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■『嘘つき天気予報』■オマケ的短編⑩
身体冷えてるね
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「待ってて」
断腸の思いで葵咲ちゃんから視線を引き剥がした僕は、もう一度脱衣所に向かう。
そうして新たに大きめのバスタオルを1枚手に取ると、玄関に舞い戻った。
「葵咲、準備完了だよ」
葵咲ちゃんと自分との間にシールドを張るように大きくバスタオルを広げると、僕は彼女にそう呼びかける。
「り、ひと?」
僕の言葉の真意を測りかねた葵咲ちゃんが、戸惑いを露わにした声音で僕の名を呼んだ。
「そこで服、全部抜いじゃおっか」
途端、バスタオルの向こうから葵咲ちゃんが「えっ」とつぶやく。
そりゃそうだよね。
いきなり全部脱げ、だもん。
「ほら。僕はバスタオルでキミのことは見えないから大丈夫。恥ずかしくないだろ?」
言ってもなお動こうとしない葵咲ちゃんに、
「そんなにびしょ濡れの服、タオルが何枚あっても足りないよ? 服はいっそ脱ぎ捨てて、裸でお風呂に行ったほうが早いって」
いくら夏とは言え、びしょ濡れの服を着たままの葵咲ちゃんを、長いこと放置しておきたくない。
「ほら、さっさとしないと僕が脱がしちゃうぞっ?」
わざとバスタオルをバサバサ振って、葵咲ちゃんを煽る。
「ぜ、絶対に……見ない?」
バスタオルの向こう、葵咲ちゃんが恐る恐る立ち上がる気配がした。
「約束する」
――とりあえず、今は……ね。
心の中でずる賢くそう付け足すと、僕は葵咲ちゃんに見えないのをいいことに、口の端を笑みの形に引き上げた。
ややして、そろそろと濡れた衣服を脱ぐ、重たい音がし始めて。
「脱いだ服はさっき僕が渡したタオルに包んで持つといいよ」
言って、「おいで」とバスタオルを揺らしてその中に彼女の柔らかな肢体が入ってくるのを待つ。
「み、見ちゃダメだからね!?」
言いながら、葵咲ちゃんが僕の腕の中に収まったのを感じて、ふわりとタオルで彼女の身体をくるむ。
そんなに警戒しなくても、キミの身体は葵咲ちゃんには見えないような位置にあるホクロに至るまで、隅々まで知り尽くしているのに。
ギュッとバスタオルで葵咲ちゃんの身体を包み込みながら、思わずククッと声が漏れた。
「理人?」
腕の中、葵咲ちゃんが僕を見上げて怪訝そうな顔をしてきたけれど、僕はあえてそれには答えず、葵咲ちゃんを簀巻きにしてお姫様抱っこの要領で抱き上げる。
「きゃっ」
途端、葵咲ちゃんの可愛い悲鳴が上がって、僕はどうしようもなく彼女に対する愛しさが込み上げるんだ。
「そんなに煽らないで? 僕、いま、結構ギリギリのところで踏みとどまってるんだよ?」
濡れた髪の毛越し、葵咲ちゃんのおでこに口づけを落とすと、やっぱり体がびしょ濡れだからだろうか。
葵咲ちゃんのおでこはひんやりと冷たかった。
「身体、冷たくなってるね。早くお風呂で温めないと」
断腸の思いで葵咲ちゃんから視線を引き剥がした僕は、もう一度脱衣所に向かう。
そうして新たに大きめのバスタオルを1枚手に取ると、玄関に舞い戻った。
「葵咲、準備完了だよ」
葵咲ちゃんと自分との間にシールドを張るように大きくバスタオルを広げると、僕は彼女にそう呼びかける。
「り、ひと?」
僕の言葉の真意を測りかねた葵咲ちゃんが、戸惑いを露わにした声音で僕の名を呼んだ。
「そこで服、全部抜いじゃおっか」
途端、バスタオルの向こうから葵咲ちゃんが「えっ」とつぶやく。
そりゃそうだよね。
いきなり全部脱げ、だもん。
「ほら。僕はバスタオルでキミのことは見えないから大丈夫。恥ずかしくないだろ?」
言ってもなお動こうとしない葵咲ちゃんに、
「そんなにびしょ濡れの服、タオルが何枚あっても足りないよ? 服はいっそ脱ぎ捨てて、裸でお風呂に行ったほうが早いって」
いくら夏とは言え、びしょ濡れの服を着たままの葵咲ちゃんを、長いこと放置しておきたくない。
「ほら、さっさとしないと僕が脱がしちゃうぞっ?」
わざとバスタオルをバサバサ振って、葵咲ちゃんを煽る。
「ぜ、絶対に……見ない?」
バスタオルの向こう、葵咲ちゃんが恐る恐る立ち上がる気配がした。
「約束する」
――とりあえず、今は……ね。
心の中でずる賢くそう付け足すと、僕は葵咲ちゃんに見えないのをいいことに、口の端を笑みの形に引き上げた。
ややして、そろそろと濡れた衣服を脱ぐ、重たい音がし始めて。
「脱いだ服はさっき僕が渡したタオルに包んで持つといいよ」
言って、「おいで」とバスタオルを揺らしてその中に彼女の柔らかな肢体が入ってくるのを待つ。
「み、見ちゃダメだからね!?」
言いながら、葵咲ちゃんが僕の腕の中に収まったのを感じて、ふわりとタオルで彼女の身体をくるむ。
そんなに警戒しなくても、キミの身体は葵咲ちゃんには見えないような位置にあるホクロに至るまで、隅々まで知り尽くしているのに。
ギュッとバスタオルで葵咲ちゃんの身体を包み込みながら、思わずククッと声が漏れた。
「理人?」
腕の中、葵咲ちゃんが僕を見上げて怪訝そうな顔をしてきたけれど、僕はあえてそれには答えず、葵咲ちゃんを簀巻きにしてお姫様抱っこの要領で抱き上げる。
「きゃっ」
途端、葵咲ちゃんの可愛い悲鳴が上がって、僕はどうしようもなく彼女に対する愛しさが込み上げるんだ。
「そんなに煽らないで? 僕、いま、結構ギリギリのところで踏みとどまってるんだよ?」
濡れた髪の毛越し、葵咲ちゃんのおでこに口づけを落とすと、やっぱり体がびしょ濡れだからだろうか。
葵咲ちゃんのおでこはひんやりと冷たかった。
「身体、冷たくなってるね。早くお風呂で温めないと」
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