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3.家なき子
千崎さんに叱られちゃう!
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先程、細波は芽生の感情なんてお構いなしに自分の言いたいことばかりをぶつけてきた。対して京介は口調こそ荒っぽいけれど、いつもこんな風に芽生の気持ちを一番に汲んだ対応をしてくれる。そういうところが好きで好きでたまらないと実感させられて、緊急事態だというのに胸がキュンと高鳴った。
***
「千崎、悪ぃーんだけどな、細波を安全なところまで送り届けてやってくんねぇか」
京介の腕の中で聞く大好きな人の声は、押し付けたままのおでこを伝わって、幽かな振動とともに芽生の中へじんわりと伝わってくる。
芽生を抱きしめたまま京介が告げた言葉に、「かしこまりました」と落ち着いた声音が返って、芽生は(あれ? 京ちゃん、誰と話してるの?)と今更ながらに思う。
そこでやっと京介が今言った言葉をぼんやりした頭の中でコロコロと転がして、ややして「千崎さっ!?」と相手の名に思い至るなり慌てて京介から離れようとした。
パニック状態のせいで京介しか見えていなかったけれど、今の感じからすると自分たちのすぐそばにはいつも京介を補佐している秘書のような存在の千崎雄二が控えていて、芽生が泣きじゃくりながらわけの分からないことを京介に訴えて縋りついている様も、しっかり見られていたということではないだろうか?
千崎の年齢は恐らく京介より十以上は上だ。だからかも知れないが、仕えているはずの京介のことも、しょっちゅう歯に衣着せぬ物言いで窘めているのを見かけるし、それはしばしば芽生に対する京介の言動に対しても発動される。孤児の芽生には経験がないけれど、お父さんがいたらきっとこんな感じなんだろうな? と思う反面、芽生はそんな千崎のことがちょっぴり怖かったりもする。
そんなこともあって、(このままではまた京ちゃんが千崎さんに叱られちゃう!)と気が付いて、京介から慌てて離れようとした芽生だったのだけれど、背中に添えられた京介の手が何故かそれを許してくれない。
「あ、あの、京ちゃ……?」
仕方なく京介の腕の中でもじもじと身じろぎながら彼を見上げたら、「バカ娘。足、まだふらついてんだろーが。遠慮せず俺に引っ付いとけ」と保護者の顔で言い切られてしまう。
こういう過保護モードな状態に入った時の京介は、何を言っても聞いてくれないのだ。
長い付き合いでそれを知っている芽生は、京介と密着しているのをいいことに心の中で千崎に『ごめんなさい』と謝りながら、京介から離れるのを早々に諦めた。だってこうやって京介の胸元に顔を埋めていれば、千崎の怖い顔を見なくても済むのだから。
千崎が「放せよ! 僕は一人で帰れる!」と抵抗する細波を数人掛かりで連れ去る気配が遠ざかると、
「子ヤギ、ちぃーとしんどいかも知んねぇが、消防の方へ説明できるか?」
京介が芽生を見下ろしてそう問いかけてきた。
***
「千崎、悪ぃーんだけどな、細波を安全なところまで送り届けてやってくんねぇか」
京介の腕の中で聞く大好きな人の声は、押し付けたままのおでこを伝わって、幽かな振動とともに芽生の中へじんわりと伝わってくる。
芽生を抱きしめたまま京介が告げた言葉に、「かしこまりました」と落ち着いた声音が返って、芽生は(あれ? 京ちゃん、誰と話してるの?)と今更ながらに思う。
そこでやっと京介が今言った言葉をぼんやりした頭の中でコロコロと転がして、ややして「千崎さっ!?」と相手の名に思い至るなり慌てて京介から離れようとした。
パニック状態のせいで京介しか見えていなかったけれど、今の感じからすると自分たちのすぐそばにはいつも京介を補佐している秘書のような存在の千崎雄二が控えていて、芽生が泣きじゃくりながらわけの分からないことを京介に訴えて縋りついている様も、しっかり見られていたということではないだろうか?
千崎の年齢は恐らく京介より十以上は上だ。だからかも知れないが、仕えているはずの京介のことも、しょっちゅう歯に衣着せぬ物言いで窘めているのを見かけるし、それはしばしば芽生に対する京介の言動に対しても発動される。孤児の芽生には経験がないけれど、お父さんがいたらきっとこんな感じなんだろうな? と思う反面、芽生はそんな千崎のことがちょっぴり怖かったりもする。
そんなこともあって、(このままではまた京ちゃんが千崎さんに叱られちゃう!)と気が付いて、京介から慌てて離れようとした芽生だったのだけれど、背中に添えられた京介の手が何故かそれを許してくれない。
「あ、あの、京ちゃ……?」
仕方なく京介の腕の中でもじもじと身じろぎながら彼を見上げたら、「バカ娘。足、まだふらついてんだろーが。遠慮せず俺に引っ付いとけ」と保護者の顔で言い切られてしまう。
こういう過保護モードな状態に入った時の京介は、何を言っても聞いてくれないのだ。
長い付き合いでそれを知っている芽生は、京介と密着しているのをいいことに心の中で千崎に『ごめんなさい』と謝りながら、京介から離れるのを早々に諦めた。だってこうやって京介の胸元に顔を埋めていれば、千崎の怖い顔を見なくても済むのだから。
千崎が「放せよ! 僕は一人で帰れる!」と抵抗する細波を数人掛かりで連れ去る気配が遠ざかると、
「子ヤギ、ちぃーとしんどいかも知んねぇが、消防の方へ説明できるか?」
京介が芽生を見下ろしてそう問いかけてきた。
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