ツヨシくんとトモカちゃん

雨川 海(旧 つくね)

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ツヨシくん編

コピー機

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 暑中見舞申し上げます。愛妻家のツヨシです。
 今回の話は、去年の年末の話です。季節外れの話題でスミマセン。



 師走に入り、僕も色々と忙しくなります。
 仕事もそうですが、トモカちゃんとのラブラブ計画も立てる必要があったのです。

 まぁ、熊谷辺りでもイルミネーションは有りますが、何処か隠れた穴場を探したい気もします。
 トモカちゃんに

「すっご~い! こんな経験は初めて」

 と、言われたいのです。


 ドラマ「陸王」効果で、行田の知名度も上がりました。軍手を宣伝するデカイ看板も、何故か誇らしげです。

 そう、足袋の縫製技術を生かし、軍手作りも盛んなのです。戦後、和服の需要が落ち込み、生産を軍手に移した工場が多いらしいです。

 なんて、ただの臆測です。信じないでください。今、ノリで書いただけです。

 僕は、そんなフェイクニュースを出してしまう程、悩んでいました。


 そもそも、12月はクリスチャンに取っては多忙を極める月なので、体が最低でも三つは欲しいくらいです。

 まぁ、一体はイケメンツヨシくんで、

 もう一体はマッチョツヨシくん。

 そして、もう痛ったい、じゃない、もう一体はサイボーグツヨシくんでお願いしたいところです。

 え、クリスチャンが12月に忙しいのは何故か?

 そこを聞いてしまいますぅ?

 思わず田中邦衛の口になりそうです。

 当然、クリスマス会が有るからです。一年の内、日本人がイエス様を意識する貴重な期間です。

 ですが、昨今はハロウィンに押されている感じがします。

 某ラジオの番組で、渋谷のハロウィンパレードに参加した話をしていました。

 その時に彼女がしていた仮装は、赤ずきんだったそうです。
 そして、手にプラカードを持っていたそうです。
 プラカードには、ぽたぽた焼きのお婆ちゃんを拡大した物を貼り付け、

「お婆さんを捜しています」と書いておいたそうです。

 この遊び心がクリスマスにも欲しいです。
 牧師さんに提案しようかな?

 個人的にも、まずは出身の母教会、地元の教会、夫婦で開催するクリスマス会と、スケジュールが目白押しです。

 さて、僕は、会社のパソコンで素敵な年末スケジュールを作成します。
 トモカちゃんとのクリスマスプランも折り込み、カラーで作成します。

 こんな事をしていては仕事が押してしまい、残業になりそうです。
 でも大丈夫、トモカちゃんも忙しいらしく、帰りが遅いので、慌てて帰宅する必要はないのです。

 さて、タイトルの

「トモカとツヨシの師走ミッション」

 を、ショッキングピンクに設定して、スケジュール表は完成します。
 後は、プリントアウトするだけです。

 それにしても、夫婦で共用するだけの物にフルカラーでイラストまで付けるのは、やり過ぎかも知れません。

 タイトルも痛すぎです。四十五才にして痛車に乗り始めた人みたいです。


 さて、会社のパソコンはコピー機と連動しているので、プリントすべく行動します。

 とは言え、堂々とコピーする訳にもいきません。なんせ、タイトルがショッキングピンクです。職場の人に見られるのはマズイです。

 僕は、コピー室前で様子を窺います。
 誰も居ない事は勿論、後から人が来てもデンジャーです。

 何度かコピー室の前を素通りし、不審な行動を繰り返します。
 
「コピー機を使うのか?」などと言われても、「いやぁ」と答えます。
 
 四度目の巡回でチャンス到来です。コピー機にパソコンの暗証番号を入力して、

「トモカとツヨシの師走ミッション」をコピーします。

 当然、カモフラージュ用に仕事のデータもコピーしようとすると、やっぱり

「トモカとツヨシの師走ミッション」がコピーされてしまいます。

 これはヤバイです。そして不思議です。違うデータを選択しても、

「トモカとツヨシの師走ミッション」がプリントアウトされます。

 僕は、目の前が真っ暗になります。


「がぁっみざぁま~~ゆずしてぐだざいぃ~! ぶぉくがあざはがですぃた~!」

 僕はコピー機を揺らし、涙と鼻水を振り撒き、神に赦しを乞います。

 幸い、コピー室は少し離れた場所に在るため、給湯室並みに治外法権なのです。

「ごのじれんは重ずぎまずぅ。ぶぉくじはおいぎれまぜん~うぉぉぉ!」

 もう、獣のように吼えます。

 僕がヨヨと泣き、肩を震わせていると、同僚のハジメさんがコピー室を訪れます。
 僕は、ドアの開く音に反応して、背筋を伸ばします。

「ツヨシ、コピー機いい?」

 個人的にはいい筈がありません。

「バダづがってまずぅ~。ど言うがごしょうじてまずぅ。えぎばえのゴンビニへいってぐだざいぃ~」

 この返しは墓穴を掘りました。ハジメさんはメカに強いので、異常なほど動揺している僕を助ける気になったのです。

 涙と鼻水に心打たれたのでしょう。

 しかも、ハジメさんは僕より先輩であり、学生時代は水球の選手で、今でも休日には㎞級を泳ぐキロちゃんです。

 もう、吉○晃司ばりの威圧感があり、これを阻止する手段がありません。

 コピー機のディスプレイに暗証番号を打ち込み、データファイルを選択します。

 コピースタート! ぷち。

 プリントアウトされたのは、ショッキングピンクのイカれた題字ではなく、普通の資料でした。

「おいツヨシ、壊れてないぞ」

 僕は、ハジメさんの言葉に、大袈裟に反応します。

「ぁぁぁあぁりぐぁとぅぅございまずぅぅ!」



 PS、お騒がせしました。どうやら、コピー機は故障ではなく、僕の入力ミスのようです。
 後ろめたさに焦っていたのかも知れません。

 今後は、会社は仕事をする所だと言う事を、肝に命じます。
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