは戦うことになっていた。昨日は魔王のことを聞きはしたけど、倒すとは言っていない。反論もしなかったから、認めたことにされているのかもしれないね。
 その証拠に未だ誰も戦うことを拒否しない。むしろ、魔王討伐という大きな目的と力を得てやる気に満ち溢れている。
 多少心配そうな顔をしているやつもいるけど、心配そうにしているだけで、瞳は輝いている。

「訓練が終わったあと、もう一度お集まりください」

 王女さんがそう言うと、すっと二人の人間が出てきた。片方は鎧をまとっていて、もう片方はローブに杖を持っている。

「オレはユーゴ=テディア。きみらの訓練を担当する」
「アタシはキラ=テディア。後衛組はよろしくね」

 ユーゴは熱血系、キラは清楚な女性。後衛組でよかったね。

 キラについて書庫へ向かう。今回向かっているのは、昨日行った第一書庫ではなく、第二書庫。第一書庫より専門的な書物が揃っている書庫だという。
 
「もう一度自己紹介するわ。キラ=テディア、レステリア王国魔道士団副団長。よろしくね、十五人の後衛組たち」

 嬉しいかな、後衛組は男女比が一対ニ。クラスの女子の殆どが後衛組にいるのだ。
 もちろん三鷹も後衛組だ。

「魔法の基礎から始めましょう」

 魔法には三タイプある。一つは攻撃魔法。戦う上で、魔法を使うものが習得していないと話にならない物。二つ目は防御魔法。攻撃だけでは魔法を使うものの戦闘は成り立たない。三つ目は回復魔法。これがあれば、治癒師として重宝される。

 そして、魔法を使うには魔力が必要でステータスではMPと表記される。マジックポイントだとかマナポイントだとか、地域によって名称は違うらしい。

 魔法には属性というものがあって、基本六属性と空間、時空、魔の九属性がある。
 基本六属性は、火、水、木、土、闇、光の六つ。
 人によって使える属性の数が違うらしい。

 オレは基本六属性と空間魔法しか使えない。基本六属性以外は、簡単に使えない。使えるようになるまでに五十年近くかかるから。
 人間だとおじいちゃんになってしまうね。だから、人間はなかなか習得しようとしないんだよね。

「明日は魔法の使い方を教えるからね」

 二時間くらいきっちりと魔法の基礎を叩き込まれた。お尻が痛いのです。椅子が木そのままで固くてね……。

「ちょっと、ミタカン?起きてよ~」
「終わったよー?」

 ミタカンと呼ばれているのは三鷹で、机に倒れて気持ち良さそうに寝ている。昨日あのあとも遅くまで書庫にこもっていたのか……。

「また、書庫に篭もるか」

 二時間くらいとはいえど、まだ日は高い。三千五百年の知識の穴を埋めないと。
 今度はスライムに負けない数の魔王に関する書物を見つけたい。なんか悔しいんだよ。
 夢にだってスライムが出てきて、オレに覆いかぶさってくるんだ……。軽くホラーだぜ。

 しばらくこんな毎日が続くのかねぇ……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

巻き込まれ召喚された賢者は追放メンツでパーティー組んで旅をする。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:3,158

運命の番(同性)と婚約者がバチバチにやりあっています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,840pt お気に入り:30

国を追い出された令嬢は帝国で拾われる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:3,032

殿下、私たちはもう終わったんですよ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:6,785

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

BL / 連載中 24h.ポイント:5,271pt お気に入り:2,714

処理中です...