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・・・『集結』・・・

激励壮行会 5

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9階のスカイラウンジは殆どのテーブルと椅子が総て片付けられて、かなり広く感じられる・・報道陣も含めて全員が移動すると手早くシャンパングラスが配られ、エスター・アーヴ総務部長の音頭でグラスが掲げられる・・。

「・・時間がずれ込んでしまいまして誠に申し訳ありませんでしたが、『ディファイアント』と『ロイヤル・ロード・クライトン』の成立とゲーム大会への参加を祝しまして・・乾杯!!・・」

多くのグラスが高く掲げ上げられ、触れ合わせられて飲み干される・・スカイラウンジ内のそこかしこで閃光が湧き起こり、ライブカメラがその模様を捉える・・拍手も沸き起こり笑顔で握手や挨拶が交わされる・・空きっ腹で飲み干すと酔いの回りが速いので、私は少しずつ飲む・・トングと取り皿を取りに行こうとすると、副長が食べ物を乗せた取り皿とフォークを渡してくれる・・。

「・・やあ、ありがとう・・助かったよ・・」

受取ってシャンパングラスをテーブルに置くと、早速食べ始める・・私の廻りでは、『ディファイアント』と『ロイヤル・ロード・クライトン』のメインスタッフや会社の役員や部長クラスの人達が何故か集まって、食べながら飲みながら歓談している・・。

グレイス艦長とリサさんが握手を交わして挨拶をして、グレイス艦長が自分のメディアカードをリサさんに渡している・・3人置いた先でチーフ・カンデルが食べたり飲んだりしているのが観えたので、人の間を縫って歩み寄る・・。

「・・チーフ・・今日は司会じゃないんですか・(笑)・?・」

「・・今日の壮行会で俺の出番は無いよ・(笑)・・」

「・・そうですか・・ああ、営業本部の壮行会ですけれども・・ウチのクルーメンバーから数人、参加しますよ・・」

「・・へえ・?・好いのかよ・?・酒飲む席だし、中にゃやっかんでる奴もいるからな・・変な事言われるかも知れないぜ・・?・・」

「・・大丈夫だそうですよ・・心無い事を言われても、その場を荒立てる事もなく、粋に、格好好く、大人の女性として対応出来なければ、トップ女優ではいられないそうですから・・」

「・・へえ・・そんなものなのかね・・?・・決まったら、人数だけ教えてくれよ・・?・・」

「・・分かりました・・」

「・・こんにちは、エリック・カンデルさん・・アドル艦長がお世話になっております・・」

「・・!・ああ・!?・これはシエナ・ミュラーさん・・こちらこそ多大にご協力を頂きまして、ありがとうございます・・今日も皆さんがご参加下さったおかげで、とても華やかな壮行会になりました・・」

そう挨拶してシャンパングラスを触れ合わせる・・私は2人を興味深く観る・・。

「・・エリック・カンデルさんは、『ロイヤル・ロード・クライトン』に乗られないのですか・・?・・」

「・・声は掛かったのですが、私は船乗りに向きませんので辞退しました・・『ディファイアント』と『ロイヤル・ロード・クライトン』が出航したら、営業本部がものすごく忙しくなると思いますので、ハーマン・パーカー常務と一緒に留守部隊です・・それと私の事はエリックと呼んで下さい・・」

「・・分かりました・・では、私の事はシエナと呼んで下さい・・」

「・・分かりました・・ありがとうございます・・シエナさん・・それで、艦長としての彼はどうですか・・?・・営業社員としての彼しか知らないものでして・・」

「・・エリックさん・・ゲーム大会はまだ開幕していませんが、私達は確信しています・・アドル・エルクさんはきっと素晴らしい艦長になると・・私達はアドルさんと話をする度毎に驚かされます・・本当に素晴らしい人です・・」

面映ゆくて口を挿めない・・ちょっと場所を変えようかな・・?・・。

「・・いや・・私もシエナさんのご意見には同意しますよ・・仕事の上でしか彼とは付き合っていませんが・・比較的に付き合いの長い私でさえ、彼には時折驚かされます・・はっきり言って底の知れない男ですね・・」

「・・チーフ・・何も出ませんよ・・(笑)・・」

「・・出さなくて良い・(笑)・これ以上出されたらこっちが困る・(笑)・・」

廻りで幾つもの笑い声が挙がったので気が付くと、また私の周りに両艦のクルーと役員の皆さんが集まっている・・。

「・・エリック・カンデル・セクション・ファーストチーフ・ディレクター・・貴方があのポストを蹴ったおかげで、私にお鉢が回って来ましたよ・(笑)・・」

エスター・アーヴ総務部長が輪に入って来た・・別に酔っているようでも、嫌味で言っているようでもない・・それどころか満更でも無さそうな表情だ・・。

「・・それはどうも申し訳ありませんでした、総務部長・・ですがあのポストには、貴女が最適任だと思いますよ・・(微笑)・・」

「・・それはどうもありがとう・・褒められたと思っておきましょう・・(笑)・・」

「・・もしかして総務部長が就任されたのは、生活環境支援部長ですか・・?・・だとしたらピッタリですね・・もしも私が総務部長に艦内ポストを提示するとしても、やはり生活環境支援部長への就任をお願いするでしょうから・・」

そう言った途端、周りにいた会社の人達の動きが止まって、ほぼ全員が私の顔を観る・・。

「・・アドルさん・・どうして判ったの・・?・・」と、総務部長・・。

(・・しまった・・喋り過ぎたか・・?・・)

「・・ああ、いや・・勘もあるんですが・・当てずっぽうです・・でも、適任だと思いますよ・・」

「・・ありがとう・・アドルさん・・」    

「・・どう致しまして・・」

エリック・カンデルチーフがシエナ・ミュラーさんに手招きして少し離れた所に移る・・シエナさんはハンナさんに目配せして呼び寄せ、3人で集まった・・私はこの時、グレイス艦長や総務部長やフリードマン副長らと話していて、3人が集まった事にも気付かなかった・・そしてこの時に何が話されていたかについては、ずっと後になって知った・・。

「・・私は仕事の上での彼しか知りませんが、それでも彼が持つ稀有な才能・?・類を観ない特性についてはよく解っているつもりです・・皆さんは彼の笑顔を観ましたか・・?・・彼はあの屈託の無い笑顔で話す相手の心を解して、相手の願望を探り始めるのだろうと思います・・彼には何を任せても、何に取り組ませても予想以上の成果を出します・・それは彼が相手の状態や心を思い遣り慮って、強い洞察力で鋭く先を読み、先回りして対処していたからでしょう・・ですがそんな彼のアプローチ手法を、怖いと感じる人もいます・・私が皆さんにお願いしたいのは、どうか彼を怖がらないでやって欲しいと言う事です・・彼はある意味で、皆さんを愛しています・・彼が艦長としてやる事は、総て皆さんの為だと思います・・どうか、お願いします・・」

「・・エリックさん・・その事でしたら、全く何の心配も要りません・・私達が彼を怖がるだなんて、あり得ません・・アドルさんは私達の一番の望みを最初に叶えてくれました・・それが判った時にはすごく驚きましたし動揺もしましたが、感激と感動が強くて怖いとまでは感じませんでした・・それから今迄私達は、驚きと感動を与えられながらアドルさんと接しています・・アドルさんの愛情を、私達は充分に感じています・・いつかアドルさんの怖い面を観る事が有るのかも知れませんが・・その時には副長である私が彼をフォローしますし、メインスタッフも全員で彼を支えます・・ですからご心配には及びません・・でもお話しして頂いて、ありがとうございました・・」

「・・そうですか・・それなら私も安心です・・もうそこまで強い信頼関係を構築しているとは・・彼が羨ましいですよ・・是非皆さんで長く楽しんで下さい・・改めて、アドル・エルクを宜しくお願いします・・」

「・・こちらこそ、宜しくお願い致します・・お話しできて好かったです・・」

「・・私もです・・うん?・すみません・・ちょっと失礼します・・」

何かを観付けたのか・・エリック・カンデルはそう告げて、2人から離れた・・。

私はグレイス艦長や総務部長らと談笑していたのだが、周りのざわめきが不意に静まったと思うとトーマス・クライトン社長が眼の前に現れる・・リサさんは、私の右後ろにいる・・。

「・・アドル・エルク艦長、艦長としてのご当選、おめでとうございます・・もっと早くに挨拶するべきでしたが、今になってしまいました・・遅くなりました事についてはお詫びします・・先ず、当選を祝して・・乾杯!・・」

「・・ありがとうございます・・そして、このように盛大な激励壮行会を開催して頂きました事についても感謝します・・」

そう応えてグラスを掲げ、触れ合わせる・・。

「・・喜んで頂けて好かったです・・我々が『ロイヤル・ロード・クライトン』としての参加を検討していた時に、貴方にどう思われるだろうかと心配しておりました・・最初は不審にも思われたようでしたが・・今では一程度のご理解を得られていると考えておりますので、その点に於きましても感謝しております・・ともあれ、我々の貴方に対するケアとサポートは、拡充する事はあっても減衰する事はありませんのでご安心下さい・・アドルさんには存分に楽しんで、是非長く活躍を続けて下さい・・」

そう言い終えるともう一度グラスを触れ合わせて飲み交わし、握手を交わした社長は私の右肩に左手を置いて、そのまま手を挙げて離れて行った・・右後ろのリサさんの様子が気になったが、周りに人が多くて注目度も高かったので見遣れなかった・・ハル・ハートリーが私からグラスを受取り、料理を乗せた取り皿とフォークを渡してくれる・・もう少し食べて置く事が必要だな・・。

「・・こんなパーティーの席とは言え、社長とあそこまで話すなんてやっぱりお前はすごいよ・・」

何時の間にか私の左後ろに来ていたチーフ・カンデルが言う・・そうか・・リサさんを観に来ていたのか・・」

「・・艦長に選ばれたからですよ・・選ばれてなけりゃ、1ヶ月前と何も変わりません・・」

そう応えた時に、サリー・ランド女史が私の右袖を引く・・。

「・・アドル・エルクさん・・エスター・アーヴ総務部長・・そしてご一緒に歌って頂けるお二人ですか・・そろそろ10階のステージにお願いします・・それと『ミーアス・クロス』と『リアン・ビッシュ』の皆さんにも、10階の控室に入って頂くようにお願いします・・」

「・・分かりました・・それでは総務部長・・参りましょうか・・?・・パティさんとミーシャさんは・・?・・」

「・・ここにいます・・」

振り向くと、2人置いた右後ろにいた・・。

「・・じゃあ、行きましょう・・副長、彼女達に伝えてね・・?・・」

「・・分かっています・・リラックスして楽しんで・・?・・」

「・・ありがとう・・」

そう言って歩き出す・・シエナ副長はディア・ミルザとアーシア・アルジャントを傍に呼んで、メンバーを連れて10階の控室に入るように伝える・・8人で歩き出して行く彼女達を見送るシエナさんの左側に、ハンナさんが立つ・・。

「・・ねえ・・エリック・カンデルさんて、結構好い人だよね・・?・・」

「・・そうね・・って、どう言う意味よ・・?!・・」

「・・別に・・あんたのタイプじゃないのは分かってるけどさ・・でも好い人だって判ったのなら、話ぐらいしたって好いんじゃない・・?・・私達どうせ・・アドルさんとは結婚できないんだからさ・・」

「・!・ちょっとハンナ!・声が大きいわよ・!・・」

「・・あんたの声の方が大きいわよ、シエナ・・別に嫌なら良いよ・・話をするぐらい、あたしにだって出来るからさ・・エリックさんが妻子持ちかどうかくらい・・訊いて来てあげるわよ・・」

「・・ハンナ・・」

10階の大ホール・・ステージ上では、もうセットアップが済んでいる・・私はセンターやや前の椅子に座り、スタンドからギターを取り上げてチューニングをしながら、自分のマイクとギターの音を拾うマイクの位置を調整する・・パティ・シャノンは私の右側に立ち、ミーシャ・ハーレイは左側に立つ・・2人ともセットされているスタンドマイクが、私よりもやや前のラインになっている・・。

私達以外には誰もいない大ホールは静まり返っている・・セットされているマイク以外にもこのホールには、高性能の集音マイクがある・・発声は少し抑え目にした方が良いのかも知れないが・・まあ好いだろう・・。

ステージ右側の演台を前にして、エスター・アーヴ総務部長が立つ・・。

「・・皆さん・・ここでアドル・エルク艦長により、弾き語りで1曲、ご披露頂きます・・本日は特別に、パティ・シャノンさんとミーシャ・ハーレイさんからもサポート・ヴォーカルを頂きまして、お届け致します・・それではお願いします・・曲は『・・たとえ世界中に嫌われても・・』・・」

私は右手の指でギターの音板を叩いてリズムを採ってから前奏に入る・・歌い出しから強めに情感を掛けて歌い上げ・・そしてたっぷり余韻を残すようにして歌い終える・・聴いてくれている人達の様子が解らなかったのは少し残念だった・・が、一礼をして席から立ち、舞台外から出る・・。

「・・アドルさん・・この前に一緒に歌った時よりも好かったですよ・・歌いながら感動して泣きそうになりました・・」

と、ミーシャ・ハーレイが涙ぐんで握手を求めて来る・・。

「・・私もすごく感動しました・・またアドルさんと一緒に歌いたいです・・アドルさんは本当に歌もお上手です・・歌を出されてもヒットすると思いますよ・・」

パティ・シャノンも右手を差し出して来たので彼女とも握手を交わし、ふたりそれぞれとハグも交わして労をねぎらう・・。

「・・君達もすごく好かったよ・・この前よりもずっと完成度を上げて締め括れたね・・録音しておけば良かったな・・ああでも・・録画されているだろうから、後で貰えば良いな・・」

通路に出た所で、次に出演する『ミーアス・クロス』の4人と行き会う・・。

「・・お疲れ様でした~・・入りま~す・・」

「・・すごく好かったです・・感動しました・・」

「・・すごく格好好かったです・・最高でした・・」

「・・すごく素敵でした・・また聴かせて下さい・・私達も頑張りま~す・・」

「・・ああ!・楽しんで来てよ!・・」

「・・は~い!・・」

「・・元気だねえ・・」

「・・ええ・・『ミーアス・クロス』と『リアン・ビッシュ』は交替でデビュー曲と最新リリース曲を歌うんだそうですね・・?・・」と、ミーシャ・ハーレイが訊く・・。

「・・うん・・彼女達を『ディファイアント』にスカウトできたのは好かったよ・・元気が好いし、華もある・・居てくれるだけで明るくなる・・さ、戻ってもうちょっと食べよう・・」

「・・へ~え・・先輩があんなに上手く歌うとは知らなかった・・こりゃ、営業本部の壮行会と最後の自宅壮行会じゃ歌って貰うしかない・・何を歌って貰うか考えておかなきゃな・・」

と、スコットが嘆息して腕を組む・・。

「・・私も何を歌って貰うか、考えておきますよ・・」

マーリー・マトリンもコーヒーを淹れて持って来ながら応える・・。

「・・それを飲み終わったら昼飯を食いに行こうぜ・・」

「・・はい・・」

スカイラウンジに戻ると拍手で迎えられる・・大型モニターには『ミーアス・クロス』が元気に歌い踊っている様子が映し出されている・・役員の皆さん・・特に女性達が握手を求めて来る・・握手と画像撮影の時間が一頻り終わると、ハンナ・ウェアーが取り皿に料理を乗せてフォークと一緒に渡してくれる・・。

「・・やあ、ありがとう・・」

「・・どう致しまして・・とっても素敵でしたよ・・」

ハンナ・ウェアーさんは、離れしなに周りの皆に観えないようにウインクする・・このあたりのテクニックはさすがと言うしかない・・」

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