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トニカ 日常編

秘めた想いと文字練習

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 とにか、あおいのことがすきなの。

 あおいはこまってたとにかのことをたすけてくれた。しりあいでもなかったのに、やさしいえみをむけてくれて、てをさしのべてくれた。

 そのときから、あおいがとにかのなかでとくべつなひとになったの。

 でもね、とにかはにんげんじゃないから、もしとにかからすきっていわれたらあおいはきっとこまるよね。

 だからいわないでおくの。

 たいせつなひとをこまらせたくないから。

 これまでそうしてきたように、いっしょにおしごとする。
 それだけでいい。
 それいじょうなんてのぞまない。

 だからこのさきもずっと、ながいこと、あおいといっしょにおしごとできたらいいなぁ。

 それがとにかのきもちなの。

 でも、やりたいこともあって、それはもじのれんしゅう!

 もじをきちんとかけたなら『ありがとう』のきもちをあおいにつたえられるから、それだけはがんばってやっていきたいの。


 ◆


「お! トニカちゃん、また字の練習してるん?」

 テーブルに向かって何かを手を動かしているトニカを発見したアオイが声をかける。

「……ちょっと、だけ」
「へえー、ちょっとだけ――って、うわ! 字多っ! めっちゃ書いてるやん!?」

 トニカの手もとを覗き込んで驚くアオイ。

 そう、そこには、同じ文字が百個ずつ並んだ紙があったのである。

 ちなみにそれらはすべてトニカが書いたものである。それゆえ少々乱れはある。しかし、ぎこちなくても温かな雰囲気のある、見るからに可愛らしい文字だ。

「もうこんな練習したん!?」

 アオイは大きな反応を見せる。

 しかしそれは演技ではない。
 演技じみていても実際演技ではないのだ。

 彼は基本そんな感じなのである。

「……ぅ、ぅん……まだ、まだ……ちょっと、だけ」

 そんな派手な反応をしてもらったトニカは身を縮め頬を微かに赤らめる。

「いやそんなことないやろ! 結構多いて!」
「ぉ、う……か、な……?」
「多い! 凄いわこれ!」
「……ぁ、り、がと……ぅ」

 トニカの文字練習はまだ終わらない。

 いや、むしろここからが本当の挑戦の始まりだ。
 愛しい人から褒められたことでやる気の炎は燃えあがる。

 トニカの小さく冷たい身体の中で、やる気という火が熱く熱く燃え盛っているのである。


◆終わり◆
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