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兄たちの制裁

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音芽おとめのくせに、ずいぶん青春してんじゃん」

 呑気にも今頃追いついてきた奏芽かなめに、内心もっと焦れバカ兄貴、と思ってしまう。

 が、そんな実兄の声に、腕の中の音芽おとめがピクッと過剰なくらい大きく反応したのが分かって――。

奏芽かなめにい……」

 小さい頃からこのおとこにいじめられ続けてきた音芽は、奏芽に弱みを見せるのを極端に恐れるところがある。

 恐らく涙目で俺にしがみついている今の姿も、彼女にとってはそんな恥部のひとつなんだろう。

 奏芽の出現に慌てて俺から離れようと身みろいできて。

 すぐにでも俺の腕から逃れて自力で立とうとする音芽を、でも俺はそれが分かっていて尚、離したくないと思ってしまったんだ。

 ごめんな、音芽。
 お前が奏芽にどう思われようが、俺は正直知ったこっちゃねぇんだよ。
 それよりも。
 せっかく鶴見つるみから取り上げて腕の中に収めたお前を、離したくないという気持ちの方が勝ってる。
 こんなこと思ってるってバレたら、きっと自己中だって怒られちまうな。

 否定はしねぇよ。

 利己的な俺は、音芽がそれを望んでいないと重々分かっていながら、彼女を抱く腕に更に一層力を込める。

「ハルが面白いモン見れるから非番なら来いっていうから来てみたけど……久々にお前の泣き顔見られて兄ちゃん大満足だわー♡」

 バカ。このタイミングでそんなこと言って音芽おとめを煽るなよ。
 奏芽かなめが意地悪くそんな言葉を告げた途端、音芽が俺の腕の中でゾクリと身体を震わせた。

 奏芽。
 これ以上妹を動揺させてどうするよ?

 さすがにムカッとして音芽をギュッと抱きしめたまま奏芽を睨んだら、音芽には見えない角度でチロッと舌を出されてしまった。
 くそっ! 奏芽のやつ、やっぱ確信犯かよ!

「は、温和はるまさ……腕。一人で立てるから大丈夫よ?」
 ついに態度だけではらちがあかないと思ったのか、音芽が子犬のような目で俺を見つめてくる。

 ヤバイ、ほだされそうだけど……ここは無視、でいい、よ、な?

 必死に葛藤をする俺の心が理解出来ないわけではなかろうに、奏芽のやつがそんな俺を見ててククッと喉の奥で笑いを堪えながら
「音芽、しばらくそのまま大人しく抱かれといてやれって。でないとしょっちゅう泣きつかれて俺が困る」
 とか言ってきやがって。

 バカ! お前なに余計なこと言ってんだよ!

奏芽かなめ黙れ」

 そんな動揺を悟られないように低めの声で感情を表に出さないように牽制したつもりだけど、音芽に焦りがバレていないだろうか。

 腕の中の音芽が、俺と奏芽のやり取りにピクッと反応したのが分かって、俺は一人ソワソワと気持ちをざわつかせた。
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