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真相が知りたい

オッサンかよ

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「疲れたぁー」

 鶴見つるみ先生不在の……。しかも週明け一発目の月曜日は、思いのほか私のライフを削ってくれた。

 正直な話、初体験の翌日だったことも手伝って、物凄くしんどかったし、腰にきてる。
 でも、下半身の違和感を思いのほか意識せずに過ごせたのは、裏を返せばこの多忙のおかげだったのかもしれない。

 とはいえ――。
 さすがに電池切れの一歩手前。
 今から逢地おおち先生と混み入ったお話をしなければいけないのだから、少しは体力を回復しておかないと。

 実はこういう時のために、冷蔵庫に“鳥飼とりかい”と書いた名札タグを付けた秘蔵っ子の飲むヨーグルトを仕舞ってある。

 私はそれを取り出して、痛む腰に手を当てたまま一気に煽った。

 あーん。甘酸っぱくて美味しいっ! それに、冷たくて心がシャキッとする。

「くぅーっ! 生き返るぅー!」

 ホッとして吐き出したら、

「オッサンかよ」

 突如笑いを多分に含んだ声を背後から投げ掛けられて、ビクッとする。

 放課後の給湯室。
 誰もいないと思って油断していた私は、その声に慌てて振り返った。

「バカ音芽おとめ。くち……」

 言われてごく自然に伸びてきた手に、上唇の上を軽く親指の腹で拭われる。

「はっ、温和はるまさっ!?」

 思わず無意識に闖入者ちんにゅうしゃの名前を呼んでしまってから、慌てて口に手を当てた。

「きっ、霧島きりしま先生……何かご用ですか?」

 今更だと思いながらも苗字で呼び直した声は、照れ隠しもあっていつもより1オクターブばかり上がってしまう。

「別に用はねぇけど――お前、今から逢地おおち先生んトコ、行くんだろ?」

 用はないと言いながら、しっかり用事ありそうじゃないですか、

 煮え切らない態度の温和はるまさに、私は小さく溜め息を落とす。


「知られてマズイことがあるんなら今のうちに弁解どうぞ? 過去のことだし、先に話してくれるなら……私、水に流してあげてもいいですよ?」

 朝挨拶をした時に揶揄からかわれた仕返しに、ちょっとだけ強気でそう言ったら、クスッと笑われてしまった。

鳥飼とりかい先生。残念ながら俺にはそんなの、1つもありませんから」

 ――清廉潔白せいれんけっぱくです。

 自信満々に学年主任モードで言い切られて、私はムッとしてしまう。

 お、逢地おおち先生とキスしようとしてた(?)くせにっ!
 何もないとか、白々しいにもほどがあるわっ!

 思ったけれど、それを言ったら嫉妬してるみたいで悔しいから言ってあげない。
 実際、今思い出しただけでもモヤモヤしてしまうぐらいヤキモチを妬いているけれど、温和はるまさには知られたくないの。

「何にもやましいことがないんなら、私が逢地おおち先生のところに行くの、なぜ気にしてくるんですか?」

 このセリフは「王手だ!」って思ったんだけどな。
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