銀色九尾な孤の彼と

山法師

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始まりの日

5 雨が降る春めいた夜中

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「な、なんか、すみません……」
「……何について謝った?」

 苛立っている彼に、

「いや、あの、……聴こえてた声が、子どもの声に思えて……子どもが埋まってると思ってて……すみません……」

 正直に答え、立ち上がりかけていた姿勢を正座にして謝罪する。

「声?」

 苛立っている彼に訝られ、

「あ、実際の声でなく……心に届いた〝声〟が……テレパシーみたいな、ちょっと違うとは思いますけど……声、聴こえて……その声が、子どもの声に思えてしまって……すみません……」

 凪咲はまた正直に答え、謝罪した。

 彼は人間じゃないから〝心に届く声〟の話をしても、問題はないはずだ。

 凪咲の言葉を聞いて、どう思ったのか。

 彼はほんの一瞬、苦々しく顔を歪めた──ように見えたけど、すぐに苛立った表情へ戻り、また舌打ちをした。耳と尻尾の動きも、さらに苛立っているような雰囲気になった。

(苦々しくなったのは、なんかイマイチ分かんないけど)

 強いて言えば、助けを求めてしまったことを苦々しく思った、ような。

(苛立ってるのは)

 大人なのに、子どもだと思われたから。

 読み取れた凪咲は、やってしまったと反省を深める。

「えと、すみません……」

 助けたかったのに、不快な思いをさせてしまった。

(けど)

 だとして、どうしてここに。肌の色も、白い肌を超えて今にも倒れそうなくらい青白くなってるし……埋まってたからでは……?

「って?! 埋まってたんですよね?! 大丈夫なんですか?! ていうかなんで?! いつから埋まってたんですか?! 何かに巻き込まれたんですか?!」

 我に返って、それでもまた慌てて叫ぶように聞いてしまった。そんな凪咲を、人ではないらしい彼は苛立った表情で睨むように見返す。

「いつからなど覚えていない。日数やら期間など、気にしていなかったからな」

 ただ。

「今と近い春めいた空気だった。昼間ではなく夜中のように思えたが。雨が降っていた覚えもある。何かに巻き込まれた訳でもない。これで満足か」

 苛立って睨みつけてくる彼は、それでも教えてくれた。

 教えてもらった内容と、答えてくれなかった部分とに、凪咲はやり切れない思いを抱いてしまった。

(春らしい日の、雨が降ってた、夜中)

 先週、凪咲が別邸に『一人暮らしの準備』で来た日の夜中に、雨が降っていた。

 その日以降、夜中に雨が降った日はない。

(だとしたら)

 本当に、自分と入れ違いになっていた可能性がある。

(短くても、五日間)

 埋まってたのか。人間だったら死んでる日数だ。

(それに)

 何かに巻き込まれた訳でもないと、彼は言った。

(けど、埋まってた理由を言わないのは)

 自分から埋まったってことですよね。

(さっきも)

 助けを求めた自分を「苦々しく」思うような感じだった。

 土に埋まることで回復したり、土に埋まることが日常的な行為のヒトだったりするなら、あんなふうにはならないはずだ。

(埋まって)

 死のうとした。
 死ぬまでいかなくても、苦しむ状況を作り出そうとした。

(苦しんで)

 助けを求めながら。

 苛立った表情をしている彼の、凪咲を睨みつける銀色の瞳から、遣る瀬無さ、悲痛そうな感情が見て取れる。

「ある程度、理解はしました。満足はしません。助ける、助けたい。自分の本音、本心です」

 自分を睨みつけてくる彼をまっすぐ見つめ、凪咲は話しながら考える。

 救急を呼ぼうにも、彼は人間ではないし。彼を救急車や病院が診れるのか、診てくれるツテが彼にあるのか。

「あなたを助け──」
「この場所は適していないと理解した」

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