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*ふたりの初めて

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 俺の照れ顔を見て嬉しそうに笑う音芽おとめを見ていたら、段々悔しくなってきた。

 このままこいつに情けないところを見せ続けるとか、すげぇ嫌なんだけど。

 そう思った俺は、
「――えらく余裕だな、音芽」
 小さく吐息を吐いて気持ちを切り替えると、次の瞬間にはスッと目をすがめて正面から音芽を射竦いすくめていた。

 俺は音芽が強く出られると怯むことを、長年の経験から知っている。
 案の定、急に強気に転じた俺に、ソワソワと瞳を泳がせて慌てる音芽が可愛くて、俺は顔には出さずに密かにほくそ笑む。

「はる、まさ……?」

 落ち着かなさそうに俺を見上げる潤んだ瞳を見下ろして、「お前さ、手をほどいたら俺に触ってくれるんじゃなかったのかよ?」って意地悪く聞いてやるんだ。

 言いながら、わざと冷めた目で彼女を見つめたら、音芽が小さく身体を震わせたのがわかった。

 外からは依然として地面を激しく叩く雨の音が聞こえてくる。

 その音をバックに、まるで蛇に睨まれたカエルよろしく俺から視線を外せずに固まっている音芽に、わざとキスを迫るみたいに顔を近付けた。
 その気配に、慌てたように彼女がぎゅっと目をつぶって。マジ、可愛すぎるだろ。

 小動物のような愛らしさを持つ音芽にそんな姿を見せられたんだからな? 加虐心が鎌首をもたげても仕方ないと思わないか?

 音芽おとめが俺からの口付けを待っているのを知っていて、わざと寸止めするように唇の手前で動きを止めた俺に、彼女が恐る恐る目を開けるんだ。

 俺はそれを見計ったように、わざとクスッと笑ってやった。

 すぐ目の前、吐息が絡み合うギリギリのラインで止まっている俺の顔を、潤んだ瞳で睨みつけてくる音芽が愛しくてたまらない。
 愛しすぎて泣かせてやりたくなるとか……小学生並みの思考回路だけど、音芽が相手だと俺はそんな男に成り下がるんだ。

 可愛い音芽に言うことを聞かせられたら、どんなに心地いいだろう。

 そう思ったら、無意識に音芽を試すみたいに、「次はお前からキスしろよ……」ってささやいていた――。

 それを言われた時の音芽の反応!

 ビクッと身体を小さく跳ねさせて、唇をぎゅっとひき結ぶその姿が俺の胸を鷲掴みにする。

 なんだよ、この可愛い生き物!

 そのくせ縋るように俺を見つめてくるその視線の色っぽさとのギャップが堪らなくて、俺は音芽から視線が外せなくなる。
 まるで、もっと虐めて欲しいとでも言いたげなその視線に囚われているのは、俺の方かもしれない。
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