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憂鬱な朝
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俺は音芽の返事も待たずにリビングまで行くと、玄関に立ち尽くしたままの彼女を振り返る。
「何してる、早く来い」
言えば、大きな瞳をさらに見開かれてしまった。
無理もないよな。
俺が音芽でも思うよ。
他に言うことあるんじゃないの?って。
仕草だけで俺の前の椅子に座ることをうながす俺に、音芽がソワソワと落ち着かない様子で視線を室内に泳がせる。
それを見て、いきなりアポなしで来て上がり込んじまったけど、ヤバイもの――下着とか――はねえよな?と今更のように心がざわついた。
でも、それを悟られるのは年上として恥ずかしいので努めて平常心を装ったのは言うまでもないだろう。
「もう、ハルに……っ、――温和、勝手すぎ」
こっちはこんなにもコイツのことを“女として”意識してるというのに。
いま音芽のやつ、絶対ハル兄って言いそうになった。
そう察知した途端、物凄くイラッとする。
鈍感にも程があんだよ、バカ音芽。
***
スカートなんだかズボンなんだかどっちつかずの服――スカンツとか言うらしい?――の生地を摘んで、たどたどしい足取りで俺のそばまで寄って来た音芽を見て、まさかな……と思う。
目線で椅子に座れと促して、本人の了承も得ずに裾をたくし上げたら、このバカ。
なんで傷口、剥き出しのままなんだよ!
「ひゃっ、ちょっ、なに勝手にっ」
音芽が真っ赤になりながら抗議してくるけど、知ったことか。
擦れたら痛いんです、とありありと臭わせる行動をとっておきながら、絆創膏すら貼ってねぇことに、開いた口が塞がらないんだけど?
「お前、絆創膏ぐらい貼っとけよ。なんでそのままなんだ」
そこまで言ってから、ハッとする。
「もしかして絆創膏すら買い置きしてないとか言わねぇよな?」
音芽は子供の頃から割とそういう面で抜けていたりする。
まさかと思って聞いたんだが、やはりビンゴだったようで。
通勤途中に買おうと思っていたとか……服に擦れて歩くのもままならないくせによく言えたな?
俺は、余りの無謀さに段々腹が立ってきた――。
口調こそ児童らに対する時のように兄貴モードで「お前には先見の明がない」とかもっともらしいことを言って説教した俺だったけれど、音芽の軽率な行動に対する怒りとは別に、彼女に対して申し訳ない気持ちが強かったのも事実。
告げたセリフは、そっくりそのまま自分に対するブーメランでもあるわけで。
「ごめんなさいっ」
なのに、そんな俺の言葉にしゅんとする音芽を見て、頼ってもらえなかったことに寂しさを覚えた俺は、やるに事欠いてその感情の矛先を音芽に向けてしまった。
「そもそも――こんな状態だったら歩くのもしんどいだろーが。何ですぐ、俺に言ってこなかった?」
自分のことを棚上げして、本当俺ってやつは。
ああ、認めるよ!
これは完全に八つ当たりだ
そうしてそれに対して音芽が「だって温和《はるまさ》……、昨夜」と言おうとしたのを、彼女の膝に消毒をしながら睨むように見上げて黙らせてしまったのも、どう考えても俺が悪い。
本当俺、何しに隣室へ来たのか、目的を忘れてねぇか?
少なくとも音芽を睨んで黙らせるために来たわけじゃねぇだろ?
「何してる、早く来い」
言えば、大きな瞳をさらに見開かれてしまった。
無理もないよな。
俺が音芽でも思うよ。
他に言うことあるんじゃないの?って。
仕草だけで俺の前の椅子に座ることをうながす俺に、音芽がソワソワと落ち着かない様子で視線を室内に泳がせる。
それを見て、いきなりアポなしで来て上がり込んじまったけど、ヤバイもの――下着とか――はねえよな?と今更のように心がざわついた。
でも、それを悟られるのは年上として恥ずかしいので努めて平常心を装ったのは言うまでもないだろう。
「もう、ハルに……っ、――温和、勝手すぎ」
こっちはこんなにもコイツのことを“女として”意識してるというのに。
いま音芽のやつ、絶対ハル兄って言いそうになった。
そう察知した途端、物凄くイラッとする。
鈍感にも程があんだよ、バカ音芽。
***
スカートなんだかズボンなんだかどっちつかずの服――スカンツとか言うらしい?――の生地を摘んで、たどたどしい足取りで俺のそばまで寄って来た音芽を見て、まさかな……と思う。
目線で椅子に座れと促して、本人の了承も得ずに裾をたくし上げたら、このバカ。
なんで傷口、剥き出しのままなんだよ!
「ひゃっ、ちょっ、なに勝手にっ」
音芽が真っ赤になりながら抗議してくるけど、知ったことか。
擦れたら痛いんです、とありありと臭わせる行動をとっておきながら、絆創膏すら貼ってねぇことに、開いた口が塞がらないんだけど?
「お前、絆創膏ぐらい貼っとけよ。なんでそのままなんだ」
そこまで言ってから、ハッとする。
「もしかして絆創膏すら買い置きしてないとか言わねぇよな?」
音芽は子供の頃から割とそういう面で抜けていたりする。
まさかと思って聞いたんだが、やはりビンゴだったようで。
通勤途中に買おうと思っていたとか……服に擦れて歩くのもままならないくせによく言えたな?
俺は、余りの無謀さに段々腹が立ってきた――。
口調こそ児童らに対する時のように兄貴モードで「お前には先見の明がない」とかもっともらしいことを言って説教した俺だったけれど、音芽の軽率な行動に対する怒りとは別に、彼女に対して申し訳ない気持ちが強かったのも事実。
告げたセリフは、そっくりそのまま自分に対するブーメランでもあるわけで。
「ごめんなさいっ」
なのに、そんな俺の言葉にしゅんとする音芽を見て、頼ってもらえなかったことに寂しさを覚えた俺は、やるに事欠いてその感情の矛先を音芽に向けてしまった。
「そもそも――こんな状態だったら歩くのもしんどいだろーが。何ですぐ、俺に言ってこなかった?」
自分のことを棚上げして、本当俺ってやつは。
ああ、認めるよ!
これは完全に八つ当たりだ
そうしてそれに対して音芽が「だって温和《はるまさ》……、昨夜」と言おうとしたのを、彼女の膝に消毒をしながら睨むように見上げて黙らせてしまったのも、どう考えても俺が悪い。
本当俺、何しに隣室へ来たのか、目的を忘れてねぇか?
少なくとも音芽を睨んで黙らせるために来たわけじゃねぇだろ?
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