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『婚約者を実妹に奪われましたが……結果的にはラッキーでした。なぜって……後に色々ややこしいこととなったようだからです。』

「悪いわねぇ、お姉さま。彼、ローベッド様は、わたくしを選ぶんですって」
「すまないな。悪いがもう君とは生きない。僕は彼女、ネネさんを選ぶ。よって、君との婚約は破棄とする」

 ある日のこと、実妹ネネと我が婚約者ローベッドが二人揃って私の前に現れた。

「え……」

 いきなりのことにそんなことしかこぼせなくて。

「驚いてるみたいねぇ、お姉さま。うっふっふふっ」
「悪いな。ははは」

 そんな私を見て、二人は馬鹿にしたように笑っていた。

 ……私は馬鹿にされている、のか。

 悲しいし、切ないし、虚しい。でもそれでも私は生きてゆくしかないのだ。だから息をするし、だからこそ生の道を進む。それしか道はない。


 ◆


 あの後ローベッドとネネは結婚した。

 しかし結婚後間もなくローベッドは山賊に襲われるという悲劇に見舞われ、命こそ取り留めはしたものの幼児退行してしまった。

 かつてのローベッドはもういない。

 ローベッドは今、幼い子のようにおもちゃで遊ぶことくらいしかできないのだ。

 そんなローベッドの介護を強いられることとなったネネは不満を抱え、やがて心を病み、しまいに窓から飛び降りてこの世を去った。

 二人に幸せな未来はなかった。


 ◆


 あれから十年。
 私は良き夫と共に温かな家庭を築くことができている。

 彼との、そして子どもとの、忙しくも幸せな日々。それはとても愛しいもの。私にとっては何よりもの宝物だ。


◆終わり◆


『婚約者でもある理不尽な男にこき使われて辛い日々だったのですが……?』

 婚約者アダムスは理不尽な男だ。

「タローシア! お前! どうしてそんなとろいんだ!」
「すみませんっ」

 婚約を機に彼の家へ移り住むことを求められた。私はそれを受け入れた、のだが、それが地獄の始まりで。同じ家に住むようになってからというもの、私は奴隷のようにこき使われてしまうようになってしまった。

「早くお茶を淹れろと言っているだろう!」
「命じられていたトイレ掃除をしていました」
「遅い! とろい! いい加減にしろよタローシア!」

 雑用を押し付けられる。
 次々に指示される。
 そして、少しでも遅れると、心ない言葉を投げつけられる。

 ……もう嫌だ、こんな生活。

「ごめんなさいっ」
「コラ!」

 怒りに支配されたアダムスは空になったマグカップを投げつけてきた。

「おせぇんだよ! いちいち! 早くやれよタローシア!」

 ……この地獄から抜け出す方法はないのだろうか。

「あー、なんてこった、こんなのろのろ女が婚約者だとか……はーぁ、疲れるわ」

 その日の晩、外でシーツを洗うことを強要されていた。

 ふと空を見上げて。
 視界に夜空を駆ける星が見えた。

(この地獄から逃れたい)

 私は流れ星に祈る。


 ◆


 翌朝、アダムスは、自室にて死んでいた。

 大量の酒を飲んでいたようだ。で、酷く酔っ払い、嘔吐してしまったよう。その際に吐き出した物が喉に詰まり、そのまま落命したそうである。

 こうして私は解放されることとなった。

 あの祈りは神様に届いたみたいだ。
 私はもう自由。

 これからは自由な心で歩んでゆこう、私自身の幸福のために。


◆終わり◆


『あの雷雨の夜、貴方はこの世を去った。』

 あの雷雨の夜、貴方はこの世を去った。

 私たちは愛し合っているはずだった……なのに、現実は厳しいもので、黒い現実は私の綺麗な心を突き刺し粉々にしてしまった。

 貴方が裏切っていたと知ったあの夜。
 今でも思い出せる。
 私ではない女を抱き締め甘い声を絡めている貴方を目にした瞬間の記憶。

 ……そして私の中の何かが壊れた。

 怒りに飲まれた私は呪文を唱えて。それによって貴方は死んだ。貴方に、そしてその隣にいる艷やかな女に、雷が落ちて。それによって四肢を甘く絡めていた二人は生を終えることとなったのだった。

 誰が二人を殺したのか。
 そんなことは誰にも分からない。

 私だけが知っている。

 でも、私は死ぬまでそのことについて誰にも話すつもりはない。


◆終わり◆


『突然婚約破棄されました。~貴方への想いはまだ消えはしませんが~』

 貴方のことを愛していました。
 けれども貴方は私を選んではくれなかった――いいえ、正しくは、一度は選んでおきながら私を理不尽に切り捨てたのです。

 そんな心ないことをされた私がどれほど悲しかったか、きっと貴方は気づいていないのでしょう。

 けれども傷つくのです。
 私も人ですから。

 婚約しておいて急に婚約破棄してくるというのは、明らかに問題のある行為ではないかと思います。

 ……それでも、どうしようもなく、貴方を愛していて。

 だから貴方を責めきれない私もいるのです。
 それがとてももどかしい。
 でもそういう複雑さこそが人の心というものかのかもしれませんね。

 ……あぁ、本当に、人とは難しい生き物。

 貴方を嫌いになれたならどんなに良いでしょう。

 そうすればきっと貴方に感情の刃を向けられるのに……。


◆終わり◆
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