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3話「救ってくれたのは」
しおりを挟む不利な状況に陥っていた私を会話に割って入ることで救ってくれたのは見知らぬ青年だった。
「何だお前!」
「私はアデンス・ゼオルガート」
暗い茶色をした髪の青年が静かに名乗れば、周囲に驚きの波が広がる。
「あ、アデンスだと……!? あのゼオルガート国の次期国王か……!?」
「そういったところですね」
ベルヴィオは怯んだような目つきになっている。
でも……あまり知らない、誰?
「で、先ほどの話ですが。ルージュ様がぶつかっていかれたのではなく、そちらの女性がわざわざ近づいてルージュ様にわざとぶつかったのですよ。私はその一部始終を見ていました」
まぁ誰でもいい。
私の味方をしてくれるのなら、誰だって良い人だ。
アデンスが事実を述べると、周りからも「実はわたしも見ていました! 彼の言葉通りでしたよ!」「そっちの侍女がぶつかったんだ!」などという私に味方するような声が漏れてくる。
皆、真実を知っていたのだろう。
でも、きっと、自らは言いづらくて黙っていたのだ。
「お、お前ら! そんなにもエルフィを悪者にしたいのか!」
ベルヴィオは攻撃的に言い放ちながらエルフィを抱き締める。
まるで、俺が護る、とでも言っているかのように。
「う……ううっ……ベルヴィオ様ぁ……信じてください、そんな酷いことぉ……していません……」
「ああ分かっている、俺はお前を信じているから大丈夫だ」
「うう……皆ぐるになってエルフィを虐めているんですよぉ……きっと、いいえ間違いなくぅ……全部あの女が仕組んだことですぅ……」
彼の腕の中のエルフィは涙をぽろりぽろりとこぼしながら偽りを吐き続ける。
相変わらずそれを信じきっているベルヴィオは。
「ルージュ・ルーカス、貴様、エルフィを傷つけるような悪女だったとはな……もう我慢ならん!! お前のような悪しき女、我が国にも俺にも必要ない。よって、婚約は破棄とする!!」
皆の目の前でそう宣言した。
「……婚約破棄、ですか」
「ああ! 当然だろう! 男の心欲しさに他者を虐める女なんぞ、王城にいるべき人間ではない!」
「ですから私は何もしていないと」
「もう嘘はいい!! ……今すぐ去れ、でなければ痛い目に遭わせるぞ」
呆れた。
彼はどこまで愚かなのか。
罪なき者に罪をなすりつけるような女の言うことを信じるなんて、どうかしている。
その時。
「なるほど」
付近にまだ立っていたアデンスが落ち着いた声でこぼす。
「ベルヴィオ殿とルージュ様の婚約は破棄、と」
それは独り言のようだったのだが。
「では私から言わせてください」
「え……私ですか……?」
少ししてアデンスはこちらへ身体の正面を向けてきた。
黒に近いが微かに赤茶を帯びている双眸が私を捉える。
「ルージュ様、私と婚約してはくださいませんか」
驚きの大声を発してしまいそうになり、必死で抑えた。
だが驚き自体は消えない。
これは一体何なのか、どういう展開なのか、思考を巡らせるもそれらしい答えにはたどり着けなくて。
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