ツヨシくんとトモカちゃん

雨川 海(旧 つくね)

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ツヨシくん編

怪異 コンビニの猫

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 どうも、愛妻家のツヨシです。

 

 僕とトモカちゃんの物語ですが、夫婦なのに、親密なシーンが少ないかも知れません。でも、それも仕方がありません。R18逃れです。

 でも大丈夫です。読者の知らない所で、二人はラブいちゃなのです。指を絡める恋人繋ぎも、隠れた所でしています。
 そんな感じで、レッツ、ゴー!



 さて、ある日の休日の事です。僕は、YouTubeで見つけた

「どうにも止まらない」

 の替え歌を、頭の中から追い出すために一人でドライブします。

 その替え歌は、余りに強烈で下品な内容でしたので、スバル製の愛車で150㎞以上を出す必要がありました。
 歌詞から溢れる毒を、アドレナリンで中和する作戦です。
 もう、僕がどうにも止まらない感じです。
 こうなると、鼻唄が出てしまいます。

♪探偵ぃ~、

 ヒーロー、

 猫にだぁってなれるぅ。

 作り~話ぃ~だぁからぁ♪


 それにしても、速度違反は駄目です。お巡りさんに逮捕される危険もあります。普段の日なら……。

 僕は、東北地方の理系大学卒ですから、対策を考えています。

 今は、アメリカから大頭領が来日している時なので、無茶をしているのです。
 おそらく、東京に応援を要請され、地方の取締りは手薄な筈です。

 さて、荒ぶる衝動が収まると、気分が落ち着いてきます。
 激流が静まり、清流の流れを取り戻します。

 ここは、珈琲ブレイクと行きたい所です。ドーナツもあれば尚更です。

 ちなみに、個人的には、コンビニドーナツはまだまだに思えます。
 スイーツではかなりのレベルと認めますが、ドーナツに関しては専門店に分があるでしょう。

 それにしても、昨今は不味い食べ物が消えつつあるのを感じます。絶滅危惧種です。
 考えてみてください。不味いが在るから旨いが光るのです。
 言わば、二つは光と影であり、互いに共存共栄する関係とも言えます。

 不味い物が消えてしまえば、旨い物が普通になってしまいます。そこには、食の感動がありません。

 とは言え、僕はグルメなので、不味い物は絶対に食べません。

 さて、僕は、愛車をコンビニの駐車場に止めようとします。この場合、前から行く派と後ろから行く派に分かれます。

 僕の場合、トイレ等の緊急事態でもない限り、バックが好みです。
 駐車枠に合わせて、慎重にバックします。

 その時、僕の視界に猫が入ってきました。
 キジトラの猫は、愛らしい瞳で見上げてきます。

 僕は、にゃんこに魅いられ、魂が同調シンクロします。

 周りの景色は色を失い、猫だけが佇む不思議な体験をします。



 いつの間にか、僕は猫になっていました。視界が低くなり、人間だった自分が消え、全てが大きく見えるのです。


 オイラ(ツヨシ猫)の縄張りである緑の看板のコンビニは、岩槻区に位置するそうだが、はっきり言って猫族のオイラには、何処にあろうが関係ない。

 まぁ、ごみ箱の場所なら重要だが、生憎と店内に設置してあるのね。

 コンビニと言う場所は、年中無休で稼働し続け、猫の流儀では理解できないほど忙しいらしいね。

 手を貸すつもりはないが、ジャンクフードは貰ってもいいぞ。

 そうそう、食べ物を扱う場所は、毛で覆われた動物を嫌うね。
 オイラも若い頃は世間のルールを知らなかったから、自動ドアが開いた時に紛れ込み、店員に追いかけ回された事があったよ。

 今では酸いも甘いも噛み分けたD猫だから、そんな醜態は曝さないのよ。

 そうそう、オイラの縄張りはコンビニだが、ねぐらは別にある。
 コンビニの前は国道が通っているが、後ろは民家になっていて、そこがそう。

 まぁ、持ち主には悪いが古い建物で、さりとて、古民家なんて上品な言い回しは似合わないね。


 民家には柿の木があり、オイラが登るのに適した高さで、天然の遊具かね。

 その他は畑。
 オイラの飼い主のお婆さんが、葱だの茄子だのを作っている。
 葱とか茄子とか旨いのか?

 畑とコンビニの境にはフェンスがあるけど、下の隙間が通り道になっていて、猫は通行自由のフリーパスで、危険があれば安全地帯の畑に逃げ込める。

 とは言え、お婆さんはコンビニの店長に怒られていた。オイラのせいなのかな?

 暫く前に入院してしまい、怒られる姿を見る事はなくなったけど、淋しいね。

 さて、D猫としては、メソメソしてばかりもいられない。
 師匠、メンゴ、メンゴ。
 それに、オイラにだって仲間がいる。


 タケオは、すばしっこい黒猫。
 猫の癖に猫を上から目線で見ているので、自分を黒豹だと思っているに違いない。
 猫に限らず、人間界にも勘違いさんは居るんじゃないかい?

 そしてスプリングミャオ。綺麗好きな白猫。
 彼女の得意技は、おねだり攻撃。コンビニで買い物を終えた客を待ち伏せ、悩殺誘惑行動で仕留める殺し屋さ。

 ミャオの上目使いと体すりすり攻撃は強力で、何時も御馳走をゲットする。
 そして何より、くれそうな人間が解るらしい。

 オイラも愛想を振り撒いて食料をゲットするが、人間用の食べ物は味が濃すぎる。
 考えてみたまえ、人と猫では体の大きさが違う。

 健康を考えれば、キャットフードがいい。
 昨今は、カブトムシにさえ専用の餌がある時代だから、哺乳動物の端くれとしては、無理からぬ願いだろう?
 まぁ、最悪ドッグフードでもいい。

 何て思っていると、駐車場の奥から三番目の駐車枠に、キャットフードが置かれているようになった。
 乾燥タイプのカリカリ飯だが、オイラたちは大喜び。

 親切な人の正体は既に判明している。中年のオバサンで、赤のSUVに乗っている。

 オイラは、カリカリオバサンと呼ぶ事にした。

 しかし、やはりコンビニ店長から妨害を受ける。カリカリオバサンは、餌を置く所を咎められてしまった。

 オイラは、その様子を毛繕いしながら眺めていた。別に関心がない訳でも、バカにしている訳でもない。

 平気なようで、内心では店長に頼んでいた。

「ミャー、ミャー《カリカリオバサンにカリカリ言わないで》」


 まぁ、コンビニの店長様に猫語は通じないが、鳴かずにいられようかホトトギス。

「にゃっ、にゃにゃにゃにゃ!《よっ、紺の制服が似合いますぜ!》」

 オイラのおべっかも虚しく、カリカリオバサンは店長に撃破され、SUVで去って行く。

 夕日に赤が映えるぜ。
 いや、まだ午前中だった。


 紆余曲折あれ、オイラたちはコンビニで仲良くやっていた。
 流石に客商売としては、愛猫家が増えつつある中、表立って虐待する訳にはいかんでしょう。

 たまに、強面のオジサンが猛犬ポチョムキンを連れて訪れ、オイラたちを脅かすが、そんな時は畑へ避難する。

 三匹で柿の木へ登り、上からポチョムキンを睨んでやる。
 柿の木ならぬ猫の木アタック。
 まぁ、無視される……。


 そんなオイラたちにも転機が訪れる。
 コンビニが大改装する事になったのだ。
 店舗は勿論、駐車場も整備される事となり、大勢の職人さんが作業をしていた。

 タケオとミャオは別の餌場を見つけ、オイラは一人、いや、ぼっち猫になった。

 お婆さんも退院しないし、つまらない日々を過ごす。

 ただ、職人さんと親しくなると、餌を貰えるようになった。いや違う。愛妻弁当のおすそ分けを、餌などと表現しては礼儀を欠く。

 尻尾がゆらゆらする程の御馳走でしたぞ。

 さて、とは言え、職人さんも忙しいので、オイラと遊んではくれない。
 オイラは柿の木に登りながら、猫仲間や仲良しのバイト君が戻る事を願っていた。


 どれくらい月日が経っただろう? カレンダーを見る習慣がないオイラは、そこら辺には疎いが、コンビニの改装工事が終わり、再オープンする。

 だけど……。

 まぁ、工事を見続けていたオイラには、解っていた事だけどね……。


 オイラはフェンスを見上げていた。
 登るのは大変そう。
 そして、下に隙間が無く、オイラの侵入を拒んでいた。

 それは、存在を否定された気分だった。
 今まで、オイラなりにコンビニ店の事を考えていたつもりなのだが、空回りだったのだろう。

 猫が持て囃される時代で、猫駅長まで登場する昨今、オイラも客に愛想を振り撒いては、店に貢献しているつもりだった。

 勿論、餌を確保する目的もあったが、この場所が好きだった事も大きい。

 バイト君が、常連さんが、オイラは好きだった。

 賑やかで常に明かりが灯る場所が好きだった。

 駐車場の隅でたむろするのが心地よかった。

 まぁ、別に大回りして国道側から入れば良いのだが、それでは畑に緊急避難できないし、何より、オイラの存在を拒否するフェンスに恐れを成した。

 コンビニに取って、オイラは迷惑でしかないのだろうか?

 そんな事を思っていると、駐車場で異変が起きる。赤いSUVが、バックで駐車枠に入る。
 オイラは、勢いを付け過ぎな気がしていた。
 案の定、車止めを乗り越え、フェンスに激突する。フェンスの支柱が曲がり、金網の一部が破れた。



 その途端、僕と猫の同調シンクロが解け、僕が運転する車は、実際に車止めを乗り越え、フェンスを破損する。

 キジトラの猫が、チャシャ猫のようにニヤリと笑う。尻尾も二又に分かれていた。

 出たな! 妖怪時計!

 とは言え、やはり交通違反はいけません。疚しい心には魔物が寄ってくるのです。

 神様、ご免なさい。
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