不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
66 / 136

悩みから数年後 2

しおりを挟む
 ヴァレンもミゼアスも、声を発した見習いを見る。その子は唇を尖らせて不満げな様子だった。

「ヴァレン兄さんは、ミゼアス兄さんと手を繋いでいたんですか?」

「え? ああ、うん」

 鋭い口調で詰問され、ヴァレンは戸惑いがちに頷いた。

「ずるいです! 僕たちはミゼアス兄さんと手を繋いで買い物になんて、行ったことがありません」

「……そういえば、そうです。ずるいです」

「僕たちだって、ミゼアス兄さんと手を繋ぎたいです! 繋いでください!」

 見習い三人が口々に抗議してくる。

「……僕の手は三本もないよ」

 呆れたようにミゼアスが呟く。

「じゃあ、順番で! 二人ずつなら大丈夫ですよね」

「うん……」

 見習いたちの気迫に、ミゼアスもやや引き気味だ。

「よし、順番を決めよう」

「現在の貸し借り状況は?」

「えっと、確か……」

 見習いたちは三人で何やら話し合いを始めた。よくわからないが、とりあえず平和的に取り決めをしているようだ。放っておいてもよいだろう。

「……あー、大変ですね」

 ヴァレンは苦笑してミゼアスに声をかける。

「……きみのときは、きみにかかりっきりだったからね。でも、あのときのほうが大変だったよ」

 ミゼアスも苦笑して答える。

「それは申し訳ありません。それにしても、今は見習いの子たちと手を繋いでいないんですね」

「そうだね。きみは特別だったからね」

 意味ありげに笑うミゼアス。

「それってどういう意味か、聞いてもいいですか?」

 ヴァレンが尋ねると、ミゼアスが遠い目をして宙を仰いだ。

「……今の子たちは、突然消えて猫と一緒に鳥を捕まえようとしていたり、海が呼んでいると駆け出していってわけのわからない生き物を捕まえてきたりしないからね」

 疲れたような声でミゼアスは言葉を紡ぐ。
 まずいな、と思ってヴァレンは視線をそらした。

「きみと手を繋いでいたのは、逃走防止のためだよ。お腹が空けば帰ってくるとはいえ、あまり野放しにしていられなかったからね……」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】お飾り妻は諦める~旦那様、貴方を想うのはもうやめます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,215pt お気に入り:461

優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:129,682pt お気に入り:2,356

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,630pt お気に入り:111

【幕間追加】もう誰にも恋なんてしないと誓った

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,214pt お気に入り:3,330

婚約破棄した姉の代わりに俺が王子に嫁ぐわけですか?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:175

【完結】契約妻の小さな復讐

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,375pt お気に入り:5,878

猫が繋ぐ縁

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:189

聖女を愛する貴方とは一緒にいられません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:710pt お気に入り:2,434

処理中です...