不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

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見習いが増えた日 1

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「あんた、何やってんの? バカじゃない?」

 凍てつくようなミゼアスの声が響く。
 眉をひそめて蔑んだ眼差しを向ける先には、うなだれる男がいた。

「いや……わかっているんだ……」

 ぼそぼそと男は呟くが、ミゼアスの顔を見ることはできないようだ。

「見習いへの手出しはご法度だっていうことくらい、知っているよね」

「いや、手出しをしたわけじゃない。咥えてもらっただけだ」

 そこは譲れないというように男は答える。しかしミゼアスは眉間に更なる皺を刻んだだけだった。

「あんた、もう白花じゃないよね。今は何やってるの?」

「教師です」

「教師が教え子に咥えさせるって、どういうこと?」

「……面目ない」

 男はさらにうなだれ、か細い声で答える。

「だが、凄い嬉しそうに咥えて美味そうに飲んだんだ。仕事でもないのにあんな顔をするなんて、あの子は絶対俺に惚れている。身請けしたい。金を貸してくれ。無期限無利息で」

「……もう、どこから突っ込んでいいかわからないね」

 怒りを通り越し、いっそ笑える気分になってくる。ミゼアスは乾いた笑いを浮かべた。
 この男は、元白花である。ミゼアスと同期だったが、今は借金も返し終え、教師として働いているのだ。
 白花は十八歳を過ぎれば賞味期限切れといわれる。そうなれば女相手に宗旨替えをするのが一般的だ。中にはそのまま男相手を続ける者もいるが、需要が減るため大体は格下げとなる。
 それとは別に借金を返し終え、身売りを辞めても島に残る者もいる。商売を始めたり、教師となったりと様々だが、島で働き続ける者も珍しくはない。この男もその一人だった。
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