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『婚約者のこと、愛していたのですが……残念な結果となりました。ではこれにて、さようなら。』

 婚約者ルィウェールのことを私は愛していた。
 彼となら明るく生きてゆけると信じていたのだ。

 ――でもそれは間違いだった。

「ねぇルィウェール、本当にいいのお? 婚約者さん、いるのでしょお?」
「いいんだよ」
「本当でしょぉねぇ」
「あったりまえだろ。だって俺、愛してねぇし。あんな女、ダサいばっかでさ、良いところなんて一個もねぇよ」

 ルィウェールは私のことを愛さないのみならず私の悪口を平気で言ってしまうような人だった。

 ああそうか、結局彼は私を見下していたのか。

 ダサい女。
 良いところなんてない女。

 そんな風に見て、心の中では私のことを馬鹿にしていたのだ。

「ちょっとぉ、酷いわよぉ?」
「いいんだよ事実だし」
「んもぉ~!」
「何と言おうが俺の自由だろ」

 ……許さない、絶対に。

「アーピレホーピラアーピレホーピラアーピレホーピラアーピレホーピラ、キエエエエエェェェェェェォゥホォォォォォイ!!」

 私は木の陰から飛び出し、呪文を唱える。

「なっ、どうしてお前ここにっ……!?」

 彼は驚いたような顔でそう言ったけれど、次の瞬間には石になっていた。

 ――そう、これは石になる魔法だ。

「ルィウェールさん、見下していた女に石にされて……今どんな気持ちです? ……ではこれにて、さようなら。あ、ルィウェールさん、当たり前ですが婚約は破棄しますからね!」

 復讐はこの手で。

 それがすべてだ。


 ◆


 あの後も色々あったけれど、なんだかんだで私は幸せを掴めた。

 ルィウェールは今も石になったまま。
 永遠に人には戻れない。
 彼はもう無限の時を石として生きるしかないのだ。

 でも自業自得。
 だってすべては彼の行いが招いたことだから。


◆終わり◆


『婚約破棄を告げるためにまずは殴るなんていうのは……さすがにどうかと思いますよ。』

 その日は突然やって来た。

「よく来たな、エリアリア」

 私エリアリアは婚約者ロッゼルに呼び出された。

 それはとても珍しいこと。
 なんせ彼は私を呼び出したりは滅多にしないのだ――関心がないから。

「用事とは何でしたでしょうか?」
「悪いな急で」
「いえ……」
「そうか。では早速、話へ進ませてもらおう」

 刹那、ロッゼルは急に殴ってきた。

「え……ゃ、ちょ……っ、ぇ……」

 何が起こったのか、すぐには分からない。

 鉄の味が口腔内に広がる。

「婚約は破棄だ!!」

 彼はそう叫ぶ。

「一体、それって、どういう……?」

 何が何だか、まったくもって分からない。

「お前との関係は終わりとする!!」
「えええ……」
「全部おしまいだ!!」
「な、何も、殴らなくても……」
「うるさい黙れ! また殴られたいのか? それが嫌なら何も言うな、口を開くな!!」

 ――こうして私は一方的に切り捨てられたのだった。

 だがその数日後ロッゼルは亡くなった。
 普通に道を歩いていたところ屈強な男数名に取り囲まれて金品を出すよう命令され断ったところ暴行を加えられたとのことであった。
 で、それによって彼は死に至ることとなる。
 複数の男から殴る蹴るされてしまえばダメージは決して小さなものではない。

 ……彼の肉体はそこまで強くなかったようだ。

 そうしてロッゼルは幸せな未来を手に入れられないままこの世を去ることとなり、それとは対照的に私は爽やかな気持ちで明るい明日を目指せることとなったのだった。


◆終わり◆


『婚約破棄宣言されたので分身します!』

「貴様との婚約、破棄とする!!」

 とある晩餐会にて、婚約者である彼アルフレットンがそんな風に宣言してきた。

「そうですか、では……」

 私はもう隠さない。
 最後に驚かせてやろう。

 覚悟を決めて、生まれつき得意としていた技を披露する――そう、それは、私にしかできない特別な技――分身の術、だ。

「なっ……目、目が!? 目が!? おかしくなってしまったああぁぁぁぁぁ!?」

 私が分身するとアルフレットンはパニックに陥る。

「何が起きたんだぁぁぁぁぁ!? ひぃええぇぇぇぇ!? きょわあああぁぁぁぁぁぁっん、ふっ、ふぃえええぇぇぇぇぇぇっ!? きぃあああああああ!! どうかなった、どうかなった、どうかなっちゃったよおおおおお!! ママぁぁぁぁぁ助けてええぇぇぇぇぇ!!」

 パニックに陥ったアルフレットンはその場で何周か回転して倒れた。

 ――アルフレットンは衝撃を受けすぎたために心臓が止まりそのまま死亡してしまったのだった。


 ◆


 あれから数年、私は資産家の男性と結婚して幸せになった。

 夫となったその人は私のことを大切にしてくれている。だからこそ彼には心から感謝しているし、私もまた彼のために生きてゆこうとも思えている。

 私たちは共に寄り添い合いながら歩んでゆく。

 だから大丈夫。
 どこまでだって行ける。


◆終わり◆


『婚約破棄後、私たちは真逆のような人生を歩むこととなりました。』

「エイリア、君とはもう関わらない……よって! 婚約は破棄とする!」

 婚約者である青年ルィードはある日突然呼び出してきてそんなことを告げてきた。

「あ、そうですか。分かりました。では私はこれで。失礼します」
「えっ……」
「どうされました? ルィードさん」
「あ……ゃ、べつに……」
「おかしな顔をなさっていますが」
「うっ……うるさいっ!! 何を偉そうに! ふざけるな!!」

 面倒臭い気持ちが込み上げてきたので、私はそのまま彼の前から去ることにした。

 ……だってもうすべて終わったのだ。

 彼との関係は終わりを迎えた。
 この道に先はない。


 ◆


 あれから数年。
 私たち二人は真逆のような人生を歩むこととなり今日に至っている。

 ルィードは婚約破棄後間もなく一人の女性に惚れたそうなのだが、その女性が実は裏社会の人間で、女性の策にはめられた彼は内臓を抜かれることとなってしまったそうだ。

 つまり、彼はもうこの世にはいないのである。

 それとは対照的に私は幸福を掴んだ。
 王子に見初められ結婚、今は穏やかに城で暮らしている。


◆終わり◆
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