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神域にて
いっぱいいっぱい
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今、僕たちがいる鳥居の先にある神社は、神主不在のいわば無人の小さな神社だ。
境内に入ってしまえば、人目をはばかる必要がほとんどない。
神域全体がこんもりとした杜に囲まれているので、程よく外部からの視線を遮ってもくれる。
「とりあえずここじゃ落ち着かないし……上行こう」
僕の問いかけに黙り込む葵咲ちゃんに、神社の石段を指さす。
声音こそとても穏やかに語りかけているけれど、彼女は僕の怒りを肌で感じ取っているはずだ。
有無を言わせず彼女を参道のほうへ押しやると、逃げられないよう数段後ろについて石段をのぼる。
下から彼女を見上げる形になるので、見るとはなしに葵咲ちゃんの臀部から爪先にかけての美しいラインに目がいった。
彼女が今日はいているのは黒のハイソックスだ。上部に、王冠のような刺繍がワンポイント入っている。ぼんやりと靴下を眺めていたら、下着は何色だろう?とか思ってしまった。
(重症だ……)
まぁ、僕は葵咲ちゃんに初めて会ったあの日から、彼女の全てを自分のものにしたいと恋焦がれてきたのだから無理もない。
彼女が高校生になるまではさすがにまずいと思って、ずっと気持ちを押し殺してきた。そればかりか、彼女が望むままのお兄ちゃん役にも徹したつもりだ。
葵咲ちゃんが高校生になったら、どんな手段を使ってでも僕を1人の男として自覚してもらう。
そう心に決めて、ある意味悶々と日々を過ごしていた。
そんな僕の思惑を知ってか知らずか、葵咲ちゃんは小学4年生になった夏辺りから、どこかよそよそしくなり始めた。
それを寂しく思うと同時に、ほんの少しだけありがたくもあり……。
もしも幼いころのテンションのまま、「お兄ちゃん!」とくっ付かれ続けていたら……僕には自分の理性を抑える自信がなかった。
そして何より――。
彼女の、僕に全幅の信頼を置いたようなその態度は、僕から男としての矜恃を失わせそうで怖かったのだ。
あんなにうるさかった蝉時雨に、いつのまにかヒグラシのカナカナカナ……という切ない声が混ざり始めていたことに、僕は境内に入るまで気づかなかった。
(マジで一杯一杯だ……)
そう、自覚する。
境内に入ってしまえば、人目をはばかる必要がほとんどない。
神域全体がこんもりとした杜に囲まれているので、程よく外部からの視線を遮ってもくれる。
「とりあえずここじゃ落ち着かないし……上行こう」
僕の問いかけに黙り込む葵咲ちゃんに、神社の石段を指さす。
声音こそとても穏やかに語りかけているけれど、彼女は僕の怒りを肌で感じ取っているはずだ。
有無を言わせず彼女を参道のほうへ押しやると、逃げられないよう数段後ろについて石段をのぼる。
下から彼女を見上げる形になるので、見るとはなしに葵咲ちゃんの臀部から爪先にかけての美しいラインに目がいった。
彼女が今日はいているのは黒のハイソックスだ。上部に、王冠のような刺繍がワンポイント入っている。ぼんやりと靴下を眺めていたら、下着は何色だろう?とか思ってしまった。
(重症だ……)
まぁ、僕は葵咲ちゃんに初めて会ったあの日から、彼女の全てを自分のものにしたいと恋焦がれてきたのだから無理もない。
彼女が高校生になるまではさすがにまずいと思って、ずっと気持ちを押し殺してきた。そればかりか、彼女が望むままのお兄ちゃん役にも徹したつもりだ。
葵咲ちゃんが高校生になったら、どんな手段を使ってでも僕を1人の男として自覚してもらう。
そう心に決めて、ある意味悶々と日々を過ごしていた。
そんな僕の思惑を知ってか知らずか、葵咲ちゃんは小学4年生になった夏辺りから、どこかよそよそしくなり始めた。
それを寂しく思うと同時に、ほんの少しだけありがたくもあり……。
もしも幼いころのテンションのまま、「お兄ちゃん!」とくっ付かれ続けていたら……僕には自分の理性を抑える自信がなかった。
そして何より――。
彼女の、僕に全幅の信頼を置いたようなその態度は、僕から男としての矜恃を失わせそうで怖かったのだ。
あんなにうるさかった蝉時雨に、いつのまにかヒグラシのカナカナカナ……という切ない声が混ざり始めていたことに、僕は境内に入るまで気づかなかった。
(マジで一杯一杯だ……)
そう、自覚する。
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