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格差と貧困
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「やめなよ」
娘は男にそう促したが、更なる怒声で男はそれを遮った。
「黙ってろ!おいあんた! 教えてやるよ! 姉貴が欲しいんならまず食料だ!そして暖かい布団と服さ! 最後に自由に生きるための金をやるんだ! そうすれば、こいつはいつだってあんたの物になるぜ!」
なんだ? こいつは?
いくらこの娘の弟だからって、言って良いことと悪いことがあるだろう。この気高き娘が、そんな下賤な金で私の物になるだと? 誤解するな、私はこの娘を買いたいんじゃない。
私の中でこの男に対する怒りが沸々と沸き起こった。
「おい」
きっと部下を叱る時でもここまで低い声は出したことはないだろう。視界の隅で部下が震えているのが見える。覚えておけ、私を本気で怒らせたらこうなる。
「この娘を侮辱するなよ」
私が言うか早いか、左頬にとてつもない衝撃を受けたと思ったら私の体は吹っ飛んでいた。
「お前ら貴族は花を貰ったら嬉しいと思うだろう! 明日の飯の心配をすることもないからな! だが俺たち農民は今日を生きるだけで精一杯なんだよ! 俺たちが働いた金でお前ら貴族は私腹を肥やしてのうのうと暮らしてる! 俺らが毎日を生きるのにどれだけ必死かなんてお前らは知らないだろ! 今日の酒代は元は誰の金だ? あんたが立派にぶら下げてるその銃は誰の金だ? 俺ら貧民の生活なんてお坊っちゃまのお前には分からないだろうさ! 俺らのことなんて考えずに腹の足しにもならねえ花ばっかり渡すその行為が! ・・・・・・侮辱だって言ってんだよ!」
男はそう言って店の奥に消えて行った。私が吹っ飛んだ音と男の怒声でこっちに注目していた店の連中も、男が消えると何事もなかったかのように騒ぎ始めた。
そう、ここであの男が騒ぎを起こすのは珍しいことではない、もうみんな慣れっこだ。
吹っ飛ばされた私と、原因となった娘を除いて。
「兵隊さん、大丈夫? ごめん、ごめんね。弟がヒドイことを・・・・・・」
「いや、いいんだよ・・・・・・。良い一発だった」
頬をさすると少し腫れているのが分かる。部下が正面に見えるが、どうしていいか分からずたじろんでいた。いいぞ、そのままゆっくりしてろ。不名誉なことに、私は今史上最高に娘に接近しているんだ。
「君を知らないうちに傷つけてしまったのなら謝るよ、ごめん」
「ううん、そんなことない。私はこの薔薇、好きだよ! 大切にする!」
「ははは、ありがとう。お世辞でも、そう言ってくれると助かるよ」
「お世辞なんかじゃないよ! いつも本当に嬉しいと思ってる! あの子は女心が分かってないだけなんだよ」
「そうか・・・・・・。ありがとう、少し気が楽になったよ。明日はパンでも持ってくるかな」
「ええと、うん。貰えるならなんだって嬉しいよ! 本当にごめんね、弟は今の生活でお腹いっぱい食べることもできないから気が立ってて・・・・・・」
「いや、いいんだよ。確かに、今の格差社会は問題だ。私たちのような貴族に不満が溜まるのも仕方ない。皇族でもなんでもない私たちのせめてもの役目は、あういう不満を一心に引き受けることだろうな」
「兵隊さんは・・・・・・、他の貴族なんかとは違うよ! 私たちのお店に来る貴族は踊り子の胸ばっかり見たり、食べ物をボロボロこぼしたり、ちっとも優雅じゃないの! でも兵隊さんはお店に入れば挨拶もしてくれるし、頼んだ分の食べ物はいつも残さず食べてくれる! あなたは他の貴族なんかよりよっぽど私たちに寄り添ってくれてるわ!」
誰だそんな我々の名を汚すような行いをやってる不届き者は・・・・・・。しかし私のことをそんな風に思っていてくれていたなんて、貴族としての振る舞いを意識してきて良かった。
思いがけない自分への高評価に、思わず顔がほころぶ。殴られ得、というやつか。できれば今度は殴られずに得したいものだ。
しかしまあ、私のやってることも他の貴族連中から見れば大差ないだろう。農民の娘に言い寄るなんて奇行に出てるのは私くらいのものだ。大体の人間は親の庇護の元で、親が用意した縁談に何の疑問も持つことなく妻を娶るんだ。
私はそんな自由のない恋などしたくはない。
「そういえば弟が言ってたけど、今日はいつもより大きい銃だね」
「ああ、これは・・・・・・」
恐らく話題を変えるためだろう。この娘が銃なんかに興味を持つわけがない。しかしこれもきっとこの娘の良心だろう。あの男の時と同様、丁寧に答えてあげた。
「そんなことが・・・・・・。兵隊さん、無理しないでね。毎日、歌、聞きに来てね」
「大丈夫だよ。ここみたいな軍の基地がある都市は襲撃を受けてないし、国の端っこで騒いでるだけじゃ今の国政は何にも変わらないよ」
「それでもその人たちは革命を起こそうとするかもしれないよ? 兵隊さんが死んだら悲しいよ・・・・・・」
「革命か・・・・・・。革命は暴力だ。一つの階級が他の階級をうち倒す、激烈な行動だ。私たちはそんな暴力に屈したりはしないよ」
「それでも心配だよ・・・・・・。お願い、死なないでね」
「大丈夫だ。・・・・・・さっきはあういう風に言ったが、テロリストはどこに潜んでるか分からない、君も気をつけるんだ」
「うん・・・・・・。ありが、とう・・・・・・」
「今日はもう帰るとするよ、もう一人の弟さんにもよろしくな」
「あ、うん! ありがとう! また明日ね!」
この状況では酔っ払えるわけもないので部下を連れてさっさとお暇しよう。まあ、殴られはしたが今まで近づく気配すらなかったあの娘に近づけただけでヨシとするか。
ビール二杯と左頬の痛みで、この後、良好な関係を築けそうなんだから安いものだ。
娘は男にそう促したが、更なる怒声で男はそれを遮った。
「黙ってろ!おいあんた! 教えてやるよ! 姉貴が欲しいんならまず食料だ!そして暖かい布団と服さ! 最後に自由に生きるための金をやるんだ! そうすれば、こいつはいつだってあんたの物になるぜ!」
なんだ? こいつは?
いくらこの娘の弟だからって、言って良いことと悪いことがあるだろう。この気高き娘が、そんな下賤な金で私の物になるだと? 誤解するな、私はこの娘を買いたいんじゃない。
私の中でこの男に対する怒りが沸々と沸き起こった。
「おい」
きっと部下を叱る時でもここまで低い声は出したことはないだろう。視界の隅で部下が震えているのが見える。覚えておけ、私を本気で怒らせたらこうなる。
「この娘を侮辱するなよ」
私が言うか早いか、左頬にとてつもない衝撃を受けたと思ったら私の体は吹っ飛んでいた。
「お前ら貴族は花を貰ったら嬉しいと思うだろう! 明日の飯の心配をすることもないからな! だが俺たち農民は今日を生きるだけで精一杯なんだよ! 俺たちが働いた金でお前ら貴族は私腹を肥やしてのうのうと暮らしてる! 俺らが毎日を生きるのにどれだけ必死かなんてお前らは知らないだろ! 今日の酒代は元は誰の金だ? あんたが立派にぶら下げてるその銃は誰の金だ? 俺ら貧民の生活なんてお坊っちゃまのお前には分からないだろうさ! 俺らのことなんて考えずに腹の足しにもならねえ花ばっかり渡すその行為が! ・・・・・・侮辱だって言ってんだよ!」
男はそう言って店の奥に消えて行った。私が吹っ飛んだ音と男の怒声でこっちに注目していた店の連中も、男が消えると何事もなかったかのように騒ぎ始めた。
そう、ここであの男が騒ぎを起こすのは珍しいことではない、もうみんな慣れっこだ。
吹っ飛ばされた私と、原因となった娘を除いて。
「兵隊さん、大丈夫? ごめん、ごめんね。弟がヒドイことを・・・・・・」
「いや、いいんだよ・・・・・・。良い一発だった」
頬をさすると少し腫れているのが分かる。部下が正面に見えるが、どうしていいか分からずたじろんでいた。いいぞ、そのままゆっくりしてろ。不名誉なことに、私は今史上最高に娘に接近しているんだ。
「君を知らないうちに傷つけてしまったのなら謝るよ、ごめん」
「ううん、そんなことない。私はこの薔薇、好きだよ! 大切にする!」
「ははは、ありがとう。お世辞でも、そう言ってくれると助かるよ」
「お世辞なんかじゃないよ! いつも本当に嬉しいと思ってる! あの子は女心が分かってないだけなんだよ」
「そうか・・・・・・。ありがとう、少し気が楽になったよ。明日はパンでも持ってくるかな」
「ええと、うん。貰えるならなんだって嬉しいよ! 本当にごめんね、弟は今の生活でお腹いっぱい食べることもできないから気が立ってて・・・・・・」
「いや、いいんだよ。確かに、今の格差社会は問題だ。私たちのような貴族に不満が溜まるのも仕方ない。皇族でもなんでもない私たちのせめてもの役目は、あういう不満を一心に引き受けることだろうな」
「兵隊さんは・・・・・・、他の貴族なんかとは違うよ! 私たちのお店に来る貴族は踊り子の胸ばっかり見たり、食べ物をボロボロこぼしたり、ちっとも優雅じゃないの! でも兵隊さんはお店に入れば挨拶もしてくれるし、頼んだ分の食べ物はいつも残さず食べてくれる! あなたは他の貴族なんかよりよっぽど私たちに寄り添ってくれてるわ!」
誰だそんな我々の名を汚すような行いをやってる不届き者は・・・・・・。しかし私のことをそんな風に思っていてくれていたなんて、貴族としての振る舞いを意識してきて良かった。
思いがけない自分への高評価に、思わず顔がほころぶ。殴られ得、というやつか。できれば今度は殴られずに得したいものだ。
しかしまあ、私のやってることも他の貴族連中から見れば大差ないだろう。農民の娘に言い寄るなんて奇行に出てるのは私くらいのものだ。大体の人間は親の庇護の元で、親が用意した縁談に何の疑問も持つことなく妻を娶るんだ。
私はそんな自由のない恋などしたくはない。
「そういえば弟が言ってたけど、今日はいつもより大きい銃だね」
「ああ、これは・・・・・・」
恐らく話題を変えるためだろう。この娘が銃なんかに興味を持つわけがない。しかしこれもきっとこの娘の良心だろう。あの男の時と同様、丁寧に答えてあげた。
「そんなことが・・・・・・。兵隊さん、無理しないでね。毎日、歌、聞きに来てね」
「大丈夫だよ。ここみたいな軍の基地がある都市は襲撃を受けてないし、国の端っこで騒いでるだけじゃ今の国政は何にも変わらないよ」
「それでもその人たちは革命を起こそうとするかもしれないよ? 兵隊さんが死んだら悲しいよ・・・・・・」
「革命か・・・・・・。革命は暴力だ。一つの階級が他の階級をうち倒す、激烈な行動だ。私たちはそんな暴力に屈したりはしないよ」
「それでも心配だよ・・・・・・。お願い、死なないでね」
「大丈夫だ。・・・・・・さっきはあういう風に言ったが、テロリストはどこに潜んでるか分からない、君も気をつけるんだ」
「うん・・・・・・。ありが、とう・・・・・・」
「今日はもう帰るとするよ、もう一人の弟さんにもよろしくな」
「あ、うん! ありがとう! また明日ね!」
この状況では酔っ払えるわけもないので部下を連れてさっさとお暇しよう。まあ、殴られはしたが今まで近づく気配すらなかったあの娘に近づけただけでヨシとするか。
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