ただ君だけを

伊能こし餡

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イケナイ恋

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  最初は全然意識してなかった。

  むしろ印象はあんまり良くなかった。よく部下を連れて店に来る偉そうな軍人の一人、そう思ってた。でもいつもビールを運んで、お歌でチップを貰うその合間に、部下たちに一生懸命今の国のあり方をいてるのを聞いて、もしかしたらこの人は他の人とは違うのかもしれないと思った。

  重い税金に苦しみ、人間とも思われていないような私たちへの扱いを真剣に部下に話すあの人を見た時、心の底から嬉しかった。

  それからしばらくして、あの人は毎日のように私に花束をくれた。ムージャじゃないけど、正直言ってお花じゃお腹は膨れないからあんまり嬉しくなかった。むしろ、いずれ捨てるだけのゴミがどんどん増えていく。あまり良い気分じゃなかった。なんだか、貴族のお坊っちゃまにもてあそばれてるような気がして、素っ気ない態度を取っていた。

  あの人の気持ちを本物だと思ったのはいつからだろう。あの人の熱意に私も応えたいと思ったのはいつからだろう。

  貴族なのにまったくそれを気取らないところ? 私たち農民のことを本気で考えているところ? 私を侮辱するなと弟に言ったところ? 小役人を叱責しっせきしてくれたところ? 担保にペンダントを持って行けと私のために言ってくれたところ? 私を守ってくれたところ?

  きっと、全部だ。

  その一つ一つの行動が私の心に響いたし、その一つ一つの言葉が私の胸を打った。

  きっとあの人となら、私は私の世界を変えられる。この酒場で終わっていた私の世界は、きっともっと羽ばたけるようになる。酒場の外には街がある。街の外には国がある。国の外には世界がある。あの人はそれを私に教えてくれた。

  いつからか私はあの人の行動や発言に注目するようになった。すると、あの人はいつだって私たちのことを本気で考えてくれてた。農民への負担が大きすぎるだとか、所得の高い我々貴族からこそもっと税金を取るべきだとか。あんなん聞いてたら嫌でも惚れちゃうよ。

  この国の本当の現実を、あの人だけは分かってるような、そんな気がした。

  だからこそ、昨日面と向かって愛していると言われた時は頭が真っ白になっちゃった。

  なんとなくあの人も私のことが好きだと想ってくれてるのは分かってた。でもあの人は、そんな感情なんて関係なく、どこかのお姫様と結婚するんだと思ってた。
  だって貴族ってそういう風なイメージだから・・・・・・。自分の意思よりも家の地位を優先する。そんな汚い連中の集まりだと思ってた。

  あういう人もいるんだな。

  ふふふ、あの人がやってることがイケナイことのような気がして笑えてきちゃった。でも良いよね、イケナイ恋。あれだけ真面目なのに、行儀が良いだけの貴族じゃないってところもあの人の良いところだよね。

  さ、今日もあの人とあの公園で待ち合わせ。お仕事が終わった後の秘密の時間。弟たちには絶対にバレないようにしなきゃ。

「今日も先に帰ってて、姉ちゃん寄るところがあるから」
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