断罪される未来を知る悪役令嬢ですが、冷徹なはずの婚約者に勘違いされて溺愛ルートに入りました

六角

文字の大きさ
22 / 60

第22話:浮上する第一の容疑者

しおりを挟む
ゼノン様から渡された調査報告のファイル。
私は、息をのんで、そのページをめくっていった。
そこには、この数ヶ月、彼の周りで起きた不審な事件の数々が、詳細に記録されていた。

アラン殿下の支持者たちの失脚。
シルヴァーグ公爵家の事業に対する、巧妙な妨害工作。
そして、王宮内に流れる、ゼノン様に関する、悪意に満ちた噂。

そのどれもが、個々に見れば、ただの不運や、政敵の嫌がらせに見える。
しかし、こうして一覧で見ると、その背後にある、明確な悪意と意図が、浮かび上がってくるようだった。

「…酷い、ですわね」

「ああ」

私が呟くと、隣で書類仕事をしていたゼノン様が、短く相槌をうった。

「敵は、相当な手練れだ。決して、尻尾を出さない」

「黒幕について、何か、見当はついているのですか?」

私の問いに、彼は、少しだけ、間を置いた。

「…候補は、三人いる」

「三人…」

「そのうちの、最も有力な容疑者が、現宰相、オーギュスト・ド・ロシュフォール公爵だ」

ロシュフォール公爵。
その名前に、私は、ゲームの記憶を呼び起こした。
彼は、攻略対象者の一人である、優等生タイプの騎士、ジュリアン・ド・ロシュフォールの父親だ。

ゲームの中での宰相は、厳格で、融通の利かない、典型的な保守派の貴族として描かれていた。
そして、ルートによっては、シルヴァーグ家の力を危険視し、ゼノン様と対立するイベントがあったはずだ。

「なぜ、宰相が…?」

「あの男は、古くからの王権至上主義者だ。王家の血を引かぬ者が、王家を凌ぐ力を持つことを、極端に嫌う」

ゼノン様は、冷ややかに言った。

「特に、俺の父…先代のシルヴァーグ公爵が、その強大な魔力で、先王の信頼を一身に受けていたことを、酷く妬んでいたらしい」

「…つまり、昔からの、因縁、というわけですのね」

「ああ。そして、その息子である俺が、父以上の魔力を持って生まれてきた。奴にとっては、面白くないだろうな。目の上の、巨大なこぶ、といったところか」

なるほど。動機としては、十分すぎる。
強くなりすぎたシルヴァーグ家を、国の安定のため、という大義名分のもと、潰そうとしているのかもしれない。

「ですが、宰相ともあろう方が、リリアナ様のような、平民の少女を使って、このような回りくどいことをするでしょうか?」

「そこが、腑に落ちない点だ」

ゼノン様も、私の疑問に同意した。

「奴は、もっと正攻法を好む男だと思っていた。陰謀を巡らせるような、小物ではない、と」

「では、宰相ではない、と…?」

「いや、断定はできん。人が、権力や嫉妬に目が眩んだ時、どれほど愚かな行動に出るか、わからんからな」

彼の言葉には、重みがあった。
彼自身、多くの人間の、醜い部分を見てきたのだろう。

「何か、証拠はあるのですか? 宰相が、黒幕であるという」

「ない」

彼は、きっぱりと首を横に振った。

「だから、泳がせている。奴が、必ず、ボロを出す瞬間を、待っているんだ」

それが、彼のやり方なのだ。
静かに、待ち、敵が油断した瞬間を、一撃で仕留める。
まるで、獲物を狙う、孤高の獣のようだ。

私は、ファイルに目を戻した。
黒幕の候補、あと二人。
その名前は、まだ、伏せられている。

『聞いても、今は教えてくれないでしょうね…』

彼は、まだ、私のことを、完全には信用していないのだ。
それは、当然のことだろう。
つい先日まで、私は、彼の敵であるアラン殿下と、手を組んでいたのだから。

でも、それでいい。
今は、一歩ずつ、信頼を積み重ねていくしかないのだ。

「あの、ゼノン様」

「なんだ」

「宰相の息子である、ジュリアン様は…彼も、父君の計画に、関わっているのでしょうか?」

ゲームの中の彼は、真面目で、正義感の強い、好青年だった。
父親の陰謀に、加担するようには、とても思えない。

私の問いに、ゼノン様は、少しだけ、表情を和らげた。

「…さあな。だが、あの男は、父親とは違う。少なくとも、俺はそう信じたい」

その言葉に、私は、少しだけ、安堵した。
彼も、ジュリアン様のことは、認めているのだ。

第一の容疑者、ロシュフォール宰相。
彼が、本当に、すべての元凶なのか。
それとも、彼もまた、真の黒幕に踊らされている、駒の一人に過ぎないのか。

謎は、まだ、深い霧の中に包まれていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

令嬢から成り下がったメイドの分際で、侯爵様と目が合ってしまって

あおとあい
恋愛
彼はメイドの私に手を差し出した。「私と、踊っていただけませんか?」 かつては伯爵令嬢として、誰もが羨む生活を送っていたエルナ。 しかし、いわれなき罪で家は没落し、今は嫌な貴族の下で働く「身分落ち」のメイド。 二度と表舞台に立つことなどないはずだった。 あの日の豪華絢爛な舞踏会で、彼と目が合うまでは。 アルフォンス・ベルンハルト侯爵。 冷徹な「戦場の英雄」として国中の注目を集める、今もっともホットで、もっとも手が届かない男。 退屈そうに会場を見渡していた彼の視線が、影に徹していた私を捉えて。 彼は真っ直ぐに歩み寄り、埃まみれの私に手を差し出した。 「私と、踊っていただけませんか?」 メイドの分際で、英雄のパートナー!? 前代未聞のスキャンダルから始まる逆転劇。 ※毎日17時更新

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...