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19.意外

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「おそらくいやらしい想像をしているだろうところ申し訳ありませんが、今日は床入りまでしないと思います。花月琴の演奏だけで終わるのではないかと思います」

 淡々とした声でアルンが言う。

「花月琴?」

「ミゼアス兄さんは花月琴の名手です。演奏だけ聴きにくるお客様もいらっしゃいます」

「あ……そうなんだ……」

 あっけにとられたようなアデルジェスを見て、アルンは軽く眉をしかめる。

「ミゼアス兄さんについて何か誤解しているようにお見受けします。もしかして、いやらしいことをすることだけがミゼアス兄さんのお仕事だと思っていませんか?」

「え……いや、その……」

 アルンの鋭い視線に射抜かれ、アデルジェスはたじろいだ。

「ミゼアス兄さんは、現在五人しかいない五花の一人です。五花には色々条件がありますが、簡単に言えば相当高い知性と教養が必要とされます。馬鹿だと高貴な方のお話し相手は務まりません。そこにある本、ミゼアス兄さんなら大体暗唱できます」

 そう言って、分厚い本がぎっしりと積み込まれた本棚を指す。
 見ただけで頭が痛くなりそうだった。馬鹿というほどではないが、取り立てて勉強が得意なわけではないアデルジェスには信じられなかった。

「楽器の演奏も絶対条件です。特に花月琴は必須の楽器です。ミゼアス兄さんは楽器全般に優れていますが、花月琴の演奏にかけては並ぶ者がいないほどです」

 他にも、とアルンは延々とミゼアスの知性と教養がいかに素晴らしいかを語り続ける。

 それをどこか信じられない面持ちでアデルジェスは聞いていた。ミゼアスと話をしたときの様子を思い返せば、落ち着きはあったし賢そうでもあった。
 しかし主な語り手が自分だったこともあってか、今熱を込めてアルンが語っているようなものは披露してもらえなかった。
 早々に押し倒されたことのほうが印象に強い。

「それにミゼアス兄さんは床入りまですることが少ない方です。特に初会ではまずしません。さっさと切り上げて、『眠いから寝る』なんて言っちゃう方です」

「いや……それはどうかと……」

「いいんです、ミゼアス兄さんはそれが許されるんです。『昼寝の最中に客が来ても起こすな、待たせておけ』なんて言っちゃう方ですけれど、誰も文句を言えません。人生の一番の楽しみは寝ることで、二番目がお風呂、三番目が食べることと公言している方ですから」

「…………」

 知性と教養はともかく、性格はあまりよろしくないらしい。
 しかしなかなか床入りしないというのは、先ほどの実に素早い展開を考えると信じがたかった。むしろそういうことは好きそうに思える。
 ただ、こういう世界なので、駆け引きといったものがあるのかもしれない。
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