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(13)立神信武という男
本好きのさが
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「あ、あのぉ……!」
今日はまだお風呂にも入っていないし、何より足元に落っことしてしまった本が気がかりで仕方がない日和美だ。
超絶美形の、俳優もかくやといった風情の日本人離れした容姿の男性に抱き締められていると言うのに、日和美は驚きの余り取り落としてしまった足元の本にばかり気がいってしまう。
幸い柔らかなラグの上に落下したから、本の角っこがへこんでしまったとか言うことはないはずだ。でも、落ちた拍子に本が開いて、伏せられた形になっているのが非常に気になって。
(今すぐ直したい!)
本好きならではの発想というか。
日和美はとにかく本が傷むようなあれこれを嫌うところがある女性だった。
書斎にしている寝室にいつも遮光カーテンが引かれているのだって、本を紫外線から守るためだ。
図書館で借りてきた本も傷まないよう小さな袋に入れて持ち歩くし、友人なんかがしおりがないからと読んでいたページを開いてテーブルなどに伏せて置くのを見るのも好きではない。
ティッシュでも何でもいいから挟んでー!っと心の中で叫んでしまう。
そうしてそれは、当然今日買ってきたばかりの蔵書、『ある茶葉店店主の淫らな劣情』にも発動するわけで。
「お前なぁ、こう言う時くらい少しは空気読んで、じっと抱かれておいてやろうかな?とか言う気になれねぇのかよ」
照れ隠し。結構いっぱいいっぱいな気持ちで日和美を抱きしめている信武としては、腕の中の日和美の反応が気になってたまらない。
それなのに――。
信武に「あのぉ!」と声を掛けるなり、にわかにモジモジし始めた日和美に、信武が思わず不機嫌そうな声を出したのもやむを得ないだろう。
「む、無理に決まってるじゃないですか! だってだって! 本がっ! 本が足元で大変なことになっちゃってるんですよ⁉︎」
少し身体を引き離すようにして彼女を睨みつけたら、これ幸いとばかりに日和美がスルリと信武の腕から逃れてしゃがみ込んだ。
そうしてラグからサッと本を持ち上げると、ページの折れなどがないか確認してすぐパタンと閉じて。
閉じた状態のまま、またどこも傷んでいないかを矯めつ眇めつ確認した。
ひとしきりチェックをした後、ほぅっと吐息をついて「大丈夫。立神センセぇのご本、無傷でしたぁ~」とニコッと信武に笑いかけるから。
信武は毒気を抜かれて文句を言いそびれてしまった。
そもそも自分の本を目の前でこんなに大切に扱われるとか……自分自身を大切にされているようで何だか面映ゆいではないか。
それに――。
「あ、あのぉ……!」
今日はまだお風呂にも入っていないし、何より足元に落っことしてしまった本が気がかりで仕方がない日和美だ。
超絶美形の、俳優もかくやといった風情の日本人離れした容姿の男性に抱き締められていると言うのに、日和美は驚きの余り取り落としてしまった足元の本にばかり気がいってしまう。
幸い柔らかなラグの上に落下したから、本の角っこがへこんでしまったとか言うことはないはずだ。でも、落ちた拍子に本が開いて、伏せられた形になっているのが非常に気になって。
(今すぐ直したい!)
本好きならではの発想というか。
日和美はとにかく本が傷むようなあれこれを嫌うところがある女性だった。
書斎にしている寝室にいつも遮光カーテンが引かれているのだって、本を紫外線から守るためだ。
図書館で借りてきた本も傷まないよう小さな袋に入れて持ち歩くし、友人なんかがしおりがないからと読んでいたページを開いてテーブルなどに伏せて置くのを見るのも好きではない。
ティッシュでも何でもいいから挟んでー!っと心の中で叫んでしまう。
そうしてそれは、当然今日買ってきたばかりの蔵書、『ある茶葉店店主の淫らな劣情』にも発動するわけで。
「お前なぁ、こう言う時くらい少しは空気読んで、じっと抱かれておいてやろうかな?とか言う気になれねぇのかよ」
照れ隠し。結構いっぱいいっぱいな気持ちで日和美を抱きしめている信武としては、腕の中の日和美の反応が気になってたまらない。
それなのに――。
信武に「あのぉ!」と声を掛けるなり、にわかにモジモジし始めた日和美に、信武が思わず不機嫌そうな声を出したのもやむを得ないだろう。
「む、無理に決まってるじゃないですか! だってだって! 本がっ! 本が足元で大変なことになっちゃってるんですよ⁉︎」
少し身体を引き離すようにして彼女を睨みつけたら、これ幸いとばかりに日和美がスルリと信武の腕から逃れてしゃがみ込んだ。
そうしてラグからサッと本を持ち上げると、ページの折れなどがないか確認してすぐパタンと閉じて。
閉じた状態のまま、またどこも傷んでいないかを矯めつ眇めつ確認した。
ひとしきりチェックをした後、ほぅっと吐息をついて「大丈夫。立神センセぇのご本、無傷でしたぁ~」とニコッと信武に笑いかけるから。
信武は毒気を抜かれて文句を言いそびれてしまった。
そもそも自分の本を目の前でこんなに大切に扱われるとか……自分自身を大切にされているようで何だか面映ゆいではないか。
それに――。
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