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第16話(箱舟の正体)

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「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
 ジジイのカミダーキックに吹っ飛ばされ、弾むように階段を落ちていった俺は、やがて意識を失いベクトルに成すがままにされてしまう。そして最後に階段の終点で俺の身体はもう一度跳ねて、妙な乗り物の中にスポッとはまる。フィットするようにはまったソレは、俺がはまった衝撃で、上から透明な蓋が落ちてきて、俺は閉じ込められてしまう。

「やっと大人しくなったか、このクソガキめ」
 ジジイがはき捨てるように言いながら、階段を下りてくる。当然意識を失っている俺はそんなの全く気がつかない。

「ふははははは。誘導する手間が省けたわぃ」
 ジジイは俺の現状を見ると暗い笑みを浮かべて笑い声を上げる。当然意識を失っている俺はそんなの全く気がつかないが。

「さてとじゃぁ赤の月レッドムーン射出台カタパルトの準備をしようかの。くふふふふ」
 ジジイは俺の現状を見ながら暗い笑い声を上げつつ、物騒なものを準備しようとする。当然意識を失っている俺はそんなの全く気がつかないけど!

「しかし、こいつに乗るのは相当ゴネると思っていたのじゃが、何たる僥倖よの。ワシの普段の行いがよすぎるせいじゃな。くはははははは」
 ジジイはこの部屋においてある何かを操作しながら自分で自分事を褒めている。当然意識を失っている俺はそんなの全く気が……

「うるせぇ!とっくに気がついてんだよ!このクソ作者!!ぶっ殺すぞてめぇ!!」
 俺は錯乱してちょっと訳のわからない事を口走ってしまったが、楽しそうに準備をするジジイに向けてガンガンと乗り物の透明な壁を叩く。
「必殺!一般人!オレパーンチッ!!」
 俺の全身のバネを使った渾身の一撃が透明な壁に放たれる。

ガンッ!!!

 当然一般人の力でどうこうできる素材じゃなかったらしく、俺は目に涙をためながら閉じ込められた中を転がりまわる。そんなに広くないので、端から見るとモジモジしていただけだと思うが。

「コレで良しじゃな。これからお主は赤の月レッドムーン射出台カタパルトを使って、あの赤の月までひとっ飛びじゃ」
 ジジイは操作を終えると地下施設の天井が割れて行き、天空に赤い月が浮かんでいるのが見える。そして満足気に俺のほうを見ると、爽やかな笑みを浮かべると聞いていないのに状況説明を始める。

「この赤の月レッドムーン射出台カタパルトはハイテクノロジーの産物で、この長い板の両端のうち一つが、お前が乗っている射出用カプセル。もう片方の上方に重石がセットされているのじゃ」
 俺が上方を見上げてみると、確かに石の塊のようなものが見える。
「で、重石を落とすと、そっち側が跳ねて飛ぶのじゃ」

「最後の説明、雑っ!!意味わかるけど、雑!!」
 説明を解釈すると、ただのシーソーである事がわかる。しかし、コレで赤の月まで飛ばそうとしているのは阿呆の所業としか思えない。

「ほっとくと何するかわからないガキなので早速、カウントダウンじゃ!カウントダウンは第38回全宇宙カウントダウン選手権で見事1位に輝いた犬耳娘のダフールちゃんじゃ!それじゃダフールちゃんよろしく。」

「ただいま御紹介に預かりました、第38回全宇宙カウントダウン選手権で1位に選ばれました、ぢたま出身の犬娘。ダフールだワンワンキラッ
 ダフールちゃんは犬耳娘と呼ばれているが、耳だけでなく顔も間違いなく犬である。性別は女の子みたいだが。常にハッハッ言っていて、口から常にはみ出している長い舌がチャーミングだ。

「おい!そこの不細工な犬!!俺をここから出しやがれ!!」
 俺は犬顔娘に懇切丁寧に労わりを持って声をかける。だが何でが不明だが、ダフールちゃんは激怒してカウントダウンを早める。

「10」
「9」
「ワンッ!」

 ダフールちゃんのカウントダウンに合わせて、重石が俺の反対側の板の上に落ちる。すると反対側の俺は凄まじいGと共にカプセルが射出される。

「ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛!!!」
 俺はあまりのGに顔を引きつらせながら、ジジイに捨て台詞をはくのだった。

「このクソジジイ。いつか殺す!!そして、何てワン!ダフールッッ!!!ダフールッ!!ダフール!……」
 俺の言葉は流星のように尾を引きながら、青の月から赤のつきめがけて飛んでいくのだった。

赤の月レッドムーン射出台カタパルト。別名、ガチャポンの起動成功じゃ」
当然射出されてしまった俺にはそんなの気がつかないが、俺は赤の月めがけて飛んでいくのだった
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