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■僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
信じて欲しい2
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***
「理人、大丈夫?」
家に帰り着いて玄関を抜けたと同時に葵咲ちゃんに顔を覗き込まれた。
「え!? な、何がっ!?」
思わず押し倒したくなる衝動をグッと堪えられたのは、両手一杯に抱えた荷物のお陰だ。
葵咲ちゃんの可愛さにドキンッと心臓が跳ねたのに合わせて、手にした袋がガサッと揺れてバランスを崩す。
慌てて体勢を立て直したけれど、紙袋に入れていたお酒が壁にぶつかってガチャッと不穏な音を立てた。
どれも化粧箱に入られていたから大丈夫だと思うけど、ここまで来て割れました、とか勘弁して欲しい。
「ちょっ、理人っ、何でそんな驚くの」
僕の手からいくつか荷物を取り上げると、葵咲ちゃんが困った顔をする。
「だからタクシー降りた時に荷物少し持つよ?って言ったのに。全部ひとりで抱えちゃうから転びそうになるんだよ? ――私のこと、どれだけ力がないと思ってるの?」
言いながら葵咲ちゃんがぷぅっと頬を膨らませる。
ああ、どうやら先の「大丈夫?」は「そんなに一人で荷物を持って、大丈夫だったの?」らしい。
いや、率直に言わせてもらうと葵咲ちゃんが愛らしい顔で僕を覗き込んだりしなければ問題なかったさ。
そう思ったけど、拗ねている彼女も可愛いので言わずにおいた。
て言うか、同棲中の彼女に顔を覗き込まれたくらいであんなにときめいて、過剰反応したなんて知られるのも、恥ずかしいじゃないか。
僕が葵咲ちゃんを大好きなのは今更隠しようがないぐらいバレバレだけど……たまにはカッコ良いって思われたい。
僕、自分でも葵咲ちゃんに対して、常に全力でワンコさながらに尻尾振りまくってる自覚あるしね。
「キミに荷物を持たせるとか……僕が男として嫌だったんだよ、仕方ないだろ」
拗ねた葵咲ちゃんを真似して、いじけた振りをして見せる。
でも今言った言葉は本音だよ。
愛する彼女に重い荷物を持たせるなんて、僕は絶対嫌なんだ。
***
「理人は……いつも私に対して背伸びしてる気がする。私の呼び方だって……」
さっきの流れで葵咲ちゃんにポツンとつぶやかれて、僕は内心ドキッとする。
「……呼び方?」
動揺を悟られないよう気をつけながら彼女の言葉を拾ったけど、うまくできたか自信がない。
「理人、昔はずっと私のこと、“葵咲ちゃん”って呼んでたよね?」
僕の目をじっと見つめながら葵咲ちゃんに問いかけられて、僕は思わず土産の整理をするふりをして視線を逸らす。
「いつからだっけ? アナタが私のこと、ちゃん付けで呼ばなくなったのは……」
なんでいきなりっ。
とか頭の中グルグルしてるけど顔に出すわけにはいかない。
「ちゃん付けのほうが嬉しいの?」
努めて平坦な声で問いかけたつもりだけど、どうだろう。
「そういうわけじゃないけど……なんだか時々無理させてる気がして……違和感を覚えることがあるの」
葵咲ちゃんはわざわざ僕のそばまで歩み寄ってくると、すぐ横にしゃがみ込んだ。
「私、知ってるよ?」
袋から獺祭を1本ずつ取り出しては、酒蔵であらかじめつけてもらっていた個々の袋に入れ直す作業をしていた僕の手に、葵咲ちゃんの小さな手が重なる。
「――っ」
僕は思わず化粧箱を掴み損なってしまって。ほんの少しだけ持ち上がっていたお酒が床と触れ合ってゴン……と鈍い音を立てた。
「き、さき?」
恐る恐る彼女の名を呼んですぐ横の彼女を見詰めたら、アーモンドアイの大きな瞳でじっと見つめ返された。
「理人、大丈夫?」
家に帰り着いて玄関を抜けたと同時に葵咲ちゃんに顔を覗き込まれた。
「え!? な、何がっ!?」
思わず押し倒したくなる衝動をグッと堪えられたのは、両手一杯に抱えた荷物のお陰だ。
葵咲ちゃんの可愛さにドキンッと心臓が跳ねたのに合わせて、手にした袋がガサッと揺れてバランスを崩す。
慌てて体勢を立て直したけれど、紙袋に入れていたお酒が壁にぶつかってガチャッと不穏な音を立てた。
どれも化粧箱に入られていたから大丈夫だと思うけど、ここまで来て割れました、とか勘弁して欲しい。
「ちょっ、理人っ、何でそんな驚くの」
僕の手からいくつか荷物を取り上げると、葵咲ちゃんが困った顔をする。
「だからタクシー降りた時に荷物少し持つよ?って言ったのに。全部ひとりで抱えちゃうから転びそうになるんだよ? ――私のこと、どれだけ力がないと思ってるの?」
言いながら葵咲ちゃんがぷぅっと頬を膨らませる。
ああ、どうやら先の「大丈夫?」は「そんなに一人で荷物を持って、大丈夫だったの?」らしい。
いや、率直に言わせてもらうと葵咲ちゃんが愛らしい顔で僕を覗き込んだりしなければ問題なかったさ。
そう思ったけど、拗ねている彼女も可愛いので言わずにおいた。
て言うか、同棲中の彼女に顔を覗き込まれたくらいであんなにときめいて、過剰反応したなんて知られるのも、恥ずかしいじゃないか。
僕が葵咲ちゃんを大好きなのは今更隠しようがないぐらいバレバレだけど……たまにはカッコ良いって思われたい。
僕、自分でも葵咲ちゃんに対して、常に全力でワンコさながらに尻尾振りまくってる自覚あるしね。
「キミに荷物を持たせるとか……僕が男として嫌だったんだよ、仕方ないだろ」
拗ねた葵咲ちゃんを真似して、いじけた振りをして見せる。
でも今言った言葉は本音だよ。
愛する彼女に重い荷物を持たせるなんて、僕は絶対嫌なんだ。
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「理人は……いつも私に対して背伸びしてる気がする。私の呼び方だって……」
さっきの流れで葵咲ちゃんにポツンとつぶやかれて、僕は内心ドキッとする。
「……呼び方?」
動揺を悟られないよう気をつけながら彼女の言葉を拾ったけど、うまくできたか自信がない。
「理人、昔はずっと私のこと、“葵咲ちゃん”って呼んでたよね?」
僕の目をじっと見つめながら葵咲ちゃんに問いかけられて、僕は思わず土産の整理をするふりをして視線を逸らす。
「いつからだっけ? アナタが私のこと、ちゃん付けで呼ばなくなったのは……」
なんでいきなりっ。
とか頭の中グルグルしてるけど顔に出すわけにはいかない。
「ちゃん付けのほうが嬉しいの?」
努めて平坦な声で問いかけたつもりだけど、どうだろう。
「そういうわけじゃないけど……なんだか時々無理させてる気がして……違和感を覚えることがあるの」
葵咲ちゃんはわざわざ僕のそばまで歩み寄ってくると、すぐ横にしゃがみ込んだ。
「私、知ってるよ?」
袋から獺祭を1本ずつ取り出しては、酒蔵であらかじめつけてもらっていた個々の袋に入れ直す作業をしていた僕の手に、葵咲ちゃんの小さな手が重なる。
「――っ」
僕は思わず化粧箱を掴み損なってしまって。ほんの少しだけ持ち上がっていたお酒が床と触れ合ってゴン……と鈍い音を立てた。
「き、さき?」
恐る恐る彼女の名を呼んですぐ横の彼女を見詰めたら、アーモンドアイの大きな瞳でじっと見つめ返された。
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