【本編完結・後日譚更新中】人外になりかけてるらしいけど、私は元気です。

山法師

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本編

17 美緒と華珠貴

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 診察室から出ると、海江田かいえださんが壁により掛かっていた。

「ようお疲れ様、終わったか?」
「あ、はい。なんとか」

 海江田さんは壁から離れると、なんだか苦笑いのような表情になった。

遠野とおのは別件でな、代わりに行ってやってくれと。それと……榊原さかきばらと話がしたいってあの異界の、鈴音すずねって猫又達が言っててな……どうしたい?」
「えっ鈴音さん達が?」

 また会う事が出来るのか。なんだかもう、あそこでさよならのような気がしていた。

「会えるなら……会わせて下さい!」
「俺も少し話がしてぇな」

 私に続いててつも言う。海江田さんは頭をかくと、少し考えるように瞼を閉じた。

「だよなぁ……よし、行くぞ! 案内するからついて来い!」
「はっはい!」

 目を開け、勢い良く方向転換した海江田さんに若干驚きつつ、私達は後に続いた。



「こ、ここ……ですか」
「ああ、保護施設……簡易住居にも色々あんだがな、今回はここになったらしい」

 あれから通路を通って、エレベーターやら階段やらで上り下り。また通路を歩き、だいぶ経って目的の場所へたどり着いた。
 目の前には、壁に埋め込まれるように設置された和風の門。確か、テレビで『数寄屋門』とか言っていたものに似ている。

「これ、どうやって……?」
「ちゃんとインターホンがあるぞ、ほら」
「インターホン?!」

 海江田さんが門の右横にある、木で出来た四角いボタンを押す。すると、場にそぐわない、けれど耳慣れたチャイムの音が鳴った。

「なんの音だ?」
「ほんとにインターホン……」

 てつが聞いてくるが、答える方に気が回らない。なんというか、コレがセンスというものなのか?

『はい!』
「海江田だ。榊原達を連れてきたぞ」
『あ、はい! 今行きます!!』

 この元気な声はもしかして美緒みおさん?
 すぐにぱたぱたと足音がして、目の前の門が開く。

「お待たせしました!」

 そこから顔を覗かせたのは、思った通り美緒さんだった。あの時と同じセーラー服で、見える範囲でだけど怪我もなさそうだ。
 あの時、華珠貴かずきさんが暴れてた時に私は運ばなかったから、それ以降会えていなかった。ちゃんと保護されたんだとは思っていたけど、やはり心配ではあった。それに、言い逃げの事もあったし。

「どうぞ、中へ」

 門から中へはいると、青空が広がっていた。

「……」

 前に散歩させられた庭園と同じだな、うん。
 敷かれた飛び石を辿ると、また大きな日本家屋みたいな、でも違うような建物があった。

「ちょっと変えたのか?」
「あっはい。姐さんが上の方に掛け合ってくれて、住処いえと似た感じにして貰いました」

 海江田さんの疑問に美緒さんが答える。ようするにリフォーム? みたいな?
 そのまま玄関へ行くかと思ったら、庭の方へ案内された。ぐるりと回るようにして移動すると、また大きな日本庭園が現れた。

「本当ここ、空間把握が訳分からないです……」
「あー特に最近は色々研究してるからなぁ。まあ楽しいだろ?」

 海江田さんは流石に慣れているのか、堂々と歩く。

「……あの、あんずさん、てつさん」

 そのまま続いていたら、美緒さんが隣にきた。

「あっ……はい」

 思わず身を硬くする。

「こんな途中の所ですみません……でも、姐さんの事、華珠貴の事……ありがとうございました!!」
「えっ……え?」

 頭を下げられた。全員の足が止まる。

「うん?」
「いや、私感謝されるような事は何も……というか、悪化させた気もしてるんですが……」

「いえ、いいえ! 杏さんは言って下さいました。何もしない事はしないって! いっぱいやって下さいました! 姐さんと話すどころか、姐さんを良くする所に連れて来て下さいました。華珠貴も元に戻して下さいました。どれも私じゃ、私達じゃ出来なかった……。杏さん達を拐かした事は本当申し訳有りません……。でも、都合がいいと思いましょうが、感謝させて下さい。本当にありがとうございます……!」

 頭を下げたままそう語る美緒さんの肩は、少し震えているように見えた。

「……私については、買い被りです。私の力じゃ、今言った事は何一つ出来ません……てつや海江田さん達の力があってこそだから」

 頭を下げたまま首を横に降る美緒さん。
 私はしゃがみ込んで、美緒さんと頭の位置を合わせた。のぞき込みはしないで、そのまま喋る。

「頭、上げて下さい。もし感謝されるにしても、顔を見てやりたいです」

 そう言うと、ゆっくりとだが美緒さんは顔を上げてくれた。目に涙がたまっていて、もう泣く寸前だ。

「美緒さんが無事で良かったです。美緒さんだって頑張ったんです。しかもそんな風に言って貰えて、こちらこそありがとうございます」

 上手く、笑顔を作れているだろうか。
 美緒さんも笑顔になってくれた。頬を上げた拍子に、左の目尻から一粒、涙が零れた。

「……うん、お前等は頑張った! 色々あったがそれも合わせてだ!」
「おおう?!」
「ふぁっ?」

 海江田さんに頭をがしがしと撫でられた?! 勢いが良くて目が回る。美緒さんも面食らっているみたいだ。髪と一緒に耳までぐりぐりされてるけど、大丈夫だろうか。

「よし、じゃあ行くか!」

 私と美緒さんの頭を撫で終わると、海江田さんはまた颯爽と歩き出した。

「何……今の……?」
「びっくりしました……」

 歩き出しながら、二人して呆然と呟く。
 乱れた髪を手櫛でとかしていると、また頭に手が来た。

「てつ?」
「ぐしゃぐしゃと触りやがって……」

 なんと、てつが私の髪を同じ様に手櫛でとかし始めた。

「えええ? ありがとう??」
「……てつさんって……」

 戸惑う私に、美緒さんは何か言いかけて止めてしまった。えっ何、気になるんだけど。



 その後、気付いたらだいぶ離れてしまっていた海江田さんを二人して追いかけた。

「すみません私が先導なのに」
「あ、悪い」

 橋を渡って池を越え、あの庭にあったような皐月が咲き乱れる場所まで来ると、やっと最初に見えた建物に着いた。
 一面閉め切られた障子を見ると、鈴音さんが一斉に障子を閉めた光景を思い出す。

「姐さん、海江田さん方をお連れしました」

 美緒さんが言うと、障子が一斉に開いた。

「どうぞ、上がって下さいな」

 声のする方を見ると、奥で鈴音さんが椅子に腰掛けているのが見えた。それともう一人、少女が鈴音さんの横についている。
 少女は美緒さんと同じくらいの背丈で、ふわふわとウェーブがかかった腰まである黒髪と、そこに埋もれるように黒い猫耳と二股の尻尾。そしてどこかの私立校の制服のような、ブレザータイプの服を身に付けている。

「どうも」

 靴を脱いで縁側に上がる海江田さんにならって、私も部屋に入る。

「こんな状態でごめんなさいねぇ。散々迷惑もかけてしまって……」
「いえ、そんな」

 鈴音さん達の前まで行くと、畳の上に二つ座布団が置いてあった。お座り下さい、と美緒さんに促され座布団に座る。海江田さんも、隣で同じ様に座った。

「……てつさん、杏さん、華珠貴です。ほら華珠貴、助けて下さった方々だよ。ちゃんとお礼言いなさい」

 鈴音さんは、横の少女を示して言う。そうかなとは思っていたけれど、あの子が華珠貴さんか。なんとなく想定していたより幼い……。
 華珠貴さんは一歩前に出ると、正座になってお辞儀をした。

「鈴音の娘、華珠貴と申します。この度はご迷惑をおかけし、誠に申し訳有りませんでした。また助けて頂き、ありがとうございました」
「えっいや!」

 また謝られた上に感謝された?!
 と、何か言う前に華珠貴さんがパッと顔を上げた。

「あの! 杏さん! どうやってその強大な力を、てつさんを取り込んだんですか?」
「はい?!」
「こら華珠貴!」
「でも母様!」

 華珠貴さんは鈴音さんに言い返すと、一気に私の目の前まで距離を詰めた。

「あたし、母様の滋養のためになるものを探していたんです。そしたら森の中で物凄い圧迫感を放つ肉塊を見つけて! それてつさんだったんですけど。毒味と思って一口食べたら何故かこっちが取り込まれてしまって……まだまだ私も未熟なんです……自失しかけましたし……」

 なんか凄い勢いで喋り始めた。

「でも杏さんとてつさんは違うんですよね! お互いがお互いにつぶし合わずに上手く力を使えてる。どうやっているんですか?! ……ぐぇ」
「こら! 華珠貴、駄目じゃない。杏さん達困っちゃってる」

 美緒さんが華珠貴さん……の襟首を掴んで私達から離す。ありがとう、どんどん近付いてくる顔が若干怖かったです。

「でも美緒……」

 美緒さんの方が上って感じなのかな? 食い下がる華珠貴さんを隅に引っ張っていき、なにやら話し始めたようだ。

「……ごめんなさいねぇ……あの子、気になる事があると周りが見えなくなるの……」
「あー、いえ……」
「じゃあ、用は済んだ感じか?」
「……それなんだけれど」

 てつの言葉に、鈴音さんは少し目を泳がせてから口を開いた。

「ちょいと、気になる事があるんだけれど……てつさんと杏さん、結び付きが強くなったのかい?」
「!」
「……それは、誰かに?」

 海江田さんが低く訊ねる。

「いえ、あたし達は何か通さなくても見えるから。姿が変わってるだけならまだしも、前の時のように繋ぎの糸も無いもんだから……」

 繋ぎの糸……あの口から出ていた紐の事かな。

「そこから何か、思うものが?」
「思うというか……てつさん方はどうなんだい?」
「……ええと、変わったなっていう感覚は、なんとなくは」
「俺はまあまあ俺を取り戻せて気分が良い」

 それを聞いて、鈴音さんはほんの少し俯いたかと思うと、私達に向かって言った。

「前、あの時……てつさんに少し似た方の話をしたでしょう? またそれとは別に…………今この、てつさん達に似たものをあたしは知っている」


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