6 / 16
2113年 ハジメの場合
☆鋼殻体に乗る☆
しおりを挟む
特殊訓練生養成所
一~三組 士官候補クラス。(一組に藤堂慎之助)
四~九組 下士官候補クラス。(九組に斎藤 一 原田佐之助 山南圭介 山崎 進)
十組 女子士官候補クラス。
十一~十三組 女子下士官候補クラス。(十二組に山浦 都)
もやもやした気分のまま、その日を過ごした。
藤堂慎之助とミヤコ。ミヤコと慎之助。幼馴染み。微笑み合う二人。藤堂 都。妄想が暴走状態に入り、メルトダウン寸前になる。もう、その日の昼食に何を食べたかの記憶もない位で、これは、三度の食事だけが楽しみの訓練生としては、一大事だった。
だが、そんな僕の意識に気合いを入れたのは、武道の授業だった。
その日は柔道で、いかにも柔道やってますオーラの教官に指名され、道場の真ん中で対峙する。
ギャラリーの視線が痛いのだが、さては、正座地獄から解放されたのを羨んでいるのか? なんて事はなく、犠牲者を憐れんでいるだけだった。
さて、きっちり柔道着姿だが、初心者だから、あっ、と言う間に投げられる。この一撃は目が覚めた。
「どうだ訓練生! 目が覚めたか?」
勝ち誇ったかのような教官は、大人げない笑みを浮かべていた。僕は、負け惜しみ半分で意見してみる。
「教官、質問を宜しいでしょうか?」
「なんだ? 訓練生」
「鋼殻体に乗るのに、武道の心得は必要でしょうか?」
質問を受け、がに股で角刈りの教官は微笑んだ。
「ふふ、それはよく訊かれる。後で解るさ。ただ、教えておこう。弾を撃つだけなら、戦車や装甲車で充分だろ?」
教官の言葉は、自分のみならず、その場の訓練生に疑問を投げ掛けただろう。
おそらく、全員の脳裡に浮かんだのは、『鋼殻体は、どんな戦闘を想定しているんだろう?』という事だった。
その日の夜、消灯三十分前。僕の班は、ミーティングと言う名の雑談で盛り上がる。大抵の場合、苦しい訓練の次に思い出に残るのは、下らないお喋りだったりする。
「ところでさ、藤堂慎之助を知っている?」
僕の振りに食いついたのは、圭介だった。
「一組だろ。知っているよ。成績トップのエリートやし、有名だよ。なに、知り合いか?」
「知り合いなら他人に聞かないでしょ」
「そやな、ただ、一組~三組の訓練生には、逆らわない方がいい」
これには、佐之助が疑問を投げ掛ける。
「ナニナニ、呪われるとか?」
こいつは、何でリアクションに困るような発言をするのだろう?
圭介は、構うと面倒だと思ったのか? 事実のみを述べる。
「連中は士官候補だから、卒業と同時に少尉決定だよ。そもそも、一組~三組は、連邦軍の士官学校を出ているから、うちらより年上だし、出身だって、代々職業軍人か、上流階級の子弟なんよ」
「俺たちの場合はどうなるんだよ」
佐之助が口を尖らせて介入する。さっきのスルーは気にしていないようだ。
「うちらは下士官候補だから、伍長だわ。それでも、二等兵から始まるよりは良いやろ」
その仕組みには、納得がいかない。
「同じ訓練を受けて、あっちは少尉で、こっちは伍長かよ。つまり、卒業したら、あいつらの指揮下に入るかも知れないから、逆らうな。と言う事か?」
怒りは感じたが、辛抱しなきゃならない事は悟っていた。僕も会社員としての経験があるので、社会が平等じゃない事は身に染みている。
「まあ、怒りなや。伍長なら、連邦軍内では大したもんや。それに、それぐらいからの方が、出世しがいがあるやん」
圭介に話を〆られて、とりあえず納得する。会話が途切れると、ススムの鼾が大きく聞こえる。
「明日も早い。寝よ寝よ」
圭介の柔らかいイントネーションで言われると、不思議と従いたくなる。
ただ、ベッドに入っても、すぐには寝つけなかった。やはり、ミヤコとの関係が定まっていないのが原因になる。ミヤコが自分をどう思っているのかが、凄く気になる。戦場に出て、命を落とす可能性があるからこそ、心残りが嫌だった。
しかし、眠りの神は、無意識な内に訪れた。とりあえず、寝るしかない……。
次の日、やっぱりひたすら泳ぐ日々を送る。
ただ、午後は、鋼殻体の操縦訓練が殆どの割合を占めるようになった。訓練生一人に一機の割り当てで、機体は各自で責任を持たなければならない。
自分の担当機を見上げる。シルバーメタリックの巨人は、跪き、胸襟を開き、主人を待ち望んでいるかのようだった。
操縦時間が百時間を越え、最初は苦労したが、かなり馴れた。射撃も、停まって撃てばそこそこ当たる。ただ驚いたのは、剣で斬る訓練があることだった。
二十㎜口径のアサルトライフルの他に、特大のブレードを背中に装備している。どうやら、本当に蟻と肉弾戦をするらしい……。
養成所での生活にもだいぶ慣れ、訓練にも余裕が出てきた頃、自分の班は、たまたま藤堂の班の近くで昼食を摂った。更に、僕は慎之助と背中合わせの位置に座る事になり、意識してしまう。
「あの女、いい尻してるな」
藤堂班の誰かが発言。
「慎之助さん、ああいう尻は、丈夫な子を産めそうですか?」
「そうだな」
慎之助は適当に同意する。冷静に聞けば、話題を打ち切りたい感じでもあったのだが、その時の僕は、逆上せ気味だった。
「色白で可愛いけど、髪を染めているのは頂けないな」
また、別の誰かが話題を持ち出す。
「本当に頂けないか?」
「いや、頂けます」
僕の背中でバカ笑いが起こる。どうやら、女の品定めをしているらしい。そして、その対象はミヤコの事だと思え、妄想スイッチがオンになる。
慎之助の父親は、ミヤコの母親を雇っていたそうだが、もしかして、愛人かも知れない? パトロンの子が、愛人の子を家畜みたいに品定めする。そんな考えが脳を支配し、行動に直結させた。
「藤堂慎之助。貴様に決闘を申し出る!」
僕は、立ち上がって慎之助に宣言する。当然、食堂中の注目を集める。誰もが、状況を把握できずに唖然としていた。
そんな中、慎之助はニヤニヤと嬉しそうで、「面白い事が起きた」と喜んでいる感じだった。
「えっと、“班長”のハジメ君だね。残念だけど、今の時代に決闘なんて流行らないよ。君はブームにしたいのかも知れないけどね。それに、私闘は禁止されている」
慎之助に冷静に諭され、当初の勢いは急速に萎む。さすが、年上の余裕と言ったところか?
一~三組 士官候補クラス。(一組に藤堂慎之助)
四~九組 下士官候補クラス。(九組に斎藤 一 原田佐之助 山南圭介 山崎 進)
十組 女子士官候補クラス。
十一~十三組 女子下士官候補クラス。(十二組に山浦 都)
もやもやした気分のまま、その日を過ごした。
藤堂慎之助とミヤコ。ミヤコと慎之助。幼馴染み。微笑み合う二人。藤堂 都。妄想が暴走状態に入り、メルトダウン寸前になる。もう、その日の昼食に何を食べたかの記憶もない位で、これは、三度の食事だけが楽しみの訓練生としては、一大事だった。
だが、そんな僕の意識に気合いを入れたのは、武道の授業だった。
その日は柔道で、いかにも柔道やってますオーラの教官に指名され、道場の真ん中で対峙する。
ギャラリーの視線が痛いのだが、さては、正座地獄から解放されたのを羨んでいるのか? なんて事はなく、犠牲者を憐れんでいるだけだった。
さて、きっちり柔道着姿だが、初心者だから、あっ、と言う間に投げられる。この一撃は目が覚めた。
「どうだ訓練生! 目が覚めたか?」
勝ち誇ったかのような教官は、大人げない笑みを浮かべていた。僕は、負け惜しみ半分で意見してみる。
「教官、質問を宜しいでしょうか?」
「なんだ? 訓練生」
「鋼殻体に乗るのに、武道の心得は必要でしょうか?」
質問を受け、がに股で角刈りの教官は微笑んだ。
「ふふ、それはよく訊かれる。後で解るさ。ただ、教えておこう。弾を撃つだけなら、戦車や装甲車で充分だろ?」
教官の言葉は、自分のみならず、その場の訓練生に疑問を投げ掛けただろう。
おそらく、全員の脳裡に浮かんだのは、『鋼殻体は、どんな戦闘を想定しているんだろう?』という事だった。
その日の夜、消灯三十分前。僕の班は、ミーティングと言う名の雑談で盛り上がる。大抵の場合、苦しい訓練の次に思い出に残るのは、下らないお喋りだったりする。
「ところでさ、藤堂慎之助を知っている?」
僕の振りに食いついたのは、圭介だった。
「一組だろ。知っているよ。成績トップのエリートやし、有名だよ。なに、知り合いか?」
「知り合いなら他人に聞かないでしょ」
「そやな、ただ、一組~三組の訓練生には、逆らわない方がいい」
これには、佐之助が疑問を投げ掛ける。
「ナニナニ、呪われるとか?」
こいつは、何でリアクションに困るような発言をするのだろう?
圭介は、構うと面倒だと思ったのか? 事実のみを述べる。
「連中は士官候補だから、卒業と同時に少尉決定だよ。そもそも、一組~三組は、連邦軍の士官学校を出ているから、うちらより年上だし、出身だって、代々職業軍人か、上流階級の子弟なんよ」
「俺たちの場合はどうなるんだよ」
佐之助が口を尖らせて介入する。さっきのスルーは気にしていないようだ。
「うちらは下士官候補だから、伍長だわ。それでも、二等兵から始まるよりは良いやろ」
その仕組みには、納得がいかない。
「同じ訓練を受けて、あっちは少尉で、こっちは伍長かよ。つまり、卒業したら、あいつらの指揮下に入るかも知れないから、逆らうな。と言う事か?」
怒りは感じたが、辛抱しなきゃならない事は悟っていた。僕も会社員としての経験があるので、社会が平等じゃない事は身に染みている。
「まあ、怒りなや。伍長なら、連邦軍内では大したもんや。それに、それぐらいからの方が、出世しがいがあるやん」
圭介に話を〆られて、とりあえず納得する。会話が途切れると、ススムの鼾が大きく聞こえる。
「明日も早い。寝よ寝よ」
圭介の柔らかいイントネーションで言われると、不思議と従いたくなる。
ただ、ベッドに入っても、すぐには寝つけなかった。やはり、ミヤコとの関係が定まっていないのが原因になる。ミヤコが自分をどう思っているのかが、凄く気になる。戦場に出て、命を落とす可能性があるからこそ、心残りが嫌だった。
しかし、眠りの神は、無意識な内に訪れた。とりあえず、寝るしかない……。
次の日、やっぱりひたすら泳ぐ日々を送る。
ただ、午後は、鋼殻体の操縦訓練が殆どの割合を占めるようになった。訓練生一人に一機の割り当てで、機体は各自で責任を持たなければならない。
自分の担当機を見上げる。シルバーメタリックの巨人は、跪き、胸襟を開き、主人を待ち望んでいるかのようだった。
操縦時間が百時間を越え、最初は苦労したが、かなり馴れた。射撃も、停まって撃てばそこそこ当たる。ただ驚いたのは、剣で斬る訓練があることだった。
二十㎜口径のアサルトライフルの他に、特大のブレードを背中に装備している。どうやら、本当に蟻と肉弾戦をするらしい……。
養成所での生活にもだいぶ慣れ、訓練にも余裕が出てきた頃、自分の班は、たまたま藤堂の班の近くで昼食を摂った。更に、僕は慎之助と背中合わせの位置に座る事になり、意識してしまう。
「あの女、いい尻してるな」
藤堂班の誰かが発言。
「慎之助さん、ああいう尻は、丈夫な子を産めそうですか?」
「そうだな」
慎之助は適当に同意する。冷静に聞けば、話題を打ち切りたい感じでもあったのだが、その時の僕は、逆上せ気味だった。
「色白で可愛いけど、髪を染めているのは頂けないな」
また、別の誰かが話題を持ち出す。
「本当に頂けないか?」
「いや、頂けます」
僕の背中でバカ笑いが起こる。どうやら、女の品定めをしているらしい。そして、その対象はミヤコの事だと思え、妄想スイッチがオンになる。
慎之助の父親は、ミヤコの母親を雇っていたそうだが、もしかして、愛人かも知れない? パトロンの子が、愛人の子を家畜みたいに品定めする。そんな考えが脳を支配し、行動に直結させた。
「藤堂慎之助。貴様に決闘を申し出る!」
僕は、立ち上がって慎之助に宣言する。当然、食堂中の注目を集める。誰もが、状況を把握できずに唖然としていた。
そんな中、慎之助はニヤニヤと嬉しそうで、「面白い事が起きた」と喜んでいる感じだった。
「えっと、“班長”のハジメ君だね。残念だけど、今の時代に決闘なんて流行らないよ。君はブームにしたいのかも知れないけどね。それに、私闘は禁止されている」
慎之助に冷静に諭され、当初の勢いは急速に萎む。さすが、年上の余裕と言ったところか?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる