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1章:歓迎会の夜はご用心
書きましゅ
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「私……課長と結婚しらいれす……! こんにゃ美味しいお酒飲み放題とか最高れしゅもん!」
あろうことか、目をキラキラさせた瑠璃香にギュッと手を握られたからたまらない。
「んぐっ!」
あまりに予想外のことに、晴永は思わず咳き込んだ。
そんな二人の様子に、織田が、してやったりと言わんばかりにくつくつと喉を鳴らす。
「……聞きましたか? 新沼さん」
「き、聞こえてる! 聞こえてるに決まってるだろ!」
顔が熱くなる。
理性がどんどん溶けていく。
「じゃあ……、彼女の気が変わらないうちにコレ。……はい、どうぞ」
ひらり。
織田が、自身のカバンの中から白い紙を差し出した。
「……な、んだ、これは……」
「婚姻届です。僕も狙ってる子がいましてね、いつかその子に書いてもらおうと思って……常に持ち歩いてるんです。今日の〝ちょっとしたお詫び〟に、新沼さんに差し上げます」
「で、でも俺がもらったら織田さんのが……」
「大丈夫ですよ。家にもいくつか置いてますし、なにより今時婚姻届なんて、ネットからも簡単にダウンロードできます。問題ありません」
悪びれもせず肩をすくめる織田の様子に、晴永は唖然とする。
「僕は欲しいものは必ず手に入れる策士なんですよ」
くすくす笑う織田に、明智が「策を弄するのも大概にしないと、策士策に溺れるって言うだろ?」と呆れ半分で溜め息をついた。
(こ、こんなもの渡されても俺はコレを小笹に書けとか言えんぞ!?)
本音では書いて欲しい。書いてもらえたら幸せだ。
けど、ヘタレな晴永にそんな度胸あるわけもなく――。
半ば諦めて、その紙片を折り畳もうとしたのだが――。
「婚姻届れしゅかぁ~? 書きましゅー♡」
「小笹!? 待て、落ち着け、今はお前酔ってて――」
「い~いじゃないれすかぁ~。ひょっとして課長、私のころ、嫌いなんれしゅか~?」
「きっ、嫌いなわけないだろ……! むしろ好きだ!」
晴永は瑠璃香の言葉に思わず本音を叫んでしまったのだが、必死すぎて本人は気付けていない。
隣で織田がくすくす笑い、明智が小さく拍手した。
「あ、ペン……」
瑠璃香は、晴永から紙片を奪ってみたものの、書くものがないことに気が付いて手を止めた。
「書くものならこれをどうぞ」
すかさず織田から高級そうな万年筆が差し出されて、晴永は戸惑った。
「ほら、早く」
小声で耳打ちされた晴永は慌ててそれを受け取って瑠璃香へ手渡した。
(ちょっ、いいのか? 酔っぱらった小笹相手に……こんな騙し討ちみたいな真似をして!)
思いはするが、何となく止めるのももったいない気がして、晴永はドキドキしながら瑠璃香の動向を見守った。
「ありあとぉーございましゅ」
瑠璃香は礼を述べながら、迷いなく万年筆を手に取り、キャップをしたまま紙に向かって……「あれぇ? 書けましぇん」と眉根を寄せる。
「フタ、取らねぇとダメだろ」
その様に思わず瑠璃香の手から万年筆をとると、キャップを外して渡してやってしまった晴永である。
その様子に、隣から織田が「これでもう、彼女が勝手に書いただけとは言えなくなりましたね」と囁いてくる。
「あ……」
瑠璃香が困っていたからつい助けてしまっただけの晴永だったのだが、言われてみれば教唆とも取られかねないことをしてしまっていた。
「無意識でしたか」
くすくすと笑う織田を晴永が睨んだら、「そういうのって本心からの行動ですから……もう腹をくくっちゃいましょう、新沼さん」とにっこり微笑まれる。晴永にはその笑顔が、極上の〝腹黒スマイル〟に見えた。
「んー。ちょっろ照明が暗くて書きにくかったれすけろ……分かる箇所は全部埋めました」
婚姻届の「妻になる者」の欄に名前などを書いたものを晴永のほうへスッと滑らせながら、瑠璃香がふにゃりと愛らしく笑う。
「課長もちゃんと書いれくらさいね?」
極めつけのようにポンポンと指先で「夫になる者」の欄を指し示された晴永は、「妻になる者」のところへ書かれた「小笹 瑠璃香」の文字に心臓が忙しなく脈打った。
情けないくらい震える手を鼓舞しながら自分の書くべき空欄を埋めていったら、瑠璃香が隣で「あっ」と頓狂な声を上げた。
(こ、今度はなんだ!?)
晴永がそう思ったと同時、「証人っれ二人もいりゅんれしゅね。う~ん……」
そこで少し悩んだ様子を見せてからぱぁっと瞳を輝かせてポンッと手を打つ。
「あにょ、マスタァ~と、しょこのスーチュ姿の人。ここに居合わせらのも何かの縁れしゅ。証人欄埋めてくだしゃ~い♡」
指差された二人は、顔を見合わせた。
「……わぁ、これは責任重大ですねぇ」
「でも袖触れ合うも他生の縁です。喜んで書きましょう。……でもその前に」
織田はにやりと笑うと、瑠璃香に向き直った。
「小笹さんは今、酔っていらっしゃるようです。せっかくご協力させていただいたのに『記憶にないです』ってなったら大変ですよね?」
「確かにぃ~」
きゃはきゃはと笑う瑠璃香に、織田はにっこり微笑むと
「では、証拠を残しておきましょう。――新沼さん」
言って、晴永を見つめてくる。
「な、なんだ?」
意味が分からなくて困惑する晴永に、織田は
「スマホ。お持ちでしょう? それで小笹さんの言葉を録画するんです。いいですか?」
と、とんでもない提案を投げかけてくる。
「け、けど……さすがにそれは」
「小笹さんを他の男に奪われてもいいんですか?」
「そ、それはダメだ!」
「でしたら――」
こんな風にして、ワンナイトの翌朝、晴永は記憶をスッカリなくした瑠璃香から、逃げ道を失くすための保険を手に入れたのだった。
婚姻届が――完成する。
晴永は震える指で、その紙を受け取った。
(……結婚届……小笹との……)
頭が真っ白になった。
そして、胸の奥が熱でパンパンになる。
そんな晴永の袖を、瑠璃香がくいっと引っ張る。
「課長ぉ……帰りましゅぅ……
けっこんちゅるんれしょ……?」
ふわりと笑うその顔が、反則的に可愛い。
(……ああもう、無理だ)
「……帰るぞ。小笹」
その声は低く、決意と熱をはらんでいた。
あろうことか、目をキラキラさせた瑠璃香にギュッと手を握られたからたまらない。
「んぐっ!」
あまりに予想外のことに、晴永は思わず咳き込んだ。
そんな二人の様子に、織田が、してやったりと言わんばかりにくつくつと喉を鳴らす。
「……聞きましたか? 新沼さん」
「き、聞こえてる! 聞こえてるに決まってるだろ!」
顔が熱くなる。
理性がどんどん溶けていく。
「じゃあ……、彼女の気が変わらないうちにコレ。……はい、どうぞ」
ひらり。
織田が、自身のカバンの中から白い紙を差し出した。
「……な、んだ、これは……」
「婚姻届です。僕も狙ってる子がいましてね、いつかその子に書いてもらおうと思って……常に持ち歩いてるんです。今日の〝ちょっとしたお詫び〟に、新沼さんに差し上げます」
「で、でも俺がもらったら織田さんのが……」
「大丈夫ですよ。家にもいくつか置いてますし、なにより今時婚姻届なんて、ネットからも簡単にダウンロードできます。問題ありません」
悪びれもせず肩をすくめる織田の様子に、晴永は唖然とする。
「僕は欲しいものは必ず手に入れる策士なんですよ」
くすくす笑う織田に、明智が「策を弄するのも大概にしないと、策士策に溺れるって言うだろ?」と呆れ半分で溜め息をついた。
(こ、こんなもの渡されても俺はコレを小笹に書けとか言えんぞ!?)
本音では書いて欲しい。書いてもらえたら幸せだ。
けど、ヘタレな晴永にそんな度胸あるわけもなく――。
半ば諦めて、その紙片を折り畳もうとしたのだが――。
「婚姻届れしゅかぁ~? 書きましゅー♡」
「小笹!? 待て、落ち着け、今はお前酔ってて――」
「い~いじゃないれすかぁ~。ひょっとして課長、私のころ、嫌いなんれしゅか~?」
「きっ、嫌いなわけないだろ……! むしろ好きだ!」
晴永は瑠璃香の言葉に思わず本音を叫んでしまったのだが、必死すぎて本人は気付けていない。
隣で織田がくすくす笑い、明智が小さく拍手した。
「あ、ペン……」
瑠璃香は、晴永から紙片を奪ってみたものの、書くものがないことに気が付いて手を止めた。
「書くものならこれをどうぞ」
すかさず織田から高級そうな万年筆が差し出されて、晴永は戸惑った。
「ほら、早く」
小声で耳打ちされた晴永は慌ててそれを受け取って瑠璃香へ手渡した。
(ちょっ、いいのか? 酔っぱらった小笹相手に……こんな騙し討ちみたいな真似をして!)
思いはするが、何となく止めるのももったいない気がして、晴永はドキドキしながら瑠璃香の動向を見守った。
「ありあとぉーございましゅ」
瑠璃香は礼を述べながら、迷いなく万年筆を手に取り、キャップをしたまま紙に向かって……「あれぇ? 書けましぇん」と眉根を寄せる。
「フタ、取らねぇとダメだろ」
その様に思わず瑠璃香の手から万年筆をとると、キャップを外して渡してやってしまった晴永である。
その様子に、隣から織田が「これでもう、彼女が勝手に書いただけとは言えなくなりましたね」と囁いてくる。
「あ……」
瑠璃香が困っていたからつい助けてしまっただけの晴永だったのだが、言われてみれば教唆とも取られかねないことをしてしまっていた。
「無意識でしたか」
くすくすと笑う織田を晴永が睨んだら、「そういうのって本心からの行動ですから……もう腹をくくっちゃいましょう、新沼さん」とにっこり微笑まれる。晴永にはその笑顔が、極上の〝腹黒スマイル〟に見えた。
「んー。ちょっろ照明が暗くて書きにくかったれすけろ……分かる箇所は全部埋めました」
婚姻届の「妻になる者」の欄に名前などを書いたものを晴永のほうへスッと滑らせながら、瑠璃香がふにゃりと愛らしく笑う。
「課長もちゃんと書いれくらさいね?」
極めつけのようにポンポンと指先で「夫になる者」の欄を指し示された晴永は、「妻になる者」のところへ書かれた「小笹 瑠璃香」の文字に心臓が忙しなく脈打った。
情けないくらい震える手を鼓舞しながら自分の書くべき空欄を埋めていったら、瑠璃香が隣で「あっ」と頓狂な声を上げた。
(こ、今度はなんだ!?)
晴永がそう思ったと同時、「証人っれ二人もいりゅんれしゅね。う~ん……」
そこで少し悩んだ様子を見せてからぱぁっと瞳を輝かせてポンッと手を打つ。
「あにょ、マスタァ~と、しょこのスーチュ姿の人。ここに居合わせらのも何かの縁れしゅ。証人欄埋めてくだしゃ~い♡」
指差された二人は、顔を見合わせた。
「……わぁ、これは責任重大ですねぇ」
「でも袖触れ合うも他生の縁です。喜んで書きましょう。……でもその前に」
織田はにやりと笑うと、瑠璃香に向き直った。
「小笹さんは今、酔っていらっしゃるようです。せっかくご協力させていただいたのに『記憶にないです』ってなったら大変ですよね?」
「確かにぃ~」
きゃはきゃはと笑う瑠璃香に、織田はにっこり微笑むと
「では、証拠を残しておきましょう。――新沼さん」
言って、晴永を見つめてくる。
「な、なんだ?」
意味が分からなくて困惑する晴永に、織田は
「スマホ。お持ちでしょう? それで小笹さんの言葉を録画するんです。いいですか?」
と、とんでもない提案を投げかけてくる。
「け、けど……さすがにそれは」
「小笹さんを他の男に奪われてもいいんですか?」
「そ、それはダメだ!」
「でしたら――」
こんな風にして、ワンナイトの翌朝、晴永は記憶をスッカリなくした瑠璃香から、逃げ道を失くすための保険を手に入れたのだった。
婚姻届が――完成する。
晴永は震える指で、その紙を受け取った。
(……結婚届……小笹との……)
頭が真っ白になった。
そして、胸の奥が熱でパンパンになる。
そんな晴永の袖を、瑠璃香がくいっと引っ張る。
「課長ぉ……帰りましゅぅ……
けっこんちゅるんれしょ……?」
ふわりと笑うその顔が、反則的に可愛い。
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