ツヨシくんとトモカちゃん

ツヨシくん編

クロスワードパズル

　どうも、愛妻家のツヨシです。


　ある日の出来事です。

　僕は、夕食後に爪を切っていました。
　今夜はトモカちゃんの愛情がたっぷり詰まったミートソースです。
　当然、スパゲッティーですよ。ミートソースだけではありません。
　胃の中のミート君が、時々戻ってくるのを押し戻しながら、僕は爪切りに集中します。
　
　そう言えば、日本には、古くからの言い伝えで、夜に爪を切ると良くない事が起こると言われています。
　おそらく、照明器具が脆弱ぜいじゃくだった時代、薄暗い場所での爪切りはデンジャーだったのでしょう。

　夜中に口笛を吹くと、蛇が出るとも言います。
　これは意味不明です。

　僕は、両方を同時に行なえる勇者です。何故なら、クリスチャンなので、風習や迷信に無頓着なのです。
　ただ、爪が飛び散らないガード付きの爪切りを使いながら、足の下に新聞紙を広げていました。本能的には、世俗的な習慣には逆らえません。

　さて、一方、トモカちゃんは、某雑誌に載っているクロスワードパズルに取り組んでいました。
　想像するに、僕の独創的で芸術性が高い口笛から脳を守る為には、別の事に集中する必要があるのでしょう。

　暫く、沈黙が支配します。祈りにも似た崇高な時間です。

　さて、沈黙を先に破ったのはトモカちゃんでした。どうにもならない問題に直面してしまったような困り顔に、僕の愛妻魂が燃え上がります。

「（せづらとび）ってな～に？」

　僕には、トモカちゃんの質問の意味が理解できません。彼女はどうしたのでしょう？ 外国語でしょうか？ これは、クイズの問題文をみせてもらう必要があります。

　問題文　最近は、背面跳びをする選手が主流です。

　これは驚きです。トモカちゃんの読み方は斬新すぎて盲点でした。
　新たな理論を発見した科学者の気分です。僕の仕事は、検査機器を製造する技術者なので、少しだけ共感できます。

　それにしても、困った事態が起きてしまいました。トモカちゃんの間違いを指摘する事になります。僕は、勇気を振り絞って声にします。

「これは背面跳はいめんとびと読むのさ」

　トモカちゃんは小首を傾けた後、向日葵のようにウフフと微笑みます。

　僕は、トモカちゃんの笑顔に気を良くし、クロスワードを手伝う事にします。


（ ）の中に当てはまるのは？

（ ）椀。

味噌（ ）。

　
　この問いに対し、トモカちゃんの答えは、（ワン）……。

　僕は、万年氷河で発見されたマンモスくらい固まります。

　ワンワンでは犬になってしまいますし、味噌ワンでは新商品の名前みたいです。何とも不思議な答えです。

「正解は、（シル）ですね」

　僕の解答に、トモカちゃんの細い目が三割増しになります。
　納得したトモカちゃんは、向日葵のようにウフフと微笑みました。