銀色九尾な孤の彼と

山法師

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始まりの日

31 相談をさせろ

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 寂しい──昔はできていたのに、今はできないと知り、寂しいと思っている。

 揺れる銀色の瞳が、語ってきた。

(……ユキ、お前)

 昔は『大切な誰か』と当たり前にできたことが、もうできなくて寂しいのか。

(やめろって言えなくなっただろ)

 言葉に詰まった凪咲に、ユキが寂しさを隠しきれない様子でぽつりとこぼす。

「……すまなかった」

 銀色の耳も寂しそうに下を向き、包み込んでくれている尻尾も、寂しそうに揺れ動く。

「凪咲のためになるかと思っていたが、むしろためにならないことをしていたのか。すまない、悪かった」

 その上凪咲じぶんのためにって、素直に落ち込んだ感じで言っちゃうお前、ユキ。

(ごめん、ユキ)

 お前のために勘違いさせて、お前の『大切な誰か』の代わりになれるなら。

(それでお前が助かるなら)

 ユキのために、凪咲じぶんのために──勘違いするよ。

「えっと、ユキ」

 自分を不安そうに見つめるユキへ、困りながらも笑みを作り、

「今の説明、ちょっと違ったかも。違ったっていうか……」

 凪咲は『現代でも額へのキスが不自然でない理由』を、頭の中で色々と浮かべていく。

「えっとね、外国とかの文化が入ってさ、こう、親しい仲? 友達とか、そういうのも。俺もユキと仲良くなりたいし、大丈夫だと、思うんだよね。ごめんね、ユキ。不安にさせたよね、大丈夫だよ」

 説明していくうちに不貞腐れていったユキが、不安そうに揺らめくままの銀色の瞳で見つめてくる。

「大丈夫だとして、凪咲のためにならなければ、意味がないだろう」

 心にぶっ刺さることをお前、こんちくしょう。

(ぶっ刺さるから)

 心からの言葉と笑顔を、お前に伝えられるよ、ユキ。

「ためになってるよ、ユキからのキス」

 今までで一番驚いたように目を見開いたユキに、やっぱり苦笑してしまう。

「嫌じゃないし、慣れてないからちょっとびっくりはしたけど」

 でも。

「嬉しかったんだよ」

 優しいユキから、慈しんでもらってるって。

「思えるから、ホントに嬉し……ユキ?」

 耳は嬉しそうに揺れ動き出したのに泣きそうなカオになったユキが、焦がれるように低い声を掠れさせて。

「……俺を優しいとまっすぐに伝えてくる、阿呆の凪咲は」

 やはり、どこまでも世間知らずでお人好しだ。

「凪咲の阿呆が」

 泣きそうなカオを寄せてきたユキから、優しさと慈しみと──愛おしさを込めたようなキスを、額から受け取ってしまった。

「ちょ……と、ユキ……」

 今みたいなキスは、流石に。

(本当に『勘違い』しそうになるから)

 やめてくれ。

 言おうとした凪咲は、

「あっ?! ちょっと?! ユキ?! 尻尾! 尻尾すっごい揺れてるから!」

 嬉しく思ってくれてるらしいのは、良かったけど。

「ふわふわのサラサラが! お風呂入ったからかな?! グレードアップしてるんだよ!」

 シャンプーとかボディーソープとか、どれも安物なのに。

「すっごいふわふわ! すっごいサラサラ! ちょ! 死ぬ! そもそも幸せで死ぬヤツなのに! ユキ?! 聞いてる?!」

 嬉しそうなのはいいけどさ!

「なんでまだキスしてくんの?!」

 それも本当に『勘違い』しそうになるキスを。

「俺さ! もう大丈夫だって言ったよね?!」
「嬉しくてためになるのだろう、何が悪い」

 キスをしながらとっても器用に話すね、ユキお前、なんだお前。

「凪咲の額へどれだけキスをしても、凪咲のためになる。凪咲が喜ぶ。何が悪い」

 お前が支度をしてくれた風呂で、

「俺の尾が凪咲をさらに幸せにするのだろう、何が悪い。存分に味わえ」
「いや、あのね、ちょっ……ちょっと……」

 ユキのためにも、存分に味わってやりたいけど。

「ちょ、と……手を、動かせない、ので……離せ……」

 両手を拘束する必要、本来ないだろ。

「すまない、頭から抜けていた」

 素直に手を離してくれるの、有り難いけど。

(ユキ、お前)

 離した手を、当たり前みたいに首の後ろへ回して固定してくるの、何かな。

「……あの……その……ユキが……お風呂……上がったら……」

 ユキのためにもと、幸せで死にそうな腕の中で、本当に『勘違い』しそうなキスを額に受ける凪咲は、

「ユキの、ために……色々……相談、とか……確認、したかった……ことが……ある、から……相談……させろ……死ぬ……勘違いする……やめろ……相談させろ……」

 本当に『勘違い』しない支えを求めてユキの胸元の服を両手で握りしめ、呻くように言ったけれど、

「俺のためと言ってくれた、凪咲のためにもなるなら、凪咲からの相談や確認を聞く」

 そうでなければ『幸せで死にそうな状態で『勘違い』しそうなキス』を続ける。

 と、言われなくても分かるくらい、幸せすぎて死にそうなまま、本当に『勘違い』しそうなキスを何度も受け続ける。

「俺の、ためにも……てか、俺と……これから……暮らす、ための……相談、とか、だよ……死ぬ……マジで……勘違いする……相談を……させろ……」
「ならばやめる」

 唸るように言ったら、すぐにキスをやめて首の後ろからも手を外して、尻尾も全部離すユキ、お前ユキ、ちょっと。

(なんか性格、変わってない?)

 本当に『勘違い』しないように精神力を使っていた凪咲は、抱きしめ直して頭を撫でてくるユキの腕の中で、呼吸を整えながら思う。

「息をゆっくり整えてから、ゆっくり相談してくれ。凪咲」

 あ、やっぱり、変わってないかも。

(俺のこと抱きしめるってか)

 くっつく時間が伸びて、嬉しいのか、お前、ユキ。

 声が嬉しそうに弾んでるし、離れた尻尾も嬉しそうに揺れ動いてるし。

(もうホント、お前のことよく分かんないな)

 でも、ユキが嬉しくて幸せなら、なんでもいいか。

 ユキの腕の中で、ゆっくり呼吸を整えた凪咲は、

「息整ったから、相談とかをしたいんだけど、いい?」
「この姿勢で聞く」

 言うと思ったよ。

 心の中で呆れ、苦笑を浮かべる。

「うん、大丈夫だよ。それでさ」

 少し上を向くようにユキの顔を見上げ、

「ユキの寝る部屋とか、着物の手入れについてとか、生活用品とかの話もしたいんだけど」

 それらに関する話として。

「俺、四月から高校三年生って言ったでしょ? 今日って三月三十一日、三月の最終日でさ」

 四月の三日になったら。

「高校生活が始まって、平日と土曜日の週六日、朝から夕方くらいまで高校に通うんだよ。ウチの学校、三日から始まるし、リモート授業もあるけど直接受ける授業が多くて」

 抱きしめる腕に力を込めてきたユキが、不満そうな──どことなく不機嫌混じりの──雰囲気になる。

「学校が学び舎ということは知っている。リモート授業というモノはわからんが」

 つまり凪咲の『高校生活』とやらが始まると、

「ほぼ毎日、朝から晩まで、凪咲は学校へ通うのか」

 授業や大学に向けてのあれこれだけなら、晩まではいかないだろうけど。

(通学時間の関係で、何もなくてもやっぱり朝から晩までになるしな)

 家からでなく郊外の別邸から通うので、都心にある学校まで、短くても片道一時間はかかる。

「うん、そんな感じ。それで、俺が居ない時、ユキはどうしてたいかなって。お昼ご飯とかオヤツとか、作っとこうと思ってるけど、他にどうして欲しいとかある?」

 気楽に考えてもらいたくて、気軽に聞いてみたら、

「俺も凪咲の学校へ共に行けたりするのか」
「はい?」

 不満そうな雰囲気のユキが思わぬことを不機嫌そうに言ったので、凪咲は目を丸くした。

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