ツヨシくんとトモカちゃん

雨川 海(旧 つくね)

文字の大きさ
23 / 33
ツヨシくん編

愛しの8マン

しおりを挟む
 どうも、愛妻家のツヨシです。
 では、レッツ、ゴー



 トモカちゃんは腰痛の治療をしに病院へ行っています。
 僕は、一人で残され、リビングで空腹感を覚えていました。
 休日は、やたらと食いしん坊万歳になります。

 さて、僕は、キッチンにカステラがある事を思い出します。しかも、ただのカステラではありません。
 茶色い焼き色の部分にザラメがふんだんに乗った長崎カスティ~ラです。

 思わずポルトガル人のように巻き舌になります。なりません? 
 と、言うか、ポルトガル人って巻き舌なのか知りませんでした。

 さて、外国の方の言語はともかく、長崎カステラを食べるのに語学力は要りません。
 必要なのは、濃くて渋いお茶とかです。

 僕は、キッチンでおやつの準備をします。


 今更なのですが、僕は初めて気付きました。食器棚の引き出しの取っ手が、銀色で装飾があり、とても上品です。しかも、数が多いのです。

 僕は、これを見て、ある歌を連想します。
 それは、女優をメインに活動する芸能人の歌でした。
 その女性は、かなり前にフランス人が監督する映画に出演し、演技指導と称してワサビプレイをされて泣きだしたらしいのです。
 もう、#me too で告発するレベルです。
 ただ、僕は一般人なので、真相の程は解りません。

♪取っ手がとっても

取っ手がとっても

取っ手がとっても

取っ手がとっても

取っ手がとっても

取っ手がとっても大好きよ♪

 僕は、歌のワンフレーズを歌いながら取っ手の数を確認します。 


 取っ手の数は全部で12個ある事を確認し、満足します。

 さて、渋いお茶を入れるべく、茶碗を取り出します。
 先ほどの熱唱で喉がカラカラです。これは、水分補給が必要です。

 僕は、歌えば喉が渇き、ドリンクの売り上げアップはカラオケ店の常識なんだと、身をもって実感しました。

 さて、お茶を用意し、カステラを小皿に乗せると、準備万端です。
 竹製の楊枝でも添えれば、インスタ映えしそうです。

 トモカちゃんがリハビリを頑張っている最中にお菓子タイムなんて、何と背徳的で後ろめたい行為でしょう。
 ですが、この罪悪感の裏返しで優しくなれる物だと、誰かが言っていました。

 僕は、トモカちゃんへの優しさアップのために長崎カステラを食するのです。

 そして、テレビを見ながらのおやつタイムです。


 何事にもタイミングと言う物があり、テレビを点けたらドラマが始まっていて、しかも終盤だったりすると、気になる物です。

 今の僕がまさしくそれで、しかも興味深い内容です。
 ドラマのタイトルは、
「愛しのエイトマン」
 ラスト22 分に集中します。



【愛しのエイトマン】

 わたしは、拓斗の訃報が届いた時、全てを放り出して出発した。
 故郷を出てから今まで、忙がしさに追われて忘れていたのに、どうしても行きたかった。

 わたしは、拓斗とは同じ島で育ち、中学卒業を機に本土へ引っ越すまで一緒だった。
 まぁ、幼馴染みになる。

 島での生活は、雑草を天ぷらにして食べるほど困窮していた。
 なんて、ウソウソ。
 自然豊かな島では、食べられる草が自生している。わたしと拓斗も、冒険しながら収穫するのが日課だった。

 拓斗は映画監督になるのが夢で、中学校では映画研究部を組織し、8ミリフィルムのカメラで撮影していた。
 付いたあだ名はエイトマン。

 撮影では、わたしは何時も主演で、少し気恥ずかしかった。
 拓斗に抗議をすると、監督風を吹かし、撮影機材の提供者が誰か思い出させる暴挙にでる。


 過去の想い出が脳裡に浮かぶのは、故郷が近付いているからだろう。
 
 島に向かう船は、夕日に照らされた海を進む。
 その様子は、少しレッドカーペットを連想させ、薄情なわたしを拓斗が許してくれている気がした。

 島に着き、懐かしい道程みちのりを歩む。
 一足毎ひとあしごとに甦る思い出に、産まれた川を目指す鮭の気持ちが解る気がする。


 さて、拓斗の実家に着くと、驚きの表情で迎えられた。
 特に拓斗ママは、声にならないようだった。皆、わたしが来るとは予想していなかったようだ。


 一通り挨拶を交わし、御悔やみを申し上げる。
 拓斗の家は何度も通い、間取りまで覚えていた。

 そんな中、拓斗ママが拓斗の部屋へ行くよう促す。
 言われるままに二階へ上がると、意味が解った。
 部屋中にわたしのグッズが在る。


 出演した映画やCMのポスターが貼られ、雑誌やパンフレットも本棚に詰まっていた。新聞の切り抜きまでノートに貼って保管してある。

 気に掛けてくれているとは思っていたが、ここまでディープなファンだとは知らなかった。
 
 さて、机の上には映写機が在った。わたしは、部屋を暗くし、馴れた手付きで作動させる。

 カタカタと鳴るフィルムが、スクリーンで像を結ぶ。


 映っているのは、ハンモックで眠る中学生のわたし。
 こんな無防備で安心した姿を、あいつに見せていたのだ。
 永遠と続く寝顔が霞んでいく。

「もう、動画にする意味がないじゃない」

 わたしは、大切なものを失ったと同時に、大切なものを思い出した。     


  END




 僕は、ドラマの終盤を見終わり、満足します。
 それでも、頭から観たいと思ってタイトルを覚えますが、全編を観る機会はないでしょう。
 そういう物なのです。

 ドラマと同じように、大切な物は二度と戻らない。
 だから、今が愛しいのでしょう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...