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悪いことなんてしていないのに……婚約破棄されるなんて、理不尽です。~苦難も越えて名誉を掴む~
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その日、私は、自宅の庭にて踊りの練習をしていた。
「はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はいしょ! ほれしょ! はいしょれしょかしょかしょれしょらしょ! はいっ!」
その踊りというのは、この村で文化の一つとなっている伝統舞踊である。
服装は何でもいい。本来であれば特別な衣服をまとって踊るのだが、今はあくまで練習のため何の服をまとっていたとしても関係はないのだ。ただし、扇は要る。それは舞うために必要なことだからである。
「しょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらほいほいほい! しょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょれほいほらほい! はい! せい、はいっ! せい! せい! せいせいせいせいせいせいせいせいしょっほらせいせいはい! はい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい!」
この村ではある程度の年になれば女性は必ずこれを習い身につけるのだ。
……だが、隣町の人間であり私の婚約者であるリーズベリアルはそのことを知らず。
「何だ、その踊り。キモ。ごめん、もう無理だわ。君のことそういう目で見られなくなったわ。てことで、婚約は破棄な」
それゆえ、私が踊っているところを目撃して引いてしまったようで。
「見るからにおかしいじゃん、その踊り。きついわ。君がそんなにあれな娘だとは思わなかった……がっかりだわ。……じゃね、バイバイ」
さらりと言われ、婚約破棄されてしまったのだった。
ひたすら悲しい……。
ただ踊っていただけなのに……。
でも、この村で生きていく以上、この踊りを避けることはできない。だからこの運命もまた避けることのできない運命なのだ。つまり、彼と別れることになるのも運命。ある意味それは定めであったのだろう。
定めなら仕方ない、そういうこともある。
……とにかく、今は前を向こう。
◆
婚約は破棄となってしまったが、その後踊りに集中した私は国内からその踊りを注目されるようになり、やがて有名人になった。
「では! 披露していただきましょう!」
「よろしくお願いします」
そしてついに国営放送にも踊りで出演することになる。
「はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はい! らったからったんらったからったんらったからったんらったからったんはあぁーーっい! はい! はい! はははい! はいとらほいしょ! ほいしょ! ほいしょ! ほっしょっとら! は!」
村の伝統的な衣装をまとい、四肢を柔らかく伸ばす。
「ふうぅーっとはい! はい! しょっとのしょっとのしょしょらとはい! はい! せいせいせせせい、せいせせせいはい、せいほらせあぼれせいほらせあぼれはい! はい!」
腕を伸ばす。
指の先にまで感情を乗せて。
「はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はいしょ! ほれしょ! はいしょれしょかしょかしょれしょらしょ! はいっ!」
ふわりと宙を舞う身体。
軽やかにステップを踏む。
「はーっ、しょ!! はーっ、しょ!! ほいーっ、しょ!! せいせいせせせい! はーっ、しょ!! ほーっ、しょ!! へいへいへへろへへいろへへい! はい!!」
足の先、爪先にまで、魂の揺れが伝わるかのような感覚。
「ははーいっ、とーれぃっ、はいほれなんしょこしょい! しょい! しょ! しょ! しょ! しょい! はいほらはいほらはいほらへい! へい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! ほとれとよいしょ! ららしょ! はいしょれしょかしょかしょれしょらしょ! はいっ!」
そう、踊りとは魂の輝き。
「はーっ、しょ!! はーっ、しょ!! ほいーっ、しょ!! といとい! といとと! とらとと! といとら! しょい! しょい! はあぁーーっい! せいとととい! はーっ、しょ!! ほーっ、しょ!! へいへいへへろへへいろろのろろへろろのろうるいす! っ、はぁ!! ろへへい! はい!!」
荒れるも、揺れるも、すべてを絞り出して舞う。
「しょっしょらしょっしょくしょっしょてしょっしょぺしょっしょにしょっしょらろほろろほほろそ! ほいほいほい! しょっしぇらしょっしぇらしぇっしょらしゅっしょらしゃっしょらしょっしょれほいほらほい! はい! せい、はいっ! せい! せい! せいせいせいせいせいせいせいせいしょっほらせいせいはい! はい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はーいっ、とーれっ、どれはい! はいほれしょい! しょい!」
そうして私は踊り手として地位を得る。
婚約破棄なんて忘れてしまうほどに、毎日は忙しくなった。
◆
踊りによって人間国宝となった私は、後に国王の考えもあり王子と結婚することとなった。
最初は躊躇いもあった。
王子という貴い人の相手が私で良いのか、と。
けれども王子はいつも温かく接してくれたし思いやりを持って関わってくれた。だから次第に私も彼を大切に想うようになっていったし、彼と生きていきたいと真っ直ぐに思うようになってもいったのだ。
今はただひたすらに彼を愛している。
だから私は王子を支えて生きてゆくつもりだ。
この先どんなことがあっても彼と共にあれるのであれば迷いなく立ち向かってゆけるだろう。
ちなみに、だが。
リーズベリアルは婚約破棄後毎晩悪夢にうなされるようになってしまったそうで、今は寝ることを極端に恐れるようになっているらしく、薬を大量に飲まない限り眠れないといったような状態だそうだ。
で、そんなだから普通の生活もできず。
寝不足のせいか小さなことでも失敗ばかりなので、仕事でもやらかしを繰り返してしまい、それによってクビになったらしい、
普通の暮らし。
心の平穏。
生きる糧となる仕事。
リーズベリアルは多くのものを失ったようである。
◆終わり◆
「はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はいしょ! ほれしょ! はいしょれしょかしょかしょれしょらしょ! はいっ!」
その踊りというのは、この村で文化の一つとなっている伝統舞踊である。
服装は何でもいい。本来であれば特別な衣服をまとって踊るのだが、今はあくまで練習のため何の服をまとっていたとしても関係はないのだ。ただし、扇は要る。それは舞うために必要なことだからである。
「しょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらほいほいほい! しょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょらしょっしょれほいほらほい! はい! せい、はいっ! せい! せい! せいせいせいせいせいせいせいせいしょっほらせいせいはい! はい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい!」
この村ではある程度の年になれば女性は必ずこれを習い身につけるのだ。
……だが、隣町の人間であり私の婚約者であるリーズベリアルはそのことを知らず。
「何だ、その踊り。キモ。ごめん、もう無理だわ。君のことそういう目で見られなくなったわ。てことで、婚約は破棄な」
それゆえ、私が踊っているところを目撃して引いてしまったようで。
「見るからにおかしいじゃん、その踊り。きついわ。君がそんなにあれな娘だとは思わなかった……がっかりだわ。……じゃね、バイバイ」
さらりと言われ、婚約破棄されてしまったのだった。
ひたすら悲しい……。
ただ踊っていただけなのに……。
でも、この村で生きていく以上、この踊りを避けることはできない。だからこの運命もまた避けることのできない運命なのだ。つまり、彼と別れることになるのも運命。ある意味それは定めであったのだろう。
定めなら仕方ない、そういうこともある。
……とにかく、今は前を向こう。
◆
婚約は破棄となってしまったが、その後踊りに集中した私は国内からその踊りを注目されるようになり、やがて有名人になった。
「では! 披露していただきましょう!」
「よろしくお願いします」
そしてついに国営放送にも踊りで出演することになる。
「はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はい! らったからったんらったからったんらったからったんらったからったんはあぁーーっい! はい! はい! はははい! はいとらほいしょ! ほいしょ! ほいしょ! ほっしょっとら! は!」
村の伝統的な衣装をまとい、四肢を柔らかく伸ばす。
「ふうぅーっとはい! はい! しょっとのしょっとのしょしょらとはい! はい! せいせいせせせい、せいせせせいはい、せいほらせあぼれせいほらせあぼれはい! はい!」
腕を伸ばす。
指の先にまで感情を乗せて。
「はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はいしょ! ほれしょ! はいしょれしょかしょかしょれしょらしょ! はいっ!」
ふわりと宙を舞う身体。
軽やかにステップを踏む。
「はーっ、しょ!! はーっ、しょ!! ほいーっ、しょ!! せいせいせせせい! はーっ、しょ!! ほーっ、しょ!! へいへいへへろへへいろへへい! はい!!」
足の先、爪先にまで、魂の揺れが伝わるかのような感覚。
「ははーいっ、とーれぃっ、はいほれなんしょこしょい! しょい! しょ! しょ! しょ! しょい! はいほらはいほらはいほらへい! へい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! ほとれとよいしょ! ららしょ! はいしょれしょかしょかしょれしょらしょ! はいっ!」
そう、踊りとは魂の輝き。
「はーっ、しょ!! はーっ、しょ!! ほいーっ、しょ!! といとい! といとと! とらとと! といとら! しょい! しょい! はあぁーーっい! せいとととい! はーっ、しょ!! ほーっ、しょ!! へいへいへへろへへいろろのろろへろろのろうるいす! っ、はぁ!! ろへへい! はい!!」
荒れるも、揺れるも、すべてを絞り出して舞う。
「しょっしょらしょっしょくしょっしょてしょっしょぺしょっしょにしょっしょらろほろろほほろそ! ほいほいほい! しょっしぇらしょっしぇらしぇっしょらしゅっしょらしゃっしょらしょっしょれほいほらほい! はい! せい、はいっ! せい! せい! せいせいせいせいせいせいせいせいしょっほらせいせいはい! はい! はーいっ、とーれっ、はいほれしょい! しょい! はーいっ、とーれっ、どれはい! はいほれしょい! しょい!」
そうして私は踊り手として地位を得る。
婚約破棄なんて忘れてしまうほどに、毎日は忙しくなった。
◆
踊りによって人間国宝となった私は、後に国王の考えもあり王子と結婚することとなった。
最初は躊躇いもあった。
王子という貴い人の相手が私で良いのか、と。
けれども王子はいつも温かく接してくれたし思いやりを持って関わってくれた。だから次第に私も彼を大切に想うようになっていったし、彼と生きていきたいと真っ直ぐに思うようになってもいったのだ。
今はただひたすらに彼を愛している。
だから私は王子を支えて生きてゆくつもりだ。
この先どんなことがあっても彼と共にあれるのであれば迷いなく立ち向かってゆけるだろう。
ちなみに、だが。
リーズベリアルは婚約破棄後毎晩悪夢にうなされるようになってしまったそうで、今は寝ることを極端に恐れるようになっているらしく、薬を大量に飲まない限り眠れないといったような状態だそうだ。
で、そんなだから普通の生活もできず。
寝不足のせいか小さなことでも失敗ばかりなので、仕事でもやらかしを繰り返してしまい、それによってクビになったらしい、
普通の暮らし。
心の平穏。
生きる糧となる仕事。
リーズベリアルは多くのものを失ったようである。
◆終わり◆
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