ヒューリアン 巨人の惑星

雨川 海(旧 つくね)

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2113年 ハジメの場合

☆鋼殻体に乗る☆

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 特殊訓練生養成所

一~三組 士官候補クラス。(一組に藤堂慎之助)
四~九組 下士官候補クラス。(九組に斎藤 一 原田佐之助 山南圭介 山崎 進)
十組 女子士官候補クラス。
十一~十三組 女子下士官候補クラス。(十二組に山浦 都)



 もやもやした気分のまま、その日を過ごした。
 藤堂慎之助とミヤコ。ミヤコと慎之助。幼馴染み。微笑み合う二人。藤堂 都。妄想が暴走状態に入り、メルトダウン寸前になる。もう、その日の昼食に何を食べたかの記憶もない位で、これは、三度の食事だけが楽しみの訓練生としては、一大事だった。
 だが、そんな僕の意識に気合いを入れたのは、武道の授業だった。

 その日は柔道で、いかにも柔道やってますオーラの教官に指名され、道場の真ん中で対峙する。
 ギャラリーの視線が痛いのだが、さては、正座地獄から解放されたのをうらやんでいるのか? なんて事はなく、犠牲者を憐れんでいるだけだった。

 さて、きっちり柔道着姿だが、初心者だから、あっ、と言う間に投げられる。この一撃は目が覚めた。

「どうだ訓練生! 目が覚めたか?」

 勝ち誇ったかのような教官は、大人げない笑みを浮かべていた。僕は、負け惜しみ半分で意見してみる。

「教官、質問を宜しいでしょうか?」

「なんだ? 訓練生」

鋼殻体ポッドに乗るのに、武道の心得は必要でしょうか?」

 質問を受け、がに股で角刈りの教官は微笑んだ。

「ふふ、それはよく訊かれる。後で解るさ。ただ、教えておこう。弾を撃つだけなら、戦車や装甲車で充分だろ?」

 教官の言葉は、自分のみならず、その場の訓練生に疑問を投げ掛けただろう。
 おそらく、全員の脳裡に浮かんだのは、『鋼殻体は、どんな戦闘を想定しているんだろう?』という事だった。


 その日の夜、消灯三十分前。僕の班は、ミーティングと言う名の雑談で盛り上がる。大抵の場合、苦しい訓練の次に思い出に残るのは、下らないお喋りだったりする。
 
「ところでさ、藤堂慎之助を知っている?」

 僕の振りに食いついたのは、圭介だった。

「一組だろ。知っているよ。成績トップのエリートやし、有名だよ。なに、知り合いか?」

「知り合いなら他人に聞かないでしょ」

「そやな、ただ、一組~三組の訓練生には、逆らわない方がいい」

 これには、佐之助が疑問を投げ掛ける。

「ナニナニ、呪われるとか?」

 こいつは、何でリアクションに困るような発言をするのだろう?
 圭介は、構うと面倒だと思ったのか? 事実のみを述べる。

「連中は士官候補だから、卒業と同時に少尉決定だよ。そもそも、一組~三組は、連邦軍の士官学校を出ているから、うちらより年上だし、出身だって、代々職業軍人か、上流階級の子弟なんよ」

「俺たちの場合はどうなるんだよ」

 佐之助が口を尖らせて介入する。さっきのスルーは気にしていないようだ。

「うちらは下士官候補だから、伍長だわ。それでも、二等兵から始まるよりは良いやろ」

 その仕組みには、納得がいかない。

「同じ訓練を受けて、あっちは少尉で、こっちは伍長かよ。つまり、卒業したら、あいつらの指揮下に入るかも知れないから、逆らうな。と言う事か?」

 怒りは感じたが、辛抱しなきゃならない事は悟っていた。僕も会社員としての経験があるので、社会が平等じゃない事は身に染みている。

「まあ、怒りなや。伍長なら、連邦軍内では大したもんや。それに、それぐらいからの方が、出世しがいがあるやん」

 圭介に話を〆られて、とりあえず納得する。会話が途切れると、ススムのいびきが大きく聞こえる。

「明日も早い。寝よ寝よ」

 圭介の柔らかいイントネーションで言われると、不思議と従いたくなる。
 ただ、ベッドに入っても、すぐには寝つけなかった。やはり、ミヤコとの関係が定まっていないのが原因になる。ミヤコが自分をどう思っているのかが、凄く気になる。戦場に出て、命を落とす可能性があるからこそ、心残りが嫌だった。
 しかし、眠りの神は、無意識な内に訪れた。とりあえず、寝るしかない……。


 次の日、やっぱりひたすら泳ぐ日々を送る。
 ただ、午後は、鋼殻体の操縦訓練が殆どの割合を占めるようになった。訓練生一人に一機の割り当てで、機体は各自で責任を持たなければならない。

 自分の担当機を見上げる。シルバーメタリックの巨人は、ひざまずき、胸襟を開き、主人を待ち望んでいるかのようだった。
 操縦時間が百時間を越え、最初は苦労したが、かなり馴れた。射撃も、停まって撃てばそこそこ当たる。ただ驚いたのは、剣で斬る訓練があることだった。
 二十㎜口径のアサルトライフルの他に、特大のブレードを背中に装備している。どうやら、本当に蟻と肉弾戦をするらしい……。


 養成所での生活にもだいぶ慣れ、訓練にも余裕が出てきた頃、自分の班は、たまたま藤堂の班の近くで昼食を摂った。更に、僕は慎之助と背中合わせの位置に座る事になり、意識してしまう。

「あの女、いい尻してるな」

 藤堂班の誰かが発言。

「慎之助さん、ああいう尻は、丈夫な子を産めそうですか?」

「そうだな」

 慎之助は適当に同意する。冷静に聞けば、話題を打ち切りたい感じでもあったのだが、その時の僕は、逆上のぼせ気味だった。

「色白で可愛いけど、髪を染めているのは頂けないな」

 また、別の誰かが話題を持ち出す。

「本当に頂けないか?」

「いや、頂けます」

 僕の背中でバカ笑いが起こる。どうやら、女の品定めをしているらしい。そして、その対象はミヤコの事だと思え、妄想スイッチがオンになる。

 慎之助の父親は、ミヤコの母親を雇っていたそうだが、もしかして、愛人かも知れない? パトロンの子が、愛人の子を家畜みたいに品定めする。そんな考えが脳を支配し、行動に直結させた。

「藤堂慎之助。貴様に決闘を申し出る!」

 僕は、立ち上がって慎之助に宣言する。当然、食堂中の注目を集める。誰もが、状況を把握できずに唖然としていた。

 そんな中、慎之助はニヤニヤと嬉しそうで、「面白い事が起きた」と喜んでいる感じだった。

「えっと、“班長”のハジメ君だね。残念だけど、今の時代に決闘なんて流行らないよ。君はブームにしたいのかも知れないけどね。それに、私闘は禁止されている」

 慎之助に冷静にさとされ、当初の勢いは急速に萎む。さすが、年上の余裕と言ったところか?
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