ただ君だけを

伊能こし餡

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祝福されたい

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  ・・・・・・グリーヂェは本当に来てくれるだろうか。
  さっきからそんな不安ばかりが頭をよぎる。いや、そんな不安はグリーヂェに対する侮辱だ。分かってる。分かってはいるがどうしても不安に感じてしまう。

  私のこの今にも溢れそうな想いをどういう風に気持ちを伝えようか。男らしくストレートに伝えるか、それとも風情ふぜいにポエムっぽく伝えるか。

  まあ、私はそこまで学は高くないから後者はまず無理だろうな。ストレートに伝えよう、うん。

  少しだけ目を閉じて自分の呼吸の音を聞く。特にいつもより早いとか遅いはない。思ったより緊張していないみたいだ。

  自分が緊張していないことを自覚すると、心なしか頭の中がスッキリしてきた。大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせる。

  やがてザッザッザッと背後から足音が聞こえてきた。この足音は間違いない、彼女だ。

「やあ、今日もお疲れ様。グリーヂェ」

  そう言って振り向くと、彼女は目を見開いて驚いた様子だった。

「凄い、どうして私って分かったの?」
「まあ、待ち合わせしてたからな」
「ふふふ、それもそうだね」

  好きな人の足音ってのは、意外と分かるものなんだな。

「それで、どうしたの? 何かあった?」
「ああそうだね、もう遅いし、簡潔にまとめるよ」

  簡潔に。

  色々と遠回しをしないように自分自身にそう言い聞かせる。簡潔に。逃げるな。逃げればあの皇帝一家と同類だぞ。

「グリーヂェ、私は君を愛している。この世界の誰よりも、この広い大地で、ただ君だけを愛している。君とならどんな困難も歩いていける。どうか、私と共に生きてはくれないだろうか?」

  ・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・嬉しい」

  グリーヂェは口を両手で覆い、顔を赤らめて答えてくれた。
  これは、私の思いは伝わったと思っていいのか? 針の穴に通すようなこの想いが、届いたというのか?

「私のことそんな風に思っててくれてるなんて思いもしなかった。嬉しい・・・・・・でも」

  でも?

「でも私は、結婚するならみんなに祝福されて結婚したい。私は農民で、あなたは貴族。きっとあなたの両親も、私の弟たちも祝福してくれないよ。だから・・・・・・だから私はあなたの想いに、どう答えればいいのか分からない」
「グリーヂェ・・・・・・」

  それは・・・・・・。それは私にも分からない。

「私の両親が私たちのことを祝福してくれないとでも?」
「そういうことじゃ・・・・・・でも私は生れながらにそういう身分なんだよ。ここはそういう国なんだ」
「私の両親なら大丈夫さ、私をここまで育ててくれた、聡明で立派な人たちだ。相手が例え農民だろうがコサックだろうが、祝福してくれるはずだ。君の弟たちのことは今はよく知らないが、これから時間をかけて知っていこうと思う。それじゃダメだろうか?」
「ダメじゃない・・・・・・けど、やっぱり自信がないよ。私は農民なの、今こうして、あなたと話しているのも本当ならありえないような話で・・・・・・」
「グリーヂェ、それはもう言うな。それで今、このロシアでどれほどの血が流れていると思う?」
「それは・・・・・・」

  農民たちの反社会運動によって一体何人の貴族が犠牲になったことか。せめて私たちの間だけでもそういういさかいを忘れたい。

「グリーヂェ、こんな時代だ、この先苦しみの方が多いかもしれない。だが私は君となら、例え分けあえるものが苦しみだったとしても、グリーヂェがくれる時間を私は大切にするよ。これは本当だ、約束する」
「・・・・・・本当? 信じていいの?」
「ああ、もちろんだ」
「嬉しい・・・・・・嬉しい! ありがとう! ありがとう!」

  そう言うとグリーヂェは私の首に手を回し、思いっきり抱きついてきた。私も彼女の腰に手を回す。背伸びをして強調された彼女のくびれがなんとも色っぽい。

「そうだ、明後日、私の両親がこちらに旅行に来るんだが、店に連れて来てもいいかい?」
「明後日ね、店に来るんなら弟たちも何も言わないと思うよ。むしろ、是非来てほしい!」
「そうか、ありがとう、グリーヂェ。あ」
「? どうしたの?」
「これはその・・・・・・私と君は両想いということで問題ないか?」

  すると彼女は耳まで真っ赤にして飛びっきりの笑顔でこう言った。

「もちろん! 大好きだよ! フェリックス!」
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