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兄たちの制裁
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音芽を外に引き出した途端、グッと支えた腕に体重がかかってくる。
きっと恐怖から開放されて安堵した結果だろう。
俺は音芽がへたり込んでしまわないように彼女の腰に腕を回して支えると、
「音芽、もう大丈夫だから」
そう言って彼女を抱く腕にほんの少し力を込めた。
鶴見の前で、可愛い音芽を無様にしゃがみ込んだりさせてたまるかってんだ。
ここに来てやっと、背後に奏芽がのんびりと追いついてきた気配がしたけれど、今はそれどころじゃない。
「温、和……?」
音芽が俺の名前を呼んで安心したように身を委ねてきたのがどれだけ嬉しかったか。
それと同時に、音芽をこんな目に遭わせた鶴見に怒りがふつふつとこみ上げてくる。
「鶴見先生、これは一体どういうことですか?」
車内に残る鶴見を見下すように睨み付けて、自分でも分かるぐらい怒りを含んだ冷たい声で問いかけていた。
この声に俺の腕の中の音芽がおびえたらマズイ。
そう思った俺は、俺に抱かれてもなお、小刻みに震え続けている音芽をなだめるように、頭に手を載せて軽くぽんぽん……と撫でた。
子供の頃から、音芽が悲しんでいるときや取り乱しているときにはこんな風に頭を撫でてやると落ち着いてくれることを、俺は経験から知っている。
コレに関しては実兄の奏芽より俺の方が経験値が高いと豪語できる。何せ奏芽は大抵音芽を泣かせる側だったし、な。
鶴見のやつ、いきなり俺が現れたことに驚いたみたいに固まってやがる。けど、俺の可愛い音芽をこんな風に泣かせた罪はでかい。
きっちり落とし前つけさえてもらうからな? 覚悟しろよ?
「ぼ、僕は……ただ……音芽ちゃんに――」
ややして鶴見がしどろもどろに口を開いて。音芽のことを「鳥飼先生」ではなく、下の名前で呼んだことに青筋が浮きそうにイラッとさせられた。
こいつのことを名前で呼んでいいのはごく一部の限られた人間だけなんだよ。
そん中にお前は入ってねぇわ。
「こいつのこと、軽々しく下の名前で呼ばないでもらえますか?」
不機嫌さを隠さずそう言ったら、腕の中の音芽が一瞬ピクッと反応したのが分かった。
そういえばコイツも鶴見のこと下の名前で呼んでたよな。クソッ!
単なる職場の同僚なんだからお互いに「鶴見先生」、「鳥飼先生」で十分だろ。なに恋人みたいに下の名前で呼び合ってんだよ、バカ音芽。
そのことに気が付いた俺は、どうしても我慢できなくなって、音芽にも小声で「お前も大我さんとか言ってんじゃねぇよ」と吐き捨ててしまった。
抑え切れなくて言っちまったけど、結構嫉妬丸出しで恥ずかしいな、とすぐに気付いたけれど後の祭りで。
でもそんな俺に、可愛い音芽は
「ごめ、なさ……」
結構勝手な要求を突きつけたなって思ったのに、どこか嬉しそうに俺に謝ってきて……ばかりか大きくてうるうるした目で俺をじっと見上げるんだ。
ちょっ、お前、何だよ、その反応! 可愛すぎるだろ!
ヤバ、理性飛びそう!って思った俺を止めたのは、背後から投げかけられた奏芽ののほほんとした声だった。
きっと恐怖から開放されて安堵した結果だろう。
俺は音芽がへたり込んでしまわないように彼女の腰に腕を回して支えると、
「音芽、もう大丈夫だから」
そう言って彼女を抱く腕にほんの少し力を込めた。
鶴見の前で、可愛い音芽を無様にしゃがみ込んだりさせてたまるかってんだ。
ここに来てやっと、背後に奏芽がのんびりと追いついてきた気配がしたけれど、今はそれどころじゃない。
「温、和……?」
音芽が俺の名前を呼んで安心したように身を委ねてきたのがどれだけ嬉しかったか。
それと同時に、音芽をこんな目に遭わせた鶴見に怒りがふつふつとこみ上げてくる。
「鶴見先生、これは一体どういうことですか?」
車内に残る鶴見を見下すように睨み付けて、自分でも分かるぐらい怒りを含んだ冷たい声で問いかけていた。
この声に俺の腕の中の音芽がおびえたらマズイ。
そう思った俺は、俺に抱かれてもなお、小刻みに震え続けている音芽をなだめるように、頭に手を載せて軽くぽんぽん……と撫でた。
子供の頃から、音芽が悲しんでいるときや取り乱しているときにはこんな風に頭を撫でてやると落ち着いてくれることを、俺は経験から知っている。
コレに関しては実兄の奏芽より俺の方が経験値が高いと豪語できる。何せ奏芽は大抵音芽を泣かせる側だったし、な。
鶴見のやつ、いきなり俺が現れたことに驚いたみたいに固まってやがる。けど、俺の可愛い音芽をこんな風に泣かせた罪はでかい。
きっちり落とし前つけさえてもらうからな? 覚悟しろよ?
「ぼ、僕は……ただ……音芽ちゃんに――」
ややして鶴見がしどろもどろに口を開いて。音芽のことを「鳥飼先生」ではなく、下の名前で呼んだことに青筋が浮きそうにイラッとさせられた。
こいつのことを名前で呼んでいいのはごく一部の限られた人間だけなんだよ。
そん中にお前は入ってねぇわ。
「こいつのこと、軽々しく下の名前で呼ばないでもらえますか?」
不機嫌さを隠さずそう言ったら、腕の中の音芽が一瞬ピクッと反応したのが分かった。
そういえばコイツも鶴見のこと下の名前で呼んでたよな。クソッ!
単なる職場の同僚なんだからお互いに「鶴見先生」、「鳥飼先生」で十分だろ。なに恋人みたいに下の名前で呼び合ってんだよ、バカ音芽。
そのことに気が付いた俺は、どうしても我慢できなくなって、音芽にも小声で「お前も大我さんとか言ってんじゃねぇよ」と吐き捨ててしまった。
抑え切れなくて言っちまったけど、結構嫉妬丸出しで恥ずかしいな、とすぐに気付いたけれど後の祭りで。
でもそんな俺に、可愛い音芽は
「ごめ、なさ……」
結構勝手な要求を突きつけたなって思ったのに、どこか嬉しそうに俺に謝ってきて……ばかりか大きくてうるうるした目で俺をじっと見上げるんだ。
ちょっ、お前、何だよ、その反応! 可愛すぎるだろ!
ヤバ、理性飛びそう!って思った俺を止めたのは、背後から投げかけられた奏芽ののほほんとした声だった。
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