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■僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

幼なじみからの連絡1

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 小学校に上がる前、私は今住んでいる町からかなり離れた場所に住んでいた。

 私の小学校入学を機に、母方の祖母との同居を決めて、家族でこの町に移り住んできたのだ。
 私には、ここに越して来る前、前の町で随分親しくしていた女の子お友達がいた。

 学年は私よりひとつ上。でもお姉さん然としている感じは全然なくて、世間擦れしていないふわっとした感じの、とても不思議な空気を持つ女の子だった。
 私は彼女のことを「ひおちゃん」と呼び、彼女は私のことを「ききちゃん」と呼んで――。
 それは、大人になった今でも変わらない呼び方になっている。

***

『私ね、とうとうスマートフォンを買ったのですっ。なので、ききちゃん、ペンパルはやめて、メール友達になっていただきたいのですっ。いかがですか?』
 つい最近まで、携帯に全く興味を持たなかったひおちゃんが、ある日見たことのない携帯番号から電話をかけてきて、そんなことを言った。

「え? ひおちゃん、スマホ買ったの!?」

 彼女とは、ずっとずっと文通と、たまに宅電からかかってくる電話とで旧交を温め続けるものだと勝手に思い込んでいた私は、ひおちゃんの告白にすごく驚かされてしまった。
 現に私が引っ越してからの十数年、私たちはそうやってお友達で居続けたんだもの。
 まさかそれが変化する日がくるだなんて、思ってもみなかった。

 しかも、ガラケーをすっ飛ばしてスマホ。

 そういう、どこか予測不能でふわふわと地に足のつかない感じが、何となく彼女らしいな、と思えてしまって。

『じ、実は私、好きな人が出来たのですっ。その彼とお揃いのを買ってしまいましたっ』

 スマホを持ったというだけでも驚きだったのに、好きな人と同じ機種って……え!?

 確か彼女には物心つく前から親同士が決めた許婚いいなずけがいたはず。
 さては、その人とうまくいったってことなのかしら。
 そう思った私は、「好きな人って……許婚の健二さん?」と聞いたんだけど――。

 途端ひおちゃんはしゅんとしたように黙り込んでしまって。

 え? ちょっと待って、もしかして違う人?

『一目見た瞬間に恋に落ちしまうこと、物語のなかだけのことだと思っていたんですけど……本当にあるものなんですね。驚きなのですっ。……健二さんには……ちゃんと婚約を破棄していただきたいと申し上げるつもりでいます』

 ポツンと力なくつぶやかれた言葉が、私にはすごく意外だった。

 何となくだけど……ひおちゃんは敷かれたレールの上を何の疑いもなく歩いていくものだと思っていたから。

「そっか。ひおちゃんがそんな風にしてまで追いかけたい男性、私も興味津々だよ! うまくいったら、絶対、絶対、紹介してねっ! わ、私もっ……その時には今付き合ってる人、紹介するから」

 一通り、そんな他愛もない近況報告をしあって電話を切ったのが初夏の頃。

 まさかそれから半年も経たないうちに、ひおちゃんから入籍しました、と言われてしまうだなんて、その時の私は思いもしなかったのだ。
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