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憂鬱な朝

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 うつむいたまま黙々と消毒を済ませてから、傷口に軽くガーゼを当ててネットタイプのカバーをかける。そうしながら、頭の中はフル回転だ。

 早く昨日のこと、謝らねぇと。

「ほら、出来たぞ。立って歩いてみろ」

 言って、ふと見た音芽おとめの目元が潤んでいるような気がしたのは気のせいだろうか?
 俺が早く謝らないから、自分はないがしろにされてるとか思って泣きそうなんじゃないだろうか。何となく直感でそんな風に感じた俺は、気持ちばかりが焦る。

「あ、ありがとう、痛くなくなった」

 なのにまるでそれを俺に悟らせまいとでもするかのように礼を言って淡く微笑む音芽を見て、ズキン……と胸の奥が疼いた。

「嘘はつかなくていい。膝、腫れてんだろ」

 嘘はつくな、の部分は怪我に対してばかりの意味ではなかったんだが、音芽には額面通りの意味として伝わったみたいだ。

 打ち付けた痛みがあることを俺に隠しきれなかったことを恥じるみたいに、ソワソワする姿が健気でいじらしくて。

「あ、あのっ……」

 それを誤魔化そうと、何とか言いつのろうとする音芽を、俺は思わずさえぎるように止めてしまった。

「今日は車で送り迎えしてやる。支度したくが済んだらそこの壁、ノックしろ」

 俺の部屋側の壁を指差して、つっけんどんにそう告げる。

 心配だから送らせて欲しい。
 そう言えたら良いのに、俺はどこまでも素直じゃない。

 きっと俺の言い方がこんなだから、音芽が遠慮しようとするんだ。

「あ、でも……」

 申し訳なさを声ににじませた音芽に、本音では「そんな風に思うなよ。俺がそうしたいだけなんだから」と言って抱きしめてやりたかった。

 でも、ひねくれ者の俺は、そんな甘い言葉、口が裂けても言えないわけで。

 無言で立ち上がって……すれ違いざまに「昨日は悪かった」と、小声でつぶやくのが関の山とか、マジ、どんだけダメ男なんだよ!

 音芽がきょとんとして聞き返してくるのにさえ、再度謝罪を言うのが照れ臭くて、誤魔化すように「7時までには出られるようにしろよ」と不機嫌そうに言って、逃げるように音芽の部屋を後にした。

 ――昨夜はお前の気持ちも考えずに悪かったな。

 一番伝えたかった言葉は、ちゃんと音芽に届いただろうか?
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