純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花

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59.悲痛な誓い

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「……わかった。ただ、ひとつだけ約束してくれ」

「何?」

 首を傾げてステファニアがアドリアンを見つめると、彼はまっすぐに見つめ返してくる。

「もし、途中で見つかったり捕まったりした場合、俺のことは見捨ててくれ。俺がサラを攫ったことにして、サラはただの被害者だということにするんだ」

「えっ!? ……ど……どうして……」

 思わず大声を出しそうになり、ステファニアは口元を手で覆う。
 アドリアンを見捨てるなど、できるはずがない。それくらいならば、自分も一緒に罪人として処刑台に立つ。
 しかしステファニアの思いを見抜いたように、アドリアンは薄く笑った。優しげな目をステファニアに向け、そっと腹を撫でる。

「……この子を、守ってくれ。もちろん俺も、そう簡単に捕まるつもりはない。でも、もしものときは俺にすべての罪を被せて、サラはこの子と生きるんだ。頼む」

「そ……そんな……」

 言葉につまり、ステファニアはぐっと唇を噛む。
 アドリアンの言うことは、確かにもっともだった。自分一人の命ならば、もしものときは迷わずステファニアも一緒に処刑台に立っただろう。
 しかし、今は自分一人の身体ではないのだ。
 小さな愛おしい命のことを考えれば、アドリアンの提案を受けざるを得ないだろう。それが一生、苦痛の茨を敷き詰めた道を歩むことになろうとも、愛しい男との子を守るのだ。

「……わ……わかった……わ……」

 ぼろぼろと涙をこぼしながら、ステファニアは頷く。
 そっと包み込むように、アドリアンの腕がステファニアの身体に回された。

「……大丈夫、きっと無事に逃げられる。隣国で、庶民の夫婦として一緒に暮らそう」

「ええ、ええ……」

 しゃくりあげながら何度も首を縦に振り、ステファニアはアドリアンにしがみついた。
 アドリアンを見捨てるというのは、最悪の事態の話だ。ルチアとマルツィアが手助けしてくれている逃避行が、そう簡単に失敗するはずがない。きっと、うまくいくはずだと自らに言い聞かせ、ステファニアは涙を止めようとする。
 絡まった傀儡の糸から抜け出す、希望の道なのだ。それなのに、心は波立ち騒いで、どうしても涙がこぼれ続けてしまう。

 やがて、どちらからともなく互いの唇が重ねられる。
 かつて輝かしい将来を誓い合ったときと同じく、希望の道に進むための誓いの口づけだ。
 それなのに、胸に浮かぶのは温かい夢ではなく悲痛な覚悟で、涙の味がする口づけだった。
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