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20.生々しい体温
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ステファニアは早めに夕食をすませると、湯浴みをした。湯上りに花びらを浮かべた茶を飲みながら、リナに香油を塗ってもらう。あとは寝衣を纏えば、リナに手伝ってもらう就寝準備は終わりだ。
ところが、されるがままになっていたステファニアは、下穿きの硬さと冷たさにびくりと身を震わせる。
「な……なに……?」
何事かと目を向ければ、リナが黒っぽい何かの上に、素早く絹の下穿きを重ねているところだった。絹の下穿きは、いつも身につけているものだが、その下に見知らぬ何かがある。
「……窮屈でしょうけれど、朝までの辛抱でございます。どうか、我慢なさってください。それと、くれぐれもご自分で深く触れませんように」
下穿きを整えながら、リナが静かに答えた。わけがわからず、ステファニアはさらに問いただそうとするが、見上げてくるリナの目を見て、息を飲む。
苦痛と憐憫が入り混じりながらも決意をこめた、覚悟の目だった。
ステファニアはその目に射すくめられたかのように身じろぎすらできなくなり、それ以上何かを言うことはできなかった。ただ、淡々と支度が進んでいく。
寝衣を整え終わり、ステファニアが寝台に入るまで、沈黙は続いた。
「……それでは、おやすみなさいませ」
リナが一礼して、去っていく。
一人になると、ステファニアはようやく呼吸ができるようになったかのごとく、大きな息を吐き出した。
何が起こっているのかわからないが、リナの態度は尋常ではなかった。ステファニアの知らないところで、何かが進んでいるようだ。
それに……と、ステファニアはそっと下穿きに触れてみる。
今はステファニアの体温と馴染んだのか、最初の冷たさは和らいでいた。しかし、絹の下穿きの上からでもわかる硬さはそのままで、指に伝わる無機質な感覚が、ステファニアの疑問に答える気はないとはねつけているようでもあった。
もう一度、深く息を吐き出しながら、ステファニアはふと甘い香りが鼻をかすめたことに気づく。
寝台の横に置かれたテーブルの上に、大輪の薔薇が飾られていた。紅色の花弁が幾重にも重なり、自分を見ろと主張しているような艶やかで気位の高そうな薔薇だ。
ふとドロテアのことを思い出し、ステファニアはくすりと笑う。ドロテアも母の見舞いのために里帰りしていたのだから、思わぬところに共通点があるものだと、少しだけ気分が和らぐ。
甘く芳醇な香りは、ステファニアの心をほぐしてくれるようだ。
早めに寝台に入ったのだが、心が安らいできたためか、ステファニアはだんだんと眠たくなってきた。このまま眠ってしまおうと、ステファニアは目を閉じる。
やがて、ステファニアの意識は夢の中へと引き込まれていった。
どれくらい経ったのか、暗闇の中でぼんやりとステファニアの意識が浮上してくる。
頭はぼんやりとして、瞼は重たくて持ち上げることができない。夢なのか現実なのかも定かではない、夢うつつの状態だ。
ところが、ステファニアのすぐ側で、別の息遣いが聞こえてくるようだった。
「ステファニア……」
低く、名を呼ぶ声まで聞こえてくる。
いつものように、ゴドフレードが横に寝ているのだろうと、ステファニアはたいして気にも留めず、再び夢の世界に戻ろうとする。ここがどこであるか、どういう状況であるかなど、覚醒していない頭では考えることができなかった。
ところが、影がステファニアに覆いかぶさるような圧迫感が襲ってくる。
さすがにいつもとは違うとステファニアは疑問を覚えるが、それ以上を考えるほど頭が働かない。この出来事自体が夢なのだろうとすら考える。
しかし、夢にしては生々しい体温がステファニアに触れ、ステファニアの寝衣の中へと侵入してきた。
ところが、されるがままになっていたステファニアは、下穿きの硬さと冷たさにびくりと身を震わせる。
「な……なに……?」
何事かと目を向ければ、リナが黒っぽい何かの上に、素早く絹の下穿きを重ねているところだった。絹の下穿きは、いつも身につけているものだが、その下に見知らぬ何かがある。
「……窮屈でしょうけれど、朝までの辛抱でございます。どうか、我慢なさってください。それと、くれぐれもご自分で深く触れませんように」
下穿きを整えながら、リナが静かに答えた。わけがわからず、ステファニアはさらに問いただそうとするが、見上げてくるリナの目を見て、息を飲む。
苦痛と憐憫が入り混じりながらも決意をこめた、覚悟の目だった。
ステファニアはその目に射すくめられたかのように身じろぎすらできなくなり、それ以上何かを言うことはできなかった。ただ、淡々と支度が進んでいく。
寝衣を整え終わり、ステファニアが寝台に入るまで、沈黙は続いた。
「……それでは、おやすみなさいませ」
リナが一礼して、去っていく。
一人になると、ステファニアはようやく呼吸ができるようになったかのごとく、大きな息を吐き出した。
何が起こっているのかわからないが、リナの態度は尋常ではなかった。ステファニアの知らないところで、何かが進んでいるようだ。
それに……と、ステファニアはそっと下穿きに触れてみる。
今はステファニアの体温と馴染んだのか、最初の冷たさは和らいでいた。しかし、絹の下穿きの上からでもわかる硬さはそのままで、指に伝わる無機質な感覚が、ステファニアの疑問に答える気はないとはねつけているようでもあった。
もう一度、深く息を吐き出しながら、ステファニアはふと甘い香りが鼻をかすめたことに気づく。
寝台の横に置かれたテーブルの上に、大輪の薔薇が飾られていた。紅色の花弁が幾重にも重なり、自分を見ろと主張しているような艶やかで気位の高そうな薔薇だ。
ふとドロテアのことを思い出し、ステファニアはくすりと笑う。ドロテアも母の見舞いのために里帰りしていたのだから、思わぬところに共通点があるものだと、少しだけ気分が和らぐ。
甘く芳醇な香りは、ステファニアの心をほぐしてくれるようだ。
早めに寝台に入ったのだが、心が安らいできたためか、ステファニアはだんだんと眠たくなってきた。このまま眠ってしまおうと、ステファニアは目を閉じる。
やがて、ステファニアの意識は夢の中へと引き込まれていった。
どれくらい経ったのか、暗闇の中でぼんやりとステファニアの意識が浮上してくる。
頭はぼんやりとして、瞼は重たくて持ち上げることができない。夢なのか現実なのかも定かではない、夢うつつの状態だ。
ところが、ステファニアのすぐ側で、別の息遣いが聞こえてくるようだった。
「ステファニア……」
低く、名を呼ぶ声まで聞こえてくる。
いつものように、ゴドフレードが横に寝ているのだろうと、ステファニアはたいして気にも留めず、再び夢の世界に戻ろうとする。ここがどこであるか、どういう状況であるかなど、覚醒していない頭では考えることができなかった。
ところが、影がステファニアに覆いかぶさるような圧迫感が襲ってくる。
さすがにいつもとは違うとステファニアは疑問を覚えるが、それ以上を考えるほど頭が働かない。この出来事自体が夢なのだろうとすら考える。
しかし、夢にしては生々しい体温がステファニアに触れ、ステファニアの寝衣の中へと侵入してきた。
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